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日本は利用される。突然「一つの中国」を認めたトランプの思惑

先日掲載の記事「騙されるな日本。いつから米国は「信用できる国」になったのか」で、「米中首脳会談でのトランプ大統領を手放しで信用し、アメリカ盲従主義に陥るのは危険」と警鐘を鳴らした無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さん。今回は、米中首脳会談の直前に突如として中国と「和解」したトランプ大統領の不可解な行動を取り上げ、「日本が利用される可能性」について持論を展開しています。

トランプ、「一つの中国」を認める

大統領就任前から、中国とガンガンやりあってきたトランプ。先日、大きな譲歩をしました。「一つの中国を認めたのです。

革命的だった、トランプと蔡英文の電話会談

2016年12月2日、全世界に衝撃が走りました。なんと、トランプが台湾の蔡英文総統と電話会談をした。

<トランプ氏・蔡氏>米中関係の緊張必至…断交後初の協議

毎日新聞 12/3(土)22:28配信

 

【ワシントン会川晴之、台北・鈴木玲子、北京・石原聖】トランプ次期米大統領は2日、台湾の蔡英文総統と電話協議し、安全保障などの「緊密な結びつき」を確認した。政権移行チームが発表した。

それにしても、トランプさんと蔡英文総統が電話で話すと、なぜ中国は激怒するのでしょうか?

中国は台湾を主権国家とは認めておらず、台湾を中国の一部と主張する「一つの中国」原則の順守を米国に求めてきた。トランプ氏が台湾独立志向の強い民進党の蔡氏と安全保障問題を協議したことで米中関係の緊張は必至だ。

 

米メディアによると、就任前を含めて米大統領が台湾総統と電話で協議したことが公になったのは、米台が国交を断絶した1979年以降では初めて。
(同上)

アメリカ大統領が台湾総統と電話で協議したのは、国交が断絶した1979年以降、初めて。37年ぶりということで、トランプさんの行動は、「革命的」だったことがわかります。中国は、激怒し、抗議しました。

中国外務省の耿爽(こう・そう)副報道局長は3日、「米国の関係方面に厳粛な申し入れを行った」との談話を発表し、抗議したことを明らかにした。その上で「一つの中国は中米関係の政治的基礎。中米関係が不必要な妨害を受けないよう促す」として、歴代米政権の「一つの中国」政策を継承するようトランプ氏に求めた。
(同上)

すると、早速次のリアクションが出てきました。12月5日AFP=時事から。

トランプ氏は4日夜、ツイッターに「中国は彼らの通貨を切り下げること(つまり米企業の競争を困難にすること)、中国向けの米製品に重税を課すこと(米国は中国製品に課税していないのに)、南シナ海(South China Sea)のど真ん中に巨大軍事施設を建設することなどに関して、われわれに了承を求めたか? そうは思わない!」と投稿した。

「トランプにとっては、米中政府の合意事項である、『一つの中国』すら、ディールの対象なのだな~~~」と驚いた人も多かったことでしょう。

トランプ、一転「一つの中国」を認める

ところがトランプさん、ここに来て態度を変えてきました。習近平との電話会談で、「一つの中国を認めたのです。

トランプ米大統領「一つの中国」支持 習主席に電話で

BBC News 2/10(金)15:36配信

 

米ホワイトハウスは9日、ドナルド・トランプ大統領が習近平・中国国家主席と電話会談し、中国本土と台湾は不可分だとする「一つの中国」の原則を尊重すると伝えたと発表した。トランプ氏が就任後、習主席と直接やりとりをするのはこれが初めて。ホワイトハウスによると、両首脳の電話会談は「非常に和やか」なもので、幅広い話題について長時間にわたり意見交換した。さらに、互いに相手を国に招待したという。

トランプが習近平に、「一つの中国の原則を尊重する」と伝えたと。中国は大喜びで、「トランプ君を褒めたたえたい!」と声明を出しました。

中国「褒めたたえたい」…米「一つの中国」維持

読売新聞 2/10(金)23:28配信

 

【北京=竹腰雅彦】中国外務省によると、習近平(シージンピン)国家主席とトランプ米大統領は10日(米時間9日)に行った初の電話会談で、早期の首脳会談を目指す考えで一致した。

 

同省の陸慷(ルーカン)報道局長は10日の定例記者会見で、トランプ氏が会談の際、台湾を中国の一部とみなす「一つの中国」政策の維持を表明したことについて、「褒めたたえたい」と評価した。その上で、首脳会談の実現に向け、中国側も調整を急ぐ考えを示した。

トランプは、日本の安倍総理と会う直前に習近平と和解している。この現象を、どう読むべきでしょうか?

だから中国を挑発してはいけない

2月11日号「騙されるな日本。いつから米国は「信用できる国」になったのか」で、こう書きました。

では、アメリカは、日本をどう利用する可能性があるのでしょうか?わかりやすいのは、「経済面」ですね。

 

「米国債をもっと買え!」
「貿易不均衡を解消しろ!アメリカ製品をもっと買え!」

 

これは、目に見えるので、ある面対処しやすい。しかし、問題は、「安保面」です。日本が直面する可能性のある最大の問題は、「アメリカが対中国で、日本をバックパッシングするかもしれない」ことでしょう。

 

「バックパッシング」(責任転嫁)とは、つまり「アメリカが勝つために、中国と日本を戦わせること」を意味します。どうやって?

 

リアリズムの大家ミアシャイマー教授は、その著書『大国政治の悲劇』の中で、「バックパッシングの方法」について触れています。4つ方法がある中で、もっとも「今の日米関係に当てはまる」と思われるのは、以下の方法です。

 

「4つ目は、バックパッサーが、バックキャッチャーの国力が上がるのを許すだけでなく、それをサポートまでしてしまう方法である」
(『大国政治の悲劇』227p)

 

意味わかりませんね。これはつまり、「アメリカが、日本の軍備増強をサポートする」という意味。なぜ?

 

「これによりバック・キャッチャーが侵略的な国家を封じ込めてくれれば、バック・パッサーにとって傍観者のままでいられる可能性が高まるからだ」
(同上)

 

言い換えると、「これにより日本が、侵略的な中国を封じ込めてくれれば、アメリカは傍観者のままでいられる可能性が高まるからだ」となります。日本が中国と戦ってくれれば、アメリカは、「楽ですわ」と。トランプ政権は今、このプロジェクトを始めているようにも見えます。

ここで、「バックパッシングの方法は4つある」とあります。その一つは、「日本を強化して中国と戦わせる」。もう一つの方法を、ミアシャイマー教授に教えていただきましょう。

一つ目が、侵略的な国の関心を常にバック・パッシングを「される側」、つまり「バック・キャッチャー」(責任転嫁を受ける側)の国の方に向かせるために、侵略的な国と良い外交関係を結ぶ、もしくは最低でも刺激するようなことはしない、というものである。
(『大国政治の悲劇』226p)

意味わかりません。わかりやすく変換してみましょう。

一つ目が、侵略的な国【=中国】の関心を常にバック・パッシングを「される側」【=日本】、つまり「バック・キャッチャー」(責任転嫁を受ける側)の国【=日本】の方に向かせるために、侵略的な国【=中国】と良い外交関係を結ぶ、もしくは最低でも刺激するようなことはしない、というものである。

簡単に言うと、アメリカは中国を打倒したい。しかし、自分の手は汚したくない。それで、日本を使って戦わせる。どうやって? アメリカは中国を刺激せず中国の憎悪を日本に向ける、と。

アメリカが日本を「バックパッシングしている」とどうすればはっきりわかるでしょうか?

アメリカが日本に、「俺たちがバックにいるから、どんどん中国を批判しても大丈夫だぜ!」と言う。その一方でアメリカが、中国と仲良くしている。これは、はっきりした「バックパッシング」の兆候です。ですから安倍総理は、「トランプ大統領は私の味方!と舞い上がって中国を挑発してはいけないのです。

リベラルの人がいつも言うように、アメリカは戦略どおり「はしごを外す」かもしれない。中国に関して日本はアメリカが嫉妬するほど接近してはいけない(例、キッシンジャーから「最悪の裏切り者!」と呼ばれた田中角栄さん。最近の例では、「私は人民解放軍の野戦軍司令官です!」と宣言した小沢一郎さん)。

その一方で、アメリカ抜きの「日中戦争」が起きてしまうほどに中国を挑発してはいけない。日本は、ずる賢い二つの大国とのバランスをとりながら、「米中覇権争奪戦の時代をサバイバルしていかなければならないのです。

私たちが頭の中で100万回唱えなければならないのは、「ABC」です。

A = Always
B = Be
C = Careful

総理、どうかアメリカに対しても中国に対しても、警戒を怠らず、なおかつ両国に対して穏やかであってください。

image by: 首相官邸

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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