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緊迫の「米中首脳会談」直前の気になる動き。日本に立ち寄ったベッセント財務長官は片山財務相に何を言い放ったのか?

全世界が注目する中で行われる、トランプ大統領と習近平国家主席による米中首脳会談。両者とも複雑な事情を抱える中にあって、どのような「落としどころ」を探る展開となるのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉彰彦さんが、想定される複数のシナリオを提示し分析。さらにAI開発競争や台湾問題、通商交渉を巡る米中の思惑と、日本経済が直面しかねないリスクについて考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:米中サミット、「想定されるシナリオ」を考える

「カードの総数」は10枚。米中サミットで「想定されるシナリオ」を考える

今週は週明けにベッセント財務長官が日本に立ち寄って、高市総理、片山財務相などと会談しますが、これはあくまで週半ばの14日~15日に予定されている、トランプ大統領の中国訪問に随行する「ついで」という位置づけです。問題は、この米中首脳会談であり、その結果は日本にも大きな影響があると考えられます。

まず、前提として押さえておきたいのは、米中関係の複雑な歴史です。現在の中国というのは、実質は開発独裁から規模の独裁、つまり大きすぎて民主主義への移行ができない国家となっています。その一方で、社会主義を建前にしていることから、どちらかと言えば、西側の保守よりリベラルに親近感を持たれる傾向があります。

この公式は、日本の場合はかなり当てはまっており、自他ともにリベラルと認める旧立憲や公明などは親中であり、右派の高市氏などは中国との距離感があります。ですが、アメリカの場合は非常に込み入っているのです。確かに民主党のリベラルの中には親中派もいますが、例えばヒラリー・クリントンに代表される「リベラル・ホーク」は対中国ということでは強硬です。

特に彼女らは、中国の人権問題を昔から取り上げてきましたし、ヒラリーの場合は、国務長官時代に南シナ海の「自由航行権」を強く主張して中国に嫌がられていました。それでも、ビル・クリントン政権やオバマ政権は、中国の経済成長は認めてきています。一方で、直近のバイデン政権の場合は、その前の第一期トランプ政権当時に中国との通商戦争を始めた中では、中国に甘いと票が逃げるという切迫感から、必ずしも中国との協調には動きませんでした。

一方で、共和党に関しては基本的には「保守イコール反共」というクラシックな公式が機能しています。ですが、米中国交正常化をやったのは共和党のニクソンですし、中国の経済成長を思い切りアシストしたのは、ブッシュ=江沢民の緊密な関係でした。

トランプ政権も、確かに通商戦争を仕掛けてはいますが、とにかく「他国の人権問題には一切関心がない」という「鉄の掟」を持った政権ですから、中国との相性は悪くありません。また、独裁国・権威主義国のほうが、世論や野党に遠慮することなくディールができると放言していることもあり、今回の米中会談では思い切った合意がされるのではという観測もあります。

とりあえず、アメリカではかなり報道が加熱しています。まず、アメリカの外交筋が指摘しているのは、アメリカの側には「5つのB」という期待があるのだそうです。それは、

「ボーイングの航空機を思い切り買って欲しい」

「アメリカの大豆(ソイ・ビーン)と牛肉(ビーフ)を買って欲しい」

「投資と通商に関する協議会(ボード)を設置したい」

ということで、Bが5つあるというのです。一方で、アメリカ側として、中国の狙いには「3つのT」があるとしています。それは、

「タリフ(関税)に関して合意したい」

「テクノロジー、特にAI向け高度半導体の供給をして欲しい」

「タイワンについて、中国の立場を尊重して欲しい」

という3点です。

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「思い切った決断」ができる環境にある米中両首脳

さらにこうした「5B、3T」とは別に大きな2つのテーマがあります。それは、

「米国としてはイランによるホルムズ海峡封鎖を中国の圧力で止めさせて欲しい」

「両国としてはAI開発競争におけるリスクを抑える何らかの合意をしたい」

という直近課題が2つあります。一部には、合成鎮痛剤のフェンテネルの流出を止めるように要請するという問題も取り上げられるという観測もあります。それとは別に、同行者についても見えてきており、ボーイング、アップル、NVIDIA、エクソン、クワルコム、ブラックストーン、シティ、ビザの各CEOも招待されているようです。

さらに言えば、米中首脳会談は今回だけでなく、今年、2026年には、11月に深圳でのAPEC、12月にはマイアミでのG20もあり、習近平、トランプが相互訪問して会談するチャンスは数多くあります。ですから、基本的に関係を良くするという機運はかなりあるようです。

また、米中の政治的な状態ということでも、かなりの類似が見られます。まず、双方ともに相当な程度、首脳に権限が集中しているという特徴があります。トランプ政権は何と言っても、大統領自身の発案と決定で動くわけで、とくに議会の地位が下がっていることを含めると、米国の近代史上ではもっとも権力が集中した体制です。

一方で習近平体制も同様であり、まずは22年から23年の権力闘争で、共青団系のバブル拡大路線を退け、2期10年の内規を改めて最高指導者として続投しています。また、常務委員会の中には明確なNo.2はなく(李強氏かもしれませんが、明確ではありません)、また次世代のトップ候補も目に見える形ではありません。ですから、とりあえず鄧小平改革以降の歴史の中では、権限が最も集中した体制です。

その反面、両者は苦境に立っており、その意味合いも全く似通っています。まずアメリカでは経済が不安定になっています。コロナの時期にバラ撒いた過剰流動性の結果、景気の過熱感はまだ残っていますが、サイクルとしては下降トレンドも見え隠れしています。そんな中で、AIによる経済全体への影響が顕著になってきています。

中国はもっと深刻で、不動産バブル崩壊の痛手はまだまだ続いています。これに急速なAIの実用化による失業が、アメリカ同様に社会問題化しています。経済を少しでも好転させることが急務ですが、この間は台湾問題を求心力に権力闘争が進行していたと見られます。ですが、長老をはじめとした党の総意としては、どうやら実体経済の好転へ舵を切るというのが決定事項のようです。

苦境ということでは、先が見えないという意味でも両者は似通っています。トランプ政権の場合は、中間選挙の結果によっては早期弾劾罷免という可能性もあると思います(実際は辞任してヴァンス昇任、その上で全面恩赦となるでしょう)。中国の場合は、28年の人事に関する権力闘争は水面下で進行中であり、ポスト習近平には習近平が含まれていそうですが、他のチョイスもあり得ると考えたほうが良さそうです。

そんなわけで、今回の米中首脳会談は、世界経済にとっても安全保障にとっても大きな意味を持ってくると思います。しかも、政治的にも、経済的にも米中は非常に類似の状況にあり、同時に「思い切った決断」ができる環境にもあるわけです。では、一体どのようなシナリオが描けるのか、順番に確認して参りましょう。

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経済的にはプラスになる「ディール」を欲している米中

とりあえずカードの総数は10枚、つまり5つのB、3つのT、そしてイランにAIあるわけですが、このうち、半導体とAIはセット、通商委員会と関税、大豆、牛肉、ボーイングはセット、になると思います。そうすると、論点は「AI」「通商」「投資」「台湾」「イラン」「合成麻薬」の6つということに集約できます。

まず「台湾」と「イラン」ですが、どちらも国内における政治的求心力に直結します。アメリカが台湾で譲歩すれば習近平には加点されます。中国がアメリカの求めに応じてイランに圧力をかければトランプに加点ということになります。そうではあるのですが、どちらも複雑な問題であり、両国ともに譲歩の難しい問題でもあります。

一方で通商に関しては、他の課題とのバランスを取って「ディールの材料札」になる可能性もあるし、通商課題の中で「お互いが得をするようにバランスする」という選択も成立するでしょう。合成麻薬の問題は、中国としては有機麻薬を禁止しているので、医療用に生産しているだけですから、怒られれば硬化するでしょうが、懇願されれば取り締まるかもしれません。

そんな中で、同行する経済人の顔ぶれも「ディール」と関係するに違いありません。例えばですが、ボーイングのCEOを連れて行って、それでも中国が「買わない」ということですと、相互にメンツが潰れます。またアップルのクック氏を連れて行って、それでも高関税ということにはならないでしょう。NVIDIAのファン氏が行くなら、AI用のGPUであるH200の販売にGOサインとなる可能性が高いということになると思います。

では、会談の全体としてはどういうシナリオになると考えられるでしょうか?

直前になって、外交専門誌の『フォーリン・アフェアーズ』にカート・キャンベル元国務副長官が寄稿していましたが、キャンベル氏は「交渉は政治的見世物」なので、注目されればその分だけ合意は遠のく、というような見立てをしています。

これは少し違うように思います。キャンベル氏と言えば、人脈としてはヒラリーなど民主党に連なる人物ですから、政治的にはそういった見立てをしたがるのは分かります。ですが、冷静に考えれば、両国ともに経済の現状、そして先行きについては深く悩んでいます。ですから、ウィン=ウィンの関係になるような合意には進む可能性は排除できません。と言いますか、トランプは中間選挙を、そして習近平は28年人事を重たい課題として背負っています。

どう考えても、経済的にはプラスになる「ディール」を双方は欲しているのです。この点は、かなり強力な動機としてあると考えられます。従いまして、現実的には、次のような<シナリオA>になる可能性が一番高いと考えます。

<シナリオA>

イラン、台湾は厳格に現状維持。つまり、アメリカは台湾統一を許す素振りは一切しない。中国はイランの問題に介入しない。

その一方で経済について双方にメリットのある話は具体的に進む。関税は最低限に近い水準に戻す。ボーイング機、牛肉、大豆を中国は買う。アップル製品は引き続き主として中国が製造する。

投資に関しては、現状よりやや規制緩和に進む。

但し、AIについては、米側は警戒心を解かない。半導体は売るが、巨大テック系が中国のAIと連携したり、問題の「ミトス」を中国に売ったりということは起きない。

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可能性が無いわけではない「何も合意できない」カオス状態

<シナリオB>

反対に、お互いに警戒心と対立の過去を解除できない中で、交渉はカオス状態となり、何も合意できない、という可能性も全く無いわけではありません。依然として両国は強いライバル関係にあり、お互いに妥協しないことが政治的求心力になるという流れは残っているからです。キャンベル氏の見立てはこちらになります。

<シナリオC>

その全く正反対に、米中が限りなく妥協してしまうという可能性です。お互いが、自国の経済浮揚に必死の思いがあり、そのためなら毒だろうが何だろうが飲むという覚悟になると、次のようなシナリオで進む可能性もゼロではありません。

「中国はイランへの説得には着手しないが、その代わりに米国から最優先で原油の供給を受ける」

「米国は中国が台湾との統一を平和裏に進めるのなら、これを妨害しないというような、過去にはあり得なかったような文言を許容する」

「通商は全て再開、そうして両国ともに国内経済の浮揚を図る」

「AIについては、禁輸を解除。相互投資も許可。相互利用も許可。米中のAI大国が連携して世界を牛耳る」

さすがに<C>になる可能性は少ないと思いますが、AIだけについて言えば、何が起こるか、かなりの不透明感を感じます。大きなLLM(大規模言語モデル)ということでは、米国が猛烈な投資をしていますのでアドバンテージがあるようです。ですが、一部のアルゴリズムでは、中国のベンチャーも健闘している中では、ケンカするとか、お互いを禁止して排除するよりも、提携するメリットは確かにあります。

ですが、仮に民生分野だけであっても、米中が全面提携してしまうというのは、例えば日本などの立場は非常に弱くなるわけで、経済面でも安全保障の面でも危機感をもって監視する必要を感じます。

ブラックストーンなど、投資銀行が絡んでくるのはこうした事情もあると思います。そして、こうしたストーリーの奥には、この夏と言われている「スペースX上場」という問題が控えています。「ミトス」で話題のアンソロピックの上場も、またChatGPTの「オープンAI」の上場という問題もあります。

こうしたAI各社の上場による資金調達、そしてGAFAM各社のAI戦略なども、全て将来投資という段階は過ぎており、マネタイズによる「AI売上」をしっかり上げていかないと市場に蹴られる時代でもあります。そんな中で、米中がお互いをどう仕切っていくのか、今回の会談でも大きなテーマになると思われます。

ところで、日本時間の11日(月)にアメリカのベッセント財務長官が来日して、片山財務相との夕食会があった模様です。その後のドル円相場はジリジリと円が下げており、本稿の時点では157円を超えつつあります。ベッセント氏は、明けた12日の火曜日には高市総理とも会談するようですので、そこで最終的な方向性が出てくるのではと思われます。

ベッセント氏が、これ以上の円安を許さないとして、なおかつ米中会談で日本に不利になるような合意はしないという内示をするのがベストですが、さすがにそうはならないでしょう。一方で、本気で日本経済と円を立て直すために、昭和の昔のように「改革要求の外圧」をかけてくれる可能性も薄いと思います。

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米国内でまことしやかに語られている「日本発の金利危機」

アメリカでは、若い世代を中心に日本のGDP比で230%というような国家債務のことを「債務爆弾」だと指摘する声が高まっています。そのストーリーとしては、改革のできない日本は遅かれ早かれ「保有する米国債を売却」するに違いないというのです。そうなると、日本発の金利危機が起きて、アメリカ国債の金利も、そしてアメリカの市中金利も上がって、アメリカがスタグフレーションになる、そんな話が「まことしやか」に語られています。

ベッセント氏の来日は、この問題も背景にはあると考えられます。一部のネット版の新聞には、夕食会後の片山大臣の写真が出ていましたが、かなり硬い表情だったのが気になります。憶測に過ぎませんが、「米国債を売る姿勢を見せたら、ドイツのように駐留米軍を引き揚げる」という脅しをかけられた可能性などを、勘ぐってしまいます。

流石にそこまでの悲観シナリオで見てゆく必要は少ないと思いますが、もしかしたら米中会談について、事前に「相当な合意になる」という根回しがあったのかもしれません。いずれにしても、今回の米中会談は日本への影響も甚大です。政権当局としては、危機感と戦略性をもって対処していっていただきたいと思います。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2026年5月12日号の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。今週の論点「ギフテッド教育の方針に異議あり」、人気連載「フラッシュバック81」もすぐに読めます。

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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