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元少年A「絶歌」出版騒動で注目される「サムの息子法」とは?

神戸連続児童殺傷事件の加害者が「元少年A」として出版した「絶歌」が賛否両論を巻き起こしています。その議論の中で注目されているのが「サムの息子法」なるアメリカの法律ですが、いったいどのようなものなのでしょうか。無料メルマガ『知らなきゃ損する面白法律講座』で現役弁護士が解説しています。

「元少年A」の手記出版で注目されている「サムの息子法」とは?

神戸市で1997年に起きた連続児童殺傷事件の加害男性による手記が発売され、早くも重版が出されることが決まっています。これについて、被害者の遺族の了承がないまま販売されたことから、批判の声が高まっています。書店によっては取り扱わないことを決めたところもあれば、注文を受けたものだけ取り扱い、店頭には並べないといった措置をとるところもあるようです。消費者の間でも、手記を買わないように、さらには手記を取り扱った出版社の他の書籍も買わないようにといった不買運動も広がっているようです。

このような状況下で、アメリカの法律である「サムの息子法」を日本にも制定すべきであるという声が高まってきています。そこで、今回は「サムの息子法」とはどのような法律なのか、見てみたいと思います。

サムの息子法(Son of Sam Law)は犯罪加害者が犯罪を題材とする著作に関する権利を出版社や映画制作会社に販売して利益を上げることを禁止する法律を言います。制定している多くの州では、犯罪加害者が出版社や映画制作会社から得る利益を押収して、被害者のために運用することになっています。

この法律の名前は、1976年から1977年にかけてニューヨーク州で連続殺人事件をおこした「サムの息子」と名乗った犯人に対して、出版社が多額の報酬を提示して手記を書かせて利益を上げようとしたことが問題視されたことに由来します。犯罪者による罪のビジネス化を防ぐことと、被害者及び遺族の救済を目的とする法律であると言われています。

日本においては、犯罪で得たものに関する規定としては、刑法19条が犯罪によって得た物や犯罪行為の報酬として得た物について没収すると定めています。しかし、自らの犯罪行為を手記として出版して得た利得についてはこれらの条文には該当しません

>>次ページ 日本版「サムの息子法」制定は可能なのか

では、この法律と同じような法律を日本でも制定することができるのでしょうか? 表現行為を規制する法律になりますので、憲法が重要な権利として保障する、表現の自由(憲法21条1項)との抵触が問題となります。

1997年にニューヨーク州で成立した当初のサムの息子法は、連邦最高裁で違憲判断が下されました。被害者への補償を確実にする・犯罪者が犯罪から利益を受けないようにするという点などは肯定できるものの、犯罪そのものを言及したわけではない表現活動についてもサムの息子法が適用されるのは規制として広すぎて、表現の自由に対する侵害であるというのがその理由です。違憲判決を受けて、サムの息子法は没収の対象を犯罪行為に直接関連する収益に限定するという改正が行われました。

日本においても、被害者への補償を確実とすることと等を目的とした上で、没収する対象を厳密に定めれば、必要以上に表現の自由に対する侵害にならないと考えられますので、制定することは可能かもしれません。

2011年に犯罪を犯した男性が逃亡生活を手記にして、印税1,100万円を得て、税引き後の金額を被害者の遺族に渡そうとしましたが、被害者の遺族は犯罪をネタにして金儲けをしていると嫌悪感を明らかにされ、受け取りを拒否されています。

遺族の方を苦しめるような手記の出版は、たとえ補償のためという気持ちから行った行為だとしても、控えるべきではないでしょうか。

image by: Shutterstock , Amazon

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