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元モヒカン頭で仕事嫌いの青年が、たった20円で世界を笑顔にする

今、たった20円の寄付で途上国の子どもたちに給食を届けることのできる「TABLE FOR TWO」という社会貢献運動が広がりを見せています。「テレビ東京『カンブリア宮殿』(mine)では、放送内容を読むだけで分かるようにテキスト化して配信。学生時代はモヒカン&ピアス、社会に出てからも居場所を見出せなかったという小暮真久代表を「途上国支援」の道に突き動かした原動力とは、一体何だったのでしょうか?

「肥満」と「飢餓」を同時に解消!~20円で世界を笑顔に

全国に400店舗以上を展開する無印良品。東京・有楽町店の一角で行列ができていた。買い物ついでに食事や飲み物が楽しめるレストラン「カフェ&ミール ムジ」だ。

お客は女性が中心。彼女たちの心を捉えているのは野菜中心の体に優しいヘルシーなお惣菜。「グリルかぼちゃのマリネ」「りんごとルッコラのサラダ」など、約20種類から好きなものを選びご飯とセットで頼むスタイル。惣菜3品なら850円、4品なら1000円だ。

レジでお客が「テーブル・フォー・ツー」と言うと、横に置いてあったカードを取って店員に渡した。そして料金の1000円に20円を足してお支払い。実はこれでTABLE FOR TWOという団体への寄付が完了この20円は途上国の給食一食分になる。

「TABLE FOR TWO」とは「二人のための食卓」という意味。食べ物があり余り、肥満などに悩む先進国と、貧しく飢餓に苦しむ途上国。この食の不均衡を同時に解消する一石二鳥の仕組みなのだ。

無印では3年半前に導入。「20円お金を足せば、明確に子どもたちに給食がいくのがわかるので、満足される方が多いです」と、店長の木原誠さん。こうしたTABLE FOR TWOに協力するレストランは80社に広がっているという。

もっと寄付金を集めているところもある。大企業だ。東京・青山の伊藤忠商事。お昼時になると社員たちが次々に入って行ったのは社員食堂。1日1300人が利用するという。

ひと際長い行列ができているメニューがあった。そこには、TABLE FOR TWOの文字が。日替わりのヘルシーメニューで、この日は「豚肉と一日分野菜の塩炒め」。これだけで一日分の野菜が摂れる。20円の寄付金は最初から料金に含まれている

ある社員は「食事をするのが難しい地域の子どもたちの少しでも助けになっていると思うと、気分的にポジティブになります」と語る。社会貢献ができるヘルシーメニューは人気が高く、120食が完売。現在、この仕組みを取り入れた企業や官庁は360に上る。

その拠点は東京港区のマンションの1室にある。設立は2007年。ちょうど10歳になるNPOだ。常勤スタッフ3人で、あらゆる仕事をこなしている。その寄付金は年々増え続け、2015年には1億3600万円に達した。

貧しい子どもたちに給食を~日本発の感動ビジネス

アフリカのケニア。高層ビルが立ち並ぶ首都ナイロビ。経済成長著しい。しかし地方に目を向ければ、貧しい地域がほとんどだ。

アフリカ最大の湖、ビクトリア湖に浮かぶルシンガ島の小学校をTABLE FOR TWOは支援している。島の人口はおよそ3万6000人。多くは漁業や農業といった一次産業で生計を立てている。

その生活は厳しい。ある4人家族の台所を見せてもらうと、夕食の食べ物はごくわずか。一日一食食べるのが精一杯だと言う。両親は病気で亡くなり、おばあちゃんが3人の孫の面倒を1人で見ている。ケニアでは一日200円以下で暮らす人達の割合、いわゆる貧困率が人口の43パーセントに達している。

そんなルシンガ島にはるばるやって来たNPO法人TABLE FOR TWO代表、小暮真久。目的地の小学校に到着すると、その視線の先には大勢の小学生が。小暮を歓迎する歌の大合唱が始まった。紙には「給食をありがとう」の文字が。

午前9時半。子どもたちは列を作り始めた。その先で配られていたのは朝ご飯の給食。日本で集められた寄付金で作ったものだ。中身は地元の穀物や芋の入ったポリッジというお粥のような食べ物。栄養価が高いという。およそ半数の子どもが、昨夜も今朝も何も食べずに学校へ来ている。

「給食がなかった時は、子どもたちは家でご飯を食べていないので、学校でお腹を空かせて寝ていたんです。給食を食べられるようになってからみんな明るく元気になりました」(ベロニカ・キマンジ校長)   

4年前に給食が始まると、それまで学校に来ていなかった子どももやって来るようになった。4割だった出席率は2倍の8割になり、さらに中学へ進学する子どもも増加。給食が教育の普及にもつながっているのだ。

今回、小暮がこの学校にやって来た目的は、日本の寄付金が正しく使われているか、確認するためだ。

料理室では朝食に続き、ちょうど昼食を作っていた。食べ物をチェックする小暮。壁には1週間分の献立表が貼ってあった。月曜のおかずはイワシだ。現地では安くはないお米もメニューに。生徒の親が水汲みや調理などを手伝い、人件費を浮かせるなどしてやりくりしている。この学校では予想以上に日本の寄付金が大事に使われていた。

「日本だったらたった20円ですが、ここでは価値が何十倍にも大きくなります。大袈裟に言えば、子どもたちの未来をつくっている食事だと思います」(小暮)

TABLE FOR TWOは、これまでアフリカ6カ国とフィリピンの子どもたちに給食を届けてきた。しかし支援を求める声は後を絶たない。

今回、小暮がアフリカへ来たもう一つの目的は、次に支援する学校を決めるための聞き取り調査。ケニア国内で給食を実施できている学校は3割に満たない。だからこそ支援先を増やし続けている。

小暮が子どもたちにいつも聞くことがある。勉強を続けて卒業したら、将来、どんな職業に就きたいか。「パイロット」「ジャーナリスト」と答える生徒たち。たとえお腹を空かせていても、子どもたちは希望あふれる夢を持っていた。

「こうやって定期的に現地に来ると、心の底から『絶対に食事を出してあげなきゃ』と思う。まだまだこれからという気持ちです」(小暮)

企業も学生も支援!~広がる草の根活動

この日、東京・千代田区にTABLE FOR TWOの活動に社食で寄付の協力をしている企業が集まっていた。各企業は少しでも寄付を集めるべく工夫したヘルシーメニューを出している。そのメニューを選挙で競おうというものだ。

気に入った企業の社食メニューにシールを貼って投票する。もっとも美味しそうと票を集めた1位のメニューは、いすず自動車の、そのままでも、お茶漬けでも美味しい「発芽玄米の味噌焼きおにぎりセット」だった。

「僕らが動いてないところでも、ある意味で勝手に動いてくれる。草の根で広がり始めていることがうれしいですね」(小暮)

新規事業も続々と生まれている。その一つが全国チェーンのスーパー、西友で始まっている「カロリーオフセットプログラム」。

並べられたカロリーオフの弁当には「対象商品」という文字。これがTABLE FOR TWOの寄付となる商品。ただし寄付金は給食ではなく、開発途上国の菜園作りに充てられる。ただ食料を提供するのではなく、自分たちの力で作る方法を支援。飢餓を根本から解消しようとする新たな事業だ。

賛同者は企業以外にも広がっている。

上智大学の学生食堂で列ができていたのは、火曜日限定のヘルシーメニュー。この日は「海鮮八宝菜定食」で、代金には20円の寄付が含まれている。ただし、TABLE FOR TWOが大学に導入を頼んだわけではないと言う。学生たちが自主的に支援サークルを作り、学校と交渉。学園祭などでも寄付を呼びかけてきた。こうした動きは全国120の大学に広がっている。

さらに支援が目的のイベントも。横浜市で行われた学生が運営するフットサル大会「フットサル・フォー・ツー」。今回は17チームが参加。参加費は1チーム1万3000円。そこからの寄付額は、試合で出た1ゴールで10食の給食として支援国の子どもたちに届く形になるという。この大会では4000食分の約8万円が寄付に回された。若き賛同者たちはTABLE FOR TWOの今後の活動にとっても強い味方となりそうだ。

元モヒカン&ピアスの「型にはまらない生き方」

多くの一流企業からも信頼されるようになった小暮。学生時代はモヒカンにピアスの人と同じことをするのが嫌いな青年だった。

早稲田大学の理工学部では人工心臓の研究にのめり込んだ。卒業後もオーストラリアに留学し研究を続けた。このユニークな経歴が認められ、外資系コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーに就職。しかしコンサルタントの仕事に心から満足することはできず、6年で退社。その後、映画会社の松竹に入ったが、「本当に仕事が嫌で、抜け出して公園に行ったり。とにかく嫌なんだけど、自分でも理由がわからなかった」と言う。

そんな時、自分の気持ちをハッキリさせようと、模造紙に、自分が今までどんなことを考え、どう行動していたか、片っ端から書き出した。「ルールを破るのが好きだった」「幸せは他者のために役立ちたいと願うときにおのずと得られる」……次第に自分のやりたいことが浮かび上がってきた。それは「誰かのためにビジネスで何ができるか」だった。

ちょうどその頃、世界を変えたい若者が集う国際会議「ヤング・グローバル・リーダーズ会議」がカナダで開かれ、TABLE FOR TWOのアイデアが発表された。考えたのは元マッキンゼーの同僚など日本人たちだった。

「すごい仕組みだなと。これが本当に回り始めたら、大きな世界の問題も解けるかもしれない。しかも日本人がこれを考えたのですから」(小暮)

事業化を託された小暮は会社を辞め、NPOを立ち上げた。しかし寄付を頼むべく、アポを取ろうと電話をかけると、NPOと名乗っただけで電話を切られたり、ようやく担当者に会えても、「寄付金のうち2割が事務所代やスタッフの給料になる」という説明に絶句されたり。

「社会的信用が全くないって、こういうことなんだと思いました。今までの人生でそんなことを言われたことがなかったので、これは大変だな、と」と、小暮は当時を振り返る。

それでも小暮は粘り強く企業回りを続けた。そこに思わぬ追い風が吹く。2008年、いわゆるメタボ検診が義務化され、企業の健康への取り組みが前向きになったのだ。これを機に協力企業や団体は一気に増え、その数は今や650になった。

肥満大国の子どもにヘルシーな給食を

TABLE FOR TWOは世界一の経済大国、アメリカでも給食の支援を行っている。アメリカで深刻になっているのが肥満の問題。実に成人の3分の1以上が肥満に当たる。子どもも例外ではない。その一因は貧困にある。

ニューヨーク郊外の低所得者層が暮らす集合住宅。ワンダ・ロバーソンさん(51)はシングルマザー。持病があって働くことができず、国からの給付金で育ち盛りの息子2人を育てている。日ごろの食事のほとんどは冷凍食品。経済的な余裕がなく、栄養が偏っても、安い冷凍食品に頼るしかないという。アメリカでは貧富の格差とともに、子どもの肥満という問題も膨らんでいる。

ニューヨークのハーレム地区。貧しいエリアにある公立小学校で、TABLE FOR TWOが支援に動き、肥満を呼ぶ給食の改革に取り組んでいる。アメリカの貧しい地域にある学校給食は全額、税金で賄われている。コストを抑えているため、栄養バランスは二の次というのが現実だ。しかしここではTABLE FOR TWOの支援によって、添加物を使わないなど、厳しい基準を持つ給食会社に切り替えることができた。

ある日のメニューでは、餃子には低カロリー、高タンパクの鶏肉が使われ、さらにサラダも。これでビタミンもしっかり摂れる。給食をヘルシーに変えるのにかかる費用は一食25セント。アメリカで使うお金はアメリカの企業から集めた寄付金だ。

「給食がヘルシーなものに変わってから、生徒たちは以前より授業に集中できるようになりました」(グレート・ガリーン校長)

アメリカ常駐スタッフのTABLE FOR TWO USA代表、上島カー真弓が向かった先は「ホールフーズマーケット」。全米でおよそ400店舗を展開する健康志向の食品スーパーだ。

上島が見に来たのは「ゲンジ」という大手寿司チェーンと共同開発した「ハッピー弁当」。ラベルにはTABLE FOR TWOのロゴが。この商品の代金12.49ドル(約1400円)から、25セントがアメリカの学校給食に回る。中身は、枝豆入りのおいなりさんとトロ・サーモン。酢飯は玄米で、ミネラル豊富なスーパーフード、キヌアも入っている。

「アメリカでは社員食堂より、お店やレストラン、食品企業で導入するほうがマッチしています。まだ支援を必要とする子どもは世の中にたくさんいるので、拡大していく必要があると思っています」(上島)

試食したニューヨーカーの反応も上々。この弁当プロジェクトを足掛かりに、アメリカでの給食支援をまだまだ広げるつもりだ。

~村上龍の編集後記~

小暮さんの著書に「学生時代はピアス&モヒカンだった」とあった。

元モヒカンの青年が、人工心臓研究、マッキンゼーを経て、社会事業、いい感じだなと思った。

社会に貢献したい世界をより良く変えたいという若者が増えている

その活動は、できれば、利益を生むビジネスであるべきだ。

テーブル・フォー・ツーは、「飢餓と飽食、双方の解決」という経済合理性に支えられている。そのポリシーが浸透すれば、事業規模は拡大する。

年間取扱高100億円を目指して欲しい、そう言うと、「型にはめられるのが大嫌いな青年は笑顔でうなずいた

<出演者略歴>

小暮真久(こぐれ・まさひさ)1972年、東京都生まれ。早稲田大学理工学部卒業。1999年、マッキンゼー東京支社入社。2005年、松竹入社。2007年、TABLE FOR TWO International創設。

source:テレビ東京「カンブリア宮殿」

テレビ東京「カンブリア宮殿」

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