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話題の『この世界の片隅に』は戦争映画ファンでも楽しめるのか?

先日掲載するや大反響となった「話題の映画『この世界の片隅に』を実写で撮れぬ日本映画界の惨状」。実はこちらの記事、メルマガ『映画野郎【無料メルマガ版】』の編集後記として書かれたものでした。今回、同メルマガのメインコンテンツのひとつ「ガチンコ!!シネマレビュー」で、改めて「この世界の〜」を再度取り上げ、映画ライターのじょ〜い小川さんがレビューしています。

ガチンコ!!シネマレビュー 『この世界の片隅に』

アニメや漫画が好きな方にはこうの史代原作で、『マイマイ新子と千年の魔法』の片渕須直監督の新作となるんだろうが、どちらも門外漢のボクにとっては能年玲奈改めのんとして初めて世にでる作品を観る、という感覚で観た『この世界の片隅に』。なるほど、戦前・戦中・終戦直後の広島県の軍港・呉を舞台にし、主人公すずとその半径5mの逼迫しつつもホンワカな日常で展開した作品なんだが、戦争映画として必要悪である重さと悲壮感がないのでこの時代を描いたにしては物足りない

戦時下の爆撃や空襲のシーンもあるにはあるが、そちらは最小限にし、大半は主人公すずとその半径5mの逼迫しつつもホンワカな日常である。要は木下惠介の『花咲く港』や今村昌平の『黒い雨』、黒木和雄の「戦争レクイエム三部作」+『紙屋悦子の青春』、斎藤寅次郎演出の『東京五人男』などの戦争関連の映画から重さを抜きアニメの自由な表現と柔らかなタッチでポップに描いている。

このポップさは画風やすずのキャラクターだけでなく、声を担当したのんの功績も大きい。のんの声質とすずのノホホンとした性格がぴったり合いそれが心地よくもある。また、すずの実家の家業が海苔の養殖をやっていて、冷たい海に浸る仕事とあり、微かに連続テレビ小説あまちゃん」ともかぶり、強引ながら震災のシーンとこの映画における肝心のシーンを重ねあわせられなくもない。

しかしながら、全体的にポップにしたことで、上記に挙げた戦争関連映画や戦争映画特有の重さがない。重い・不穏な映画特有の毒がまったくなく、そこが『火垂るの墓』や『はだしのゲン』と決定的に違い、この手の作品が好きな者にはまるで物足りない。毒がない上、薬膳料理のような世界観がダラダラと2時間以上も展開する。そこがまた連続テレビ小説のような作りでもあり、テレビドラマが嫌いな者には退屈極まりない

要はこの原作のファン向けで、この雰囲気が好きな方はとにかく長くこの世界に浸りたいだろう、ということ。

レビュアー:じょ~い小川

【作品データ】
「漫画アクション」で連載されていたこうの史代の伝説的な作品「この世界の片隅に」をアニメ映画化したドラマ! 広島市江波に住んでいた浦野すずは呉に住む北條周作のもとに嫁ぐが、日々戦況が悪化し、物資も少なくる。独自の工夫でささやかな暮らしをしていくが、遂に呉でも爆撃がはじまる。能年玲奈改め“のん”として初めての出演作。監督は『マイマイ新子と千年の魔法』の片渕須直。

【スタッフ】
監督・脚本:片渕須直

【キャスト】
のん、細谷佳正、稲葉菜月、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、他

image by: Everett Historical / Shutterstock, Inc.

 

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