ユニクロの業績不振が各メディアで報じられています。ファストファッションの旗手として業界を牽引してきた同社は、このまま沈んでしまうのでしょうか。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』ではユニクロが次々と打ち出した3つの「新しい方針」を紹介しつつ、復活の可能性を探っています。
ユニクロは生き残れるのか? ~デジタルユニクロが求めること
ユニクロとGUを持つ「ファーストリテイリング」が苦戦している。ニューズ・ウィーク日本版によると
2016年8月期の連結業績予想を下方修正し、国内ユニクロ事業の低迷に加え、米国ユニクロ事業の不振などを織り込んだ。
高級デニム「Jブランド」事業などで減損損失も計上する。営業増益予想は一転、5年ぶりに営業減益となる見通しとなった。この結果、グローバルブランド事業も含め3事業そろって営業減益となる見通しだ。
とある。先日の、ギャップ傘下の「オールドネイビー」の撤退が示している通り、低価格路線の「ファストファッション」と呼ばれるブランドが乱立し、競争も激しくなってきている。
しかし、H&MやZARA、しまむらといったファストファッションブランドと、ユニクロの違いは、「流行よりも機能性」を追求してきた点にあった。ヒートテックや、エアリズムは、その最たるものだ。新しいコンセプトの機能を自社製品に取り入れ、低価格で販売してきたのがユニクロの路線だった。しかし、この「低価格」訴求の部分が、激しい競争に晒されることによって、立ち行かなくなってきたのである。
セール合戦から抜け出すファーストリテイリングの次の一手
そんな中、ファ-ストリテイリングは、次々と新しい方針を打ち出している。
まずは、顧客の利便性の追求。「デジタルユニクロ」と呼ばれるネット通販の拡大がそれにあたる。日経MJによると、ネットでの販売比率を、30%以上にするという目標を掲げているとのこと。
ユニクロは、インターネットの自社サイト上で、顧客に「個別対応できる仕組み」を入れていくということらしい。セミ・オーダーに近い感覚で、服を選ぶことができるとのことだ。これまで、ネットで服を販売する企業が、「面倒だ」ということであまりやってこなかったことである。
ファーストリテイリング傘下のGUでは、リアル店舗に「おしゃリスタ」と呼ばれる店員さんがいて、お客様と会話をしながら、お客様に合ったコーディネートを提案する、といったサービスを提供しているが、このネット版といったところかと思われる。
こうなると、今注目されている、ショールーミングの逆の、「ウェブルーミング」~お客様がネットで情報を仕入れて、リアル店舗に行く、という流れを作ることができてくる。
ユニクロ最大の強みは、「充実したリアル店舗」にある。立地条件や、流通網、そして銀座店においては、多言語に対応できるスタッフなどなど、他社がマネできない資産を持っている。ここに、デジタル戦略が付加されれば、さらに強固なエントリーバリアを築くことができそうだ。
ユニクロのネット通販において、「顧客が欲しいカスタマイズされたサービス」と、「欲しいときに翌日には手に入るという便利さ」が、付加されるのだ。
ITの進化が、便利さを加速させている中で、消費者が「当たり前だと思っていること」もどんどん変わっていく。この市場と消費者の気持ちの進化に、ファーストリテイリングは、乗っていくことができれば、それは大きな勝機になる。
前述したように、「自社側での手間が多少かかってもいいから、顧客の利便性を追求する」という方針を、競合はなかなか真似できない。特に、ネットを中心としている企業にとっては、大きな脅威になりそうだ。
第2は、デジタルユニクロに伴い、流通網も再整備するとのことである。
2016年秋をめどに、インターネット通販で受注した商品を、「翌日まで」に配達する体制を全国で整える。
物流システムを刷新して発送業務を大幅に効率化し、従来は2~5日かかっていた配送期間を短縮する。
(日本経済新聞より)
即日配送は、本やCDでは当たり前になってきたが、服ではまだこれからだ。ネットで服を買うことは、かなり浸透してきてはいる中で、こういった消費行動の変化に対応できれば、ネット通販の利便性が高まり、ユニクロとしては、新しい顧客の獲得につながるだろう。
3つ目は、「ファッション性」を高めていくこと。ユニクロは、ニューヨークを拠点に活躍する英国生まれのファッションデザイナー、ハナ・タジマ氏とのコラボレーションライン「HANA TAJIMA FOR UNIQLO (ハナ タジマ フォー ユニクロ)」を、6月30日(木)から東京・大阪の4店舗と、ユニクロオンラインストアで発売する。
私も早速サイトを見てみたが、これまでのユニクロにはなかった、ゆったりとしたシルエットの、「着心地」を重視したデザイン。アラビアンナイトに出てきそうな、涼しげでゆったりとした、スタイルのラインアップを新しく展開していく。
ユニクロのブランド・ラインアップに、新しいテイストが加わったことで、新しい顧客層を取り込むことができそうだ。
これからのファーストリテイリング
柳井正会長兼社長は、その会見で、不振が目立つ国内ユニクロ事業については、「粗利益率の低下と経費のコントロールが課題」と指摘。組織改革を実施することを明らかにし、「人員は足りないくらいなので減らすことはない。組織の形を大幅に変える」と、発言をしたとのことである(ニュース・ウイーク日本版より)。
オールドネイビーの日本撤退も、GUにとって追い風といえる。私もオールドネイビーは好きなブランドだが、アメリカから直輸入ということもあり、テイストは典型的な「アメリカンカジュアル」。同様に、外資系のプチブラのH&MやForever21も、日本人好みにある程度のカスタマイズをしないと、低迷し日本撤退もあるかもしれない。
そんな中での、この柳井氏のコメントは、起業家マインドに溢れる、前向きさを明示している。
ファーストリテイリングから中小企業が学ぶこと
今回のファーストリテイリングの状況と、経営者としての柳井氏がとった動きから、私たち中小企業が学ぶべき点を、以下に3点あげてみる。
1. 低価格路線はやはりNGである
価格での勝負は、営業利益も悪化させるし、何よりマネされやすい。戦略なき、低価格設定や値引きをするのはやはりよいことはない。
2. 自社だけが勝てる場所(=ドメイン)を見直す
ユニクロがすべきことはデジタルでの販売ではなく、デジタルを活用する、ということ。今流行っているからといって、安易にデジタル、ネットに切り替えるのではなく、総合的に勝てる場所を探すべき
3. リスクをとり新しいことにチャレンジ
柳井氏の言葉にあるように、逆境にたったときこと、手を打つべき。リスクテイクは、なかなかできないが、心の持ちようを学びたいところである。
image by: March Marcho / Shutterstock.com
『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』より一部抜粋
著者/理央 周(めぐる)
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