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遊べる本屋はどこ行った? 失速「ヴィレッジヴァンガード」の矛盾

ユニークな品揃えでコアなファンを持つ、書店らしくない書店「ヴィレッジヴァンガード」が苦戦を強いられています。「サブカルの聖地」とまで言われた同店に一体何が起きているのでしょうか。自らも「ヴィレヴァン」のファンだという、メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』の著者でMBAホルダーの理央周さんが探ります。

ヴィレッジヴァンガードは立ち直れるのか? ~遊べる本屋復活へ

私の地元・名古屋に本社を置き、ユニークな書店として全国展開している「ヴィレッジヴァンガード」が苦戦している。ヴィレッジヴァンガードといえば、「遊べる本屋」のコンセプトのもと、ユニークな品揃えとオリジナリティ溢れる店内の装飾などで、独自のポジションを築き上げてきた。

しかし、私がよく行っていた名古屋の本山店が、昨年3月に閉店。一般の書店にはなかなか全巻揃っていない漫画の名作、「ジョジョの奇妙な冒険」を大人買いしたことなどもあり、閉店を残念に思っていたところに、

同社は8月1日、エスニック雑貨を販売する子会社のチチカカを、金融情報配信会社フィスコ(ジャスダック上場)の親会社であるネクスグループに売却した。チチカカはこの2年間、ヴィレヴァンの業績の足を引っ張ってきた赤字子会社だ。

 

これに伴う処理で、ヴィレヴァンは2016年5月期の連結決算で43億円もの最終赤字を計上。結果、数年前まで5割を超えていた自己資本比率は26.3%に低下。2012年12月末時点で140億円近くあった利益剰余金は、2度の最終赤字でほぼ半減、今回の処理で31億円にまで減った。

(東洋経済オンライン)>

などと、決算に関し苦戦している様子の報道も多い。

ヴィレッジヴァンガードという「店」

ヴィレッジヴァンガードといえば、私が社会人2年目の時に、名古屋市天白区に第1号店ができた。その店をたまたま見つけふらっと立ち寄り、最初入った時に「これは雑貨屋なのか、それとも本屋なのか?」と感じたことを覚えている。まるで倉庫のような店内に、本好きの私は本屋というよりも、なにか「ゲームセンター」にいるような感覚を感じたものだった。

今でこそ遊べる本屋的な店は多いが、ヴィレッジヴァンガードは、その創始者であり、今でも総本山であると言える。サブカル好きにとってはまさに聖地」なのだ。

今でも、店に行くと独特の黄色いPOPに、手書きで書いてある、独特なフレーズのキャッチコピーが素晴らしい。あのPOPを見ているだけでも、楽しくなってしまうことは今も変わらない。

ヴィレッジヴァンガードは顧客に何を提供しているのか?

私も個人的に大好きな書店であるヴィレッジヴァンガードを、マーケティング的に分析してみたい。

そもそも、ヴィレッジヴァンガードの事業コンセプトは何なのか? 何をもって、誰を幸せにしたいのだろうか? それは「本屋」でもなければ、「雑貨屋」でもない。ホームページにあるように、

One&Onlyの独創的な空間」を提供すること

なのだ。このコンセプトを核にして、独自な空間を演出する、店内の装飾やPOPなどは、各店舗の自由意志で開発されているため、各店舗での独自性はぶれることなく続いているのだ。

店舗で何をやるのか、という「施策」は星の数ほどある。店長の裁量で決めれば良いし、集客のための広告やPRも、経験値やその逆の突飛なアイディアを採用してもいい。しかし、それらが当たるかどうかは、「事業コンセプト」からぶれないかにかかっている

ヴィレッジヴァンガードは、もちろん書店として、または雑貨店として、物を売ることで収益をあげる。しかし、「売ろうとすると、消費者は引いてしまう。「楽しく過ごせる」場を提供することで初めて、「ヴィレッジヴァンガードに行こう」という気持ちになるのだ。

ヴィレッジヴァンガードが抱える量と質の矛盾

一方で、上場することでステークホルダーが増えると、成長が課され、事業を拡大することでの利益追求が求められる

ヴィレッジヴァンガードは「小売業」なので、拡大とは店舗数を増やすことになりがちだ。店舗数増大にともない、各店舗を任せる最も重要な経営資源の「人」も、拡充しなければならない。

サブカルというのはそもそも、メジャーではなく、良い意味での「アンダーグラウンド」なので、数量的に拡大していくと、店舗を担う人材の質がまちまちになり、ひいては店舗のインパクトも薄まってしまう。サブカル的な独自性と、数量的な拡大は、えてしてトレードオフ相反することが多いのだ。

しかし、ヴィレッジヴァンガードに関しては、先の本山店の閉鎖にもあるように、不採算店に対する見切りのスピードも早いようだ。経営にとって一番難しいのは、創り出すことではなく、撤退すること。この点において、ヴィレッジヴァンガードの戦略は今も素晴らしいと言える。

商品開発はどうだろうか? 小売業にとって、その店にだけある「商品」は、その店に行く最大の「理由」になるので、ある意味で、「命綱」と言える。ヴィレヴァンの新商品に関して、ここ最近の報道を見ていると、やはり積極的に新商品開発をしている情報が多い。はやりのPPAP、ピコ太郎さんとのコラボTシャツや、はなまるうどんとの共同企画、小田急電鉄との電光掲示板ウオッチなど、様々だ。

しかし、昔からのファンからみると、なにか「ヴィレヴァンらしさが感じられない。面白いが、他でもありそうなのだ。「奇抜な面白さではない

ここにも、「量を追い求めている」感覚が見て取れてしまう。やはりヴィレヴァンの商品でいうと、味噌汁の香りがする入浴剤や、青いジャムに青い紅茶、スライムカレーといった、いわゆる、「くすっと笑える」独自性溢れる商品がらしさだ。

創業以来、ずっとファンである私にとって、量の拡大はもちろん大歓迎なのだが、人と、そして、ヴィレッジヴァンガードらしい品揃えを崩すことなく、店舗展開してくれることを願う。

中小企業がヴィレッジヴァンガードから学ぶべきこと

ここまで書いてきたように、ヴィレッジヴァンガードは、明確な事業コンセプトがあるため、値引きなどに頼ることなく、ここまで来ている。

スターバックスが、事業コンセプトとして、「第三の場所を提供していることは有名だ。コーヒーではなく、自宅や会社・学校に続く第三の場所を提供することで、コーヒーやサンドイッチでくつろいでもらいたいのだ。これにより、タリーズやドトールとは違う独自のポジションを確立できている。

ヴィレッジヴァンガードも、One&Onlyの場所を提供することで、他の書店や雑貨店に買い物に行くことと比較されず、「面白グッズ買いにヴィレヴァンに行こうと真っ先に思い出してもらえるのだ。

流行りのSNSをやるべきか、ホームページを拡充すべきかと、悩む経営者も多い。しかし、迷ったらまずは自社の事業コンセプトに沿った戦略であるかどうか、を確認すべきなのだ。

 

理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』より一部抜粋

著者/理央 周(めぐる)
あのヒット商品はなぜ「ヒット」したのか?あのレストランの予約は、なぜいつも取れないのか?世の中で「売れているモノや人気者」はなぜヒットするのでしょうか?毎号実際の店舗や広告を取り上げ、その背景には、どんな「仕掛け」と「思考の枠組み」があるのかを、MBAのフレームワークとマーケティングの理論を使って解説していきます。1.「中小企業経営者・個人事業主」が売り上げを上げる 2.「広告マン・士業」クライアントを説得する 3.「営業マン」が売れない病から脱するためのメルマガです。
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