探偵の目線から「いじめ」や社会問題などの実態に迫るメルマガ『伝説の探偵』。今回は、現役の探偵が実際に調査した悪質な詐欺師の手口について紹介しています。詐欺師がターゲットを定める際に気にするのが、まず相手の年齢、資産、家族構成などで、特に高齢者は狙われやすいのだとか。お正月の帰省の際、「最近、変わったことはない?」と、ご両親に一度お声がけしてみてはいかがでしょうか。
高齢者を狙う「地面師」、土地に関する詐欺の手口とは?
騙されるものはまた騙される。
これは詐欺師の常識である。
年末年始となれば、実家に帰省してお正月を過ごす人も多いだろう。
帰省するにしろしないにしろ、もしも身内で詐欺の被害にあったことがある人がいれば注意してほしい。
詐欺は一度のみならず、一度詐欺の被害を受けたことがわかれば詐欺師は何度も騙そうとするというのが、冒頭の言葉通り、普通なのだ。
特に昭和20年代以前に生まれているいわゆる高齢者層は、詐欺師のカモ的ターゲット層にあたる。
まず、老後の資金を持っていることや、人を疑うことに罪悪感を持つ世代であることは、詐欺師にとって最も都合の良い存在となる。
また、この世代は持ち家率が高く、子供も独立しているから、資金と資産の関係から見ても、無数なターゲットがいる層になり得るのだ。
都内のベットタウンに住むAさん(69歳)は、夫に先立たれ、愛犬と一緒に暮らしている。
夫がお人好しで騙されたのは、30歳前半。
有名な温泉地へ旅行した帰り道だった。
「別荘用地として土地を買いませんか?」
看板にはそう書いてあったそうだ。
「別荘用地には小屋でも建てれば、泊まることもできるし、水道を敷いておけば、オートキャンプもできる。掘れば温泉が出るから、温泉入り放題ですよ。使わないときは管理会社に任せれば、観光客に貸すこともできるから、何もしないで副収入にもなりますよ」
その営業マンは、そう言って夫を説得し、土地を買う契約をさせたそうだ。
しかし、翌年、実際にその土地を探して行ってみると、畑と畑の間にある斜面であり、水道管もなければ、小屋を建てられるような代物ではなかった。
土地の価値も、相場からすれば、値がつくようなものではなく、ほぼ無価値の土地を数百万円かけて買ったということになる。
こうした場所は名が通っている土地が多い。
Aさんの夫が騙されたのは、東伊豆であった。
騙されたと思った夫は、業者を探そうとするが、すでに逃げてしまっていて探すことは断念したそうだ。固定資産税も大したことがないものであることもあり、結果として放置したまま、今に至る。
当時の騙された人名簿は、詐欺師から別の詐欺師の手に渡っていた。これはのちに私が介入して発覚したことであるが、詐欺師は詐欺のシナリオを考える大元に、名簿を売り飛ばしていた。
Aさん宅を訪問したのは、若いサラリーマン風の詐欺師であった。
その詐欺師は、土地を持っていることを確認すると(そんなこと、対面しなくても登記簿をひけばわかるのだが。)大きな図面を広げて、こう説明した。
「地方も過疎化が進み、住人もさほど多くはいないのですが、この度、ショッピングモールを建設し、住人を集めようという計画がある。」
「この図面は中心的な建物のものだが、Aさんの土地は、ちょうど中心部に位置するから、譲ってほしい。」
という。そして、
「持っていてもお金だけがかかる代物だから、できれば当時払った額の半額くらいで買い取らせてくれないか?」
と続ける。
Aさんとしても、息子夫婦や娘夫婦に将来負担をかけたくないという思いがありまた、不要であった土地で少なからずのお金がもらえるというのは魅力的な提案であった。
ただ、記憶の中にあるあの斜面をどうやったらこの図面のようになるか疑問があった。
その疑問はすぐに解消された。詐欺師は、パソコンを取り出し、東日本大震災で被災した東北自動車道(高速道路)が驚くほどの短期間で復旧補修される様子を見せた。そして、日本の土木工事がいかに進んでいるかを力説したのだ。
そして、詐欺師は必要な書類をどのように取るかを説明し、最後にこう続けた。
「この話はごく限られた方しか知りません。時折、お金を払う話ではないのにご家族に相談してからという方がいますが、相談はつまりは私どもからすれば土地の権利者でもない方に情報が流出してしまうことも意味しています。その場合は、土地は今の相場で買い取るようになるので、数万円になってしまいます。ご家族であっても内密にお願いします」
Aさんは、この口止めで、この話を誰にも相談せずに進めることを決め、印鑑証明を取ったり、自分の戸籍謄本を取ったりした。
そして、必要書類が揃ったところで連絡し、すぐに契約を交わすことになった。
日本人の多くは契約書の文面を細かく確認しない。
特にこの年代の女性は、契約内容自体にアレルギーがあり、それを読み上げることすら止めさせてしまう傾向が強い。
Aさんは、大まかな契約の意味を聞いて、必要な箇所に押印をしたが、押印が苦手であり、しっかりと印影が出ないなどがあったため、判子自体を詐欺師に預けて、押印をしてもらった。
そして、契約書の控えをもらい、手土産を詐欺師にもたせて見送った。
問題が生じたのは、それから半年後だ。
突然、請求書が来て、土地の購入代金を支払わないと裁判を起こすとあった。
慌てて、契約書を確認すると、2通目の契約書は近くの土地を購入するという契約書であった。
請求書は、契約を交わしたはずの会社とは全く違う会社であった。
しかし、2通目の契約書の相手の会社は、確かにこの会社だった。
「どうしよう・・・」金額は300万円であった。
定期の1つを解約すればすぐに支払えるお金である。
結局、Aさんは定期を解約し、支払ってしまった。
黙ったまま何も語ろうとはしなかったが、このショックからか、内向的な性格になってしまい、独り言や周囲への警戒などが激しくなり、心配した家族が私に相談をしてくれたことから、この詐欺被害が調査により発覚することとなった。
こうした土地を介した詐欺を行う者を、業界用語で「地面師」と呼ぶ。
地面師は、元不動産業者が多く、法にも詳しいことから、詐欺師の中では別格だと言われている。
また、近年では取り締まりや法の網が彼らの動きを遮断していて、地面師自体は少ないと言える。よって、その世界は狭い。
私は、まず、初めにAさんに接触した業者を調べることにした。
この業者は、不動産業者としての免許を持っており、その番号に(1)とあることから、最近設立された不動産業者だとわかる。
不動産業者は、その免許更新ごとに、()の中に入る数字が増えていくことから、この番号を見れば、どのくらいの業歴かを知ることができる。
オフィスの場所はなかなか立派で、山手線でもかなり良いところにオフィスを構えているが、不動産屋さんに有りがちの路面店ではなく、ビルの中階にその会社はあった。
出入りをするスーツ姿は5~6人。いずれも目つきが悪く、周囲への警戒を怠らないタイプであった。
私はこの全員の尾行をスタッフに実施してもらい、居宅を判明させた。
そして中心人物を特定し、さらにその営業(詐欺)をした本人もオフィスの出入りで特定して、その居宅を把握した。
また中心人物が、土地を売ったとする会社の取締役であることも判明した。
つまり彼らは、仲間内で土地を回すことで、買ってもない土地を買わせたり、売ってもない土地を売らせたりして荒稼ぎをしていた集団であった。
自宅を割り出していたことから、彼らは素直に対応に従い、取引の取り消しの合意などで一件落着となった。
この土地の詐欺以外でも、投資の詐欺はリストが作られているケースが多く投資詐欺などもリスト化している。
一度作られたリストは、詐欺師間で流通している。
まず、一度騙されている方は、そうしたリストに載っている可能性が極めて高いため、十二分の注意が必要だ。
また、このメルマガ「伝説の探偵」を読んでもらうでも、十分な警戒ができると思う。
帰省する方は特に親御さんなどに、話をしてみるのが良いだろう。
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『伝説の探偵』より一部抜粋
著者/阿部泰尚
2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
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