MAG2 NEWS MENU

トヨタを成功に導いた、ドラッガーも賞賛する日本の「非常識」

日本人の「控えめで人に合わせる」という性質は「農耕民族のDNAによるもの」などとも言われますが、一部の経営者はこの「日本人独自の性質」を嫌って、アメリカなど他の先進国の経営手法などを積極的に導入しています。しかし、無料メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』の著者・浅井良一さんは、無理に風土の違う経営スタイルに飛びついても良い結果には結びつかないと警鐘を鳴らしています。

国民性と「経営スタイル」

日本の常識世界の非常識』」と言われることがあります。この言葉を何気なく聞くと「謙虚」な日本人は「世界の常識」に合わせなければならないと考え込んでしまうのですが、ドラッカー(経営学者)は、この日本の非常識を高く評価していました。「世界の常識」にない強みあるからこそ、不安が増すと円高に振れます。

一頃、アメリカの合理性を見習って強い経営を実現しようということで「成果主義評価制度の導入が流行しました。そしてこれが「戦略的判断」とされました。日本の「非常識」の持つ戦略的「強み」を知らずして、吟味もしないままにアメリカの「常識」を導入するのは合理的なのかと疑われます。

今でも成果主義は行われていますが、いろいろ修正がなされているようです。どこの国もそうですが、日本にも独自のメンタリティーがあります。風土のためそうなのか農耕を行い始めてからそうなったのか分かりませんが、和しやすく「道楽」なのか「匠」のDNAなのか、物欲とは異次元でモノづくりを行うといった「凝り性」な面を持つようです。

最近、日本で経営(生活)基盤の持とうとする中国の方も増えてきています。それらの中国の方との接点で印象深いのは、自己中心の論理展開とその単刀直入な金銭感覚です。その方たちに「日本の商慣習」を「取引する場合には、お金を出したからと言って、すぐに相手にしてくれると限りませんよ」と説明します。

その時に、言うに言われぬもどかしさを感じてしまいます。合理的には「お金を支払うのだから売らないのはおかしい」はずです。しかし、日本の商慣習ではお互いが信用しての利害関係の構築を求めます。望むのは長期の安定した信用できる相互関係です。今は崩れる傾向があるのですが、ここから生まれたのが「系列」でした。

この日本の独自な性向は、とうぜん日本人の多くが持つところのものです。報酬を得るにしても業績を上げるにしても突出すると後ろめたさを感じたり、例え有能であっても「出る杭は打たれる」のたとえ通り謙虚さのない欧米流の個人プレーでは嫌悪されます。ただしグローバル化がすすむと、虚弱な「個」では対応できないのですが。

中国人やアメリカ人には、この日本人の「メンタリティー」はないでしょう。自身が評価されるように「過大に自己主張して、少しでも高い評価を得ようとし他と競い合います。そうしなければ職にありつけずまたより豊かな生活をありつけないためで、お互いがこのルールで競うので後ろめたさはないようです。

話を改めますが、トヨタ自動車の業容は群を抜いていますが、その理由がトヨタの生産方式つまりTQM総合的品質管理)に負うところが大です。このTQMが業績アップに貢献するのは明確なのですが、すべての企業で有効に機能しているとは言い難く、さらに言うとアメリカ企業では経営風土がが違うので特にそうであると指摘されています。

トヨタの業容をアップさせているもう1つの主役であるジャスト・イン・タイムカンバン方式)に至っては、多くの日本企業が採用したのですが成功した企業はほとんど皆無と言われています。ところがこの方式については、アメリカでは「リーン生産方式として注目されあらたな経営手法にもなって違う展開がはかられています。

ここで言いたいのは、バックボーンとなる企業文化・風土、さらに組織形態等を無視した経営スタイルに飛びついても成果が出ないということです。経営学者のドラッカーは、弱みの修正よりも強みの強化が戦略的な判断だと指摘しています。そうであるので、和の気質や自社独自の強みを活かすことが戦略となります。

また話を一変させますが、日本とアメリカは「マネジメント」において興味深い関係があるように感じられるのです。アメリカが好調であると日本がその要因である「マネジメント」を真似ようとし、逆であるとアメリカが真似ようとします。ところが面白いのは、自国流に工夫して変容させることです。

先に述べたトヨタのTQM(総合的品質管理)は、アメリカの統計学者であるデミングが1950年に行ったSQC統計的品質管理のセミナーがその始まりでした。アメリカの先進の管理法を導入したのですが、ところが当のアメリカでは全く注目されなかったものだというのは皮肉なことです。

このTQMは日本が飛躍的に成長を果たした原動力であったので、後のアメリカで評価されたのですが「日本的ボトムアップ型TQM」はアメリカの風土にそぐわないという結果となっています。経営学者のドラッカーは「TQM」は日本だから成功したもので、ここで日本の非常識の特殊性を称揚しています。

image by: ricochet64 / Shutterstock.com

 

戦略経営の「よもやま話」
著者/浅井良一
戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。
<<登録はこちら>>

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け