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貧乏人は野球を観るな?ヤンキースCOOの発言は格差社会の象徴か

巨人の賭博問題で揺れる日本のプロ野球ですが、海の向こう米国メジャーリーグではチケットの不正転売による収益減が問題になっているそうです。1971年のオリオールズ来日以来のMLBウオッチャーで、日本屈指のメジャーリーグ通である豊浦彰太郎さんは自身のメルマガ「豊浦彰太郎の「Smoke ‘em Inside! 」(内角球でケムに巻いてやれ!)」で、近年のヤンキース戦のチケット値崩れ問題を伝えるとともに、ヤンキースCOOの問題発言に対して自身の考えを述べています。

空席が目立つプロ野球…メジャーでのチケット事情は?

今年球団創立80周年を迎える中日ドラゴンズは3月29日からの「地元開幕シリーズ」3連戦での前売りチケットを約半額で提供すると発表しました。

このシリーズは平日開催なのですが、昨年も平日開催だった地元開幕シリーズでは空席が目立ちました。おそらく、昨年の二の轍は踏まぬようとの措置だと思われます。

しかし、チケットの割引プロモーションはポストシーズン進出が絶望となった球団がシーズン終盤に行う最後の手だと思います。
したがって、今回の中日の発表には「おいおい、開幕からいきなり割引かよ」との思いが拭えません。

と、思っていたらメジャーでもチケットに関する興味深い話題が飛び込んできました。
そして、その主役はあのヤンキースです。

ヤンキースのチケット販売で不正行為防止の試み

2月17日、ヤンキースは今季より公式ホームページでのチケット販売において、「プリント・アット・ホーム(以下PAH)」のサービスを終了すると発表した。今後はトラディショナルな紙チケットを手に入れるか、またはモバイルサービスでの入場となる(ケータイでピっとやるアレだ)。

表面的には、ヤンキースは今回の措置の目的は「PAH式に起因する不正行為を防止するため」と発表している。

しかし、その真意は再販市場でのスタブハブ(StubHub)締め出しにあるようだ。スタブハブではPAHでのチケットが主流となるため、PAHサービス終了によりヤンキース主催試合チケットのスタブハブでの流通が激減することは間違いない。

実はここ数年、ヤンキース戦のチケットがスタブハブで正価を下回る価格で取引されることが目に付くようになっていた。
このことはヤンキース戦チケットの値崩れであり、球団はこれが気に入らなかったようだ。

一方で、球団のオフィシャル再販ルートであるチケットマスターでは、その設定価格に下限が設定されており、正価を下回る価格で売買することはできない。また、ここで売買できるチケットは電子チケットのみなのだ。

要するに、PAHサービス終了の目指すところは再販手数料収入の流出防止であり、正規価格を下回るチケットを流通させないことなのだ。

ここまでは理解できる。しかし、Yahoo! Sportsのシリーズコラム『ビッグリーグ・シチュー』によると、年配客の多くは電子チケットに親しんでおらず、PAHならともかく電子チケットでの取り扱いを求められると、結局チケット購入を見合わせるのではないか?との懸念もあるようだ。

正直なところ、私(52歳)もイベントへの入場や飛行機のセキュリティチェックなどでのチケット確認で、「ピッ」とやったことは一度もない。これによりチケットの販売総量自体が低下するかどうかはわからないが、少なくともファンサービスの観点では感心しない。

これだけでもファンには歓迎され難いことではあるが、球団COOロン・トロストの「差別発言」とも捉えられかねない不用意なコメントが火に油を注ぐとこととなった。

「正規価格で高い価格帯のチケットを買ったお客にとって、隣にそれを下回る価格で買った人物が座っているのは面白くないものだ」

高額なチケットは特権性や優越感に対してカネを払っている

高いことでは定評(悪評?)があるヤンキー・スタジアムのチケットとほどではないが、私にも似たような経験がある。
2013年のWBC、サンフランシスコでのファイナルラウンドでのことだ。

この時は、販売開始直後に準決勝2試合&決勝戦で322ドルの通しチケットを購入した。
ところが、その約2ケ月後にサンフランシスコに乗り込むと、どの試合のチケットも私が購入した価格の1試合当たりの金額の半額以下で正々堂々とMLB.comで販売されていた。
正直なところ、私の隣の席に座っているお客が本来の価格の半額以下でその席を購入しているかもと考えると、心おだやかならぬものがあった。

私の経験は単に「オレが払った金額と割引客の払った額の差をどうにかしてくれよ」というだけだが、トロスト発言にはもうひとつ興味深い点がある。

金持ち客は隣にビンボー人が座っていることを快く思わない」ということは、高価な席は排他性という価値観も正価での購入客にオファーしているということだ。

確かに、エクスクルーシブネスは大事だ。閉鎖的なメンズクラブなどでは「格下」と思われるメンバーが増えると、トップクラスのメンバーは離れていく。
球場でも、高価な席を買う客は「そこならゲームが良く見える」ということだけでなく、特権性や優越感に対してもカネを払っているとも言える。

ビジネスマンとしてはトロストの視点は全く正しい。しかし、表現と場が適切ではなかった。
貧乏人差別と捉えられても仕方ない表現だった。

image by: CristinaMuraca / Shutterstock.com

 

メルマガ『豊浦彰太郎の「Smoke ‘em Inside! 」(内角球でケムに巻いてやれ!)

著者/豊浦彰太郎
1971年のオリオールズ来日以来のMLBウオッチャー、豊浦彰太郎がその魅力をディープにお伝えいたします。かつて衛星放送のMLB中継の解説者を6年間務め、現在は専門誌『SLUGGER』に寄稿する傍ら、J SportsのMLBホームページにコラムを掲載させていただいています。本業は野球とは何の関係もない会社員です。プロではないからこその何のしがらみもない忌憚のない主張、TV観戦のツボ、知られざる歴史、現地観戦旅行のコアなTIPS、いままで訪れた数々の野球博物館や球場跡地・・・並みの情報では満足できなくなった「病膏肓に入った」アナタにお届けします。
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