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もし日本が「核を持つ」と言ったら、世界は反対しないのか?

先日、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で北野幸伯さんが書かれた「日本の核武装、アメリカは本当に許すつもりなのか?」という記事をご紹介しましたが、この意見について著者のもとに賛否両論、非常に多くのメッセージが届いたそうです。今回北野さんはその中から「核武装賛成メール」を取り上げ、「もし日本が核武装するとなったら世界はどう動くのか」について真摯に回答しています。

日本が核武装しても「ほとんど問題は起こらない論」について

前号で日本の核武装について触れました。まだの方は、是非ご一読ください。

日本の核武装、アメリカは本当に許すつもりなのか?

結論だけ書くと、

とまあ、こんな話でした。

この件、「賛成」「反対」、本当に多くのメールをいただきました。日本の未来や安保について真剣に考えている読者さんが多く、とても嬉しく思いました。

今日は、「Tさま」からいただいた「核武装賛成メール」に回答させていただきます。Tさまは、「核武装しても大して問題は起こらない」という意見です。

日本の核武装に「反対しない国」は「多い」?

戦前の独立国はほとんどが白人国家でした。そのため日本は孤立していましたがいまは非白人国家のほうが多くなっています。

 

核武装により日本が世界から孤立するでしょうか。

(Tさまのメールから)

Tさまの意見では、

これ、どうなのでしょうか?

まず世界の構造からお話しましょう。世界の問題を決める最大の機関といえば、「国連」ですね。国連の中でも特に重要なのは、2つです。

国連総会は、全加盟国が参加できます。ここでいろいろな問題が協議され、多数決で決議が採択されたり、採択されなかったりします。非常に重要なのですが、

はっきりいえば、ある国が総会の決定に従う義務はないのです。

では、「国連安保理」はどうなのでしょうか? 安保理は、「常任理事国」5か国と、「非常任理事国」10か国から構成されます。ここ、とても重要なポイントです。

つまり、安保理の決定には、すべての加盟国が従う義務があるのです。

別の重要なポイントを見てみましょう。常任理事国5か国、すなわち、

には、「拒否権」があります。つまり、自国に都合の悪い決定は、「拒否」することができるのです。

以上まとめると、

こういう国連の構造をみれば、

という「事実」が見えてきます。これはどういうことでしょうか?

「非白人国家が多いので、日本は核武装しても孤立しない」というのは、「感情的なレベル」である。「法的なレベル」では、「国連安保理常任理事国以外の国々には何の決定権もない」のです。つまり、「非白人国で影響力をもつのは、常任理事国・中国だけ」ということになります。ご存知のように、中国は世界一の反日国家ですから、もちろん日本の核武装を許さないでしょう。

もう1つ、「非白人国家が日本の核武装に賛成するか?」といえば、「そんなことはないだろう」と思います。なぜでしょうか?

全世界の実に190か国が、「核拡散防止条約」(NPT)に参加しています。つまり190か国が、「これ以上核兵器保有国を増やさないこと」を支持している。自らが調印し参加したNPTを破って、「公的に日本の核武装を支持する」。そんな国が存在するとは思えません

日本は、イランと比較的良好な関係ですが、イランの核兵器保有を支持しますか? もちろん支持しません。自分がやらないことを、他国に期待するのは、無理があります。

インド、パキスタンは核兵器保有したから、日本も大丈夫?

インド、パキスタンは核を持ちましたが、制裁措置を受けていません。オーストラリアは当初、インドに対し、ウランの輸出を禁止しましたが今ではインドにウランを輸出しています。

(Tさまのメールから)

これは、そのとおりです。インドは、1974年と1998年に核兵器実験を行っています。パキスタンは、1998年に核兵器実験を行っています。「だったら日本だっていいじゃないか!」と思えますね。

しかし、インド、パキスタンと日本には、大きな違いがあります。インドとパキスタンは最初からNPT参加していない」のです。条約に調印していないので、そもそも「NPT」の決まりを守る義務がありません。

では、日本が目指す「NPTに参加していたが『脱退』して核兵器保有国になった国」はあるのでしょうか? 1か国だけあります。北朝鮮です。

日本が「NPT」を脱退して核保有国になれば、「北朝鮮と同じことをした」ことになります。もちろん北朝鮮のように孤立北朝鮮のように制裁される」ことでしょう。

日本に経済制裁はできない???

日本は世界3位の経済規模を持っています。これは世界各国から多くの物を輸入しているということです。禁輸によってむしろ今まで日本に多くの物を輸出していた国のほうが困ることになります。

(Tさまからのメールから)

「日本はGDP世界3位の大国なので、経済制裁など無理

ところで、2010年9月、「尖閣中国漁船衝突事件」が起こりました。この時、中国は、サクッと「レアアースの禁輸」を決めています。これも、一種の経済制裁ですね。日米欧豪は現在、世界有数の資源大国ロシアに対し経済制裁を続けています。

「経済制裁」のすごい(?)ところ。それは、「自分たちが損をする部分は制裁リストから外すことができる」ということです。「日本が輸入をしなくなると、世界が困る」というのなら、「日本の輸出は禁止、日本の輸入は、制裁する側が困るのでOK」と自分たちでルールを設定することができる。「日本の輸出を禁止したら困る」ということであれば、「輸出したら困る品目だけリストから外す」こともできるのです。

要は、「制裁する側はあまり困らない」「日本だけが困る方法で制裁できるということです。欧州はロシアに経済制裁していますが、ちゃっかりロシアから原油とガスを輸入し続けています。つまり、「日本に制裁したら、世界が困るから制裁しない」ということにはならない。「日本だけが困り俺たちはあまり困らない制裁をしようとなるでしょう。

産油国は、日本への原油輸出をやめない?

イランは反米国家なので日本に石油を輸出することはやめないでしょう。また、中東の産油国は日本に輸出できなければ自分たちが困るので禁輸に賛成しないと思います。

(Tさまのメールから)

イランも中東産油国も、「禁輸はしない」。もう一度「国連の構造」を思い出してみましょう。国連安保理の決定は、「法的拘束力」を伴います。ですから、安保理が決めたら、全世界が従わなければならないのです。安保理が日本に石油を輸出するな!と決めたらそうしなければなりません

日本に金融制裁はできない?

金融制裁もできないのではないでしょうか。日本は海外から借金はしていません。すべて日本国内で資金を回しています。むしろ日本がアメリカ国債を買わなくなれば困るのはアメリカです。以前、橋本首相がアメリカで米国債の売却に言及したところ米国債が暴落して金利が跳ね上がり、ニューヨーク証券取引所の株価が一時急落したことがありました。

(Tさまのメールから)

「金融制裁」の一種に「資産凍結」があります。つまり、資産の処分を禁止するのです。米国債は、アメリカの借金で、日本の資産です。「核武装で世界秩序を壊そうとする日本が米国債を売ることを禁止する!」とアメリカが決意すれば、英仏中ロは支持することでしょう。

問題の本質は?

「核武装問題」の本質はなんでしょうか?

日本は、「中国の脅威」があるので、「核武装」したい。ところが「核武装」すると、中国だけでなく、アメリカ、全世界を敵にまわしてしまうリスクがある。そういうことなのです。

ところで、なぜ戦前日本は満州にこだわったのでしょうか? そう、ロシア(後にソ連)の南下を恐れたからです。ところが、満州に固執するうちに、いつの間にかアメリカとイギリスも敵にしてしまった。1933年、国際連盟で「満州国建国」を支持する国は日本以外になく、結局脱退に追い込まれます。こうして日本は、世界的に孤立し、「破滅への道」を歩み始めたのです。

戦前、戦中の重要な教訓はなんでしょうか?「孤立すれば破滅する」です。「核兵器さえもてば、すべて解決」という思考は、「満州国はわが国の生命線」と決めていた思考によく似ています。

 

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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