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町工場の火を消すな。新技術崇拝と職人軽視に明るい未来はない

今、世界中でその是非について論じられている「人工知能の開発」。日本でも最近になって、ソニーが米国企業の人工知能開発に資本参加することを発表しました。近い将来、「職人技」などという言葉は存在しなくなってしまうのでしょうか? 無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』では日本の「科学信仰」を取り上げ、人間の知恵、職人の技を軽んじることの危うさを指摘しています。

科学信仰と職人業(わざ)

最近の日本はITやスペース(宇宙)、三次元製造など新しい技術が次々と紹介され、その素晴しさに目の色を変えて追い抜こうとしているようにみえる。その半面で昔ながらの町工場の技術を軽んじる風潮が目につく。

たしかにいま流行の最先端技術は「えっ」と驚くようなことをやってのける。昔の町工場ではとても考えられないようなものをいとも簡単に作ってしまうように見えるのだ。しかし、その最先端技術を知り抜いているように見える大企業や大学でこれまた考えられないようなミスや不正が相次いで起こっているのはなぜなのだろうか。

最近起きた不祥事だけを数えあげてもキリがないほどだ。三菱自動車工業では、何と車の販売の目玉とされる燃費効率問題でリッターあたりの走行距離を不正表示との発表があった。しかも20年近くにわたって行なわれていたというから開いた口がふさがらない。

昨年の不祥事ランキングでは、製造業に限ってみても旭化成建材・三井不動産の傾きマンション、マクドナルドの異物混入、東芝不正会計、東洋ゴム工業の免震ゴム偽装、タカタエアバッグ異常破裂問題などが続き、製造業以外でも東京五輪のエンブレム問題、日本年金機構の情報流出、読売巨人軍の野球賭博などが連日メディアをにぎわせた。海外でも製造業大国のドイツでフォルクスワーゲンの排ガス不正問題などが明るみに出ている。

世界はいま先に述べたようにITや三次元製造技術、宇宙関連、医療、健康などのバイオ技術分野の競争で血眼になっている。新技術を導入することで競争力を高め、企業知名度もあがり、人件費を削減できてコストパフォーマンスが良くなるという信奉まで出来上がっているように見える。しかしいくらすごい技術革新ができてもそれを使いこなせなければ、かえって不祥事のタネにもなってしまう。

群馬大学医学部では新技術を導入したが医師の技術が未熟で何件もの治療ミスによる死亡事故が明るみに出た。最近の手術は、最新技術を使う場合、患者の内臓を見るのではなく、内蔵の細部まで映し出す映像を見ながらメスを使うと聞いた。たしかに人間の肉眼では見えない部分まで表裏、前後から立体的に映る映像で手術した方が、一見安全確実のように考えがちだ。しかしメスを持つ医者の技術が未熟だったり画面を見る眼力が不足していれば医療事故は簡単に起こってしまうのだ。

新しい技術、機器は魅力的だし人間の力が及ばなかった部分まで解決してくれるように見える。天皇陛下を手術した順天堂大学の天野篤医師は最新機器を使いこなすことで有名だが、その手術例は年間約500件もある熟練、練達の師でもあった。だからこそ天皇陛下の医師団は名ではなく本物の技能のプロである天野医師にあえて白羽の矢を立てたのだと思う。

ここ数年に発生した大企業・大病院などの不祥事は、技術科学機器への信仰に走りすぎた結果なのではないか。大型レンズ磨きの最終点検、仕上げは機器やITに任せるのではなく、最後はベテランの職人さんの長年の勘、腕に頼るケースが多いと聞く。人口知能が流行し、人口知能が幅を効かすようになると無用となる職種はかなり増えるといい、最近はその特集が目につく。

一見、効率がよく人間より優れているように宣伝されているが、やはり人間あっての人口知能の利用だろう。人口知能と世界最強棋士の将棋の大局では人口知能が勝利数を多く上げた。しかし人口知能に蓄積された無数の例題にはない意表を突いた勝負手にはあっけなく人口知能が投了したという。人間の知恵職人の技などを軽んじてはいけない

(電気新聞 2016年5月30日)

image by: Shutterstock

 

ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」
ジャーナリスト嶌信彦が政治、経済などの時流の話題や取材日記をコラムとして発信。会長を務めるNPO法人日本ウズベキスタン協会やウズベキスタンの話題もお届けします。
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