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日本の「国家情報局」発足に中国が猛反発。なぜ隣国から「731部隊を連想させる」と批判が噴出したのか?

7月31日、国家情報会議設置法が施行され、官邸直属の情報機関として国家情報局が発足しました。「スパイ天国」返上を掲げた一手ですが、中国はこれを「再軍事化」の動きとして即座に批判し、さらに戦時中の「遺棄化学兵器」問題にまで言及し始めています。よりによって「7・31」という日付が、中国人に「731部隊」を連想させることの意味とは。メルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者でジャーナリストの富坂聰さんが、新組織が抱える危うさと、再燃しかねない歴史問題が日本のイメージに与える打撃を読み解きます。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです

内政で得点できない高市政権が繰り出す「安全保障カード」の空回り

7月31日、国家情報会議設置法が正式に施行され、官邸直属の情報機関として国家情報局が設置された。いわゆる内閣に、政府が行うインテリジェンス活動の司令塔となる閣僚級会議が設置されたのだ。

かねてから「スパイ天国」と呼ばれた日本の惨状に、やっと一手が打たれたという理屈のようだ。

もし、そんな理解であれば、既存の組織である内閣情報調査室(内調)や警視庁公安部、各県警の外事、公安調査庁などは強烈なダメ出しをされたわけだが、新組織もやはり内調をベースにするのであれば、何がどう総括され、刷新されたのか。

日本のこの変化に素早く反応したのは中国だった。

外交部の毛寧報道官は「これは日本の国内外の安全保障政策における新たなネガティブな動きだ。このところ、日本はいわゆる国家安全保障上の『外部の脅威』を口実に、『再軍事化』のプロセスを加速させ、地域の平和と安定を脅かし、国際社会の広範な懸念を引き起こしている」との批判を展開。国防部の蒋斌報道官も、「日本政府は、いわゆる『安全保障上の脅威』への対処を口実に、情報機関の集権化・軍事化への転換を強力に推し進めており、これは一連の軍備拡張の動向と密接に連動している」とけん制した。

「特高警察」批判は当たらずとも遠からず

興味深いのは国防部の報道官が、「(この動きは)第二次世界大戦中に日本が国内では監視・弾圧を行い、対外的には侵略に寄与した『特高警察』を連想させる」と指摘したことだ。

ほとんどの日本人には響かない批判だろうが、私はこの指摘を「当たらずとも遠からず」と受け止めた。

根拠は二つだ。一つは、空気が作る時代の変化は人々が思うより速く、かつ予測不能だからだ。思い出したのは某先輩ジャーナリストの言葉だ。

私は、2012年から10年弱、「日中ジャーナリスト交流会議」というイベントに参加してきた。その会議では当初から中国側は「日本社会の右傾化」を警戒し指摘してきた。当初、日本側はそんな批判を苦笑し相手にもしなかったが、10年が過ぎるころ、その先輩ジャーナリストがぼそりとこうつぶやいたのだ。

「かつては中国側の記者に『日本に来て現実を見てみろ』と堂々と言えた。でも今は、笑い飛ばせない現実が目の前にある」

知らぬ間に予想を超える変化が起きてしまったというわけだ。

さらに二つ目の根拠は、組織防衛的な観点だ。

政権の肝いりで新設された組織で予算も付いたとなれば期待は高まる。だが、そんな狙い通りに多くのスパイが大量に捕まるのだろうか。

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「チャイナ・イニシアチブ」の教訓

他国のケース、中でもバイデン政権下のアメリカで展開された中国スパイ摘発キャンペーン、「チャイナ・イニシアチブ」を例にとっても、簡単に成果に結びつくとは考えにくい。

鳴り物入りでスタートし、学術界を中心に徹底的な洗い出しを行った「チャイナ・イニシアチブ」の3年間で、結局、スパイとして逮捕され起訴された中国人などほとんどなかった。そして同キャンペーンは何の成果もなく静かに幕を閉じたのである。

日本も同じ轍を踏む可能性は高いのだが、その場合、新設された組織の存在意義が問われることは避けられない。厳しい目が国民から向けられれば批判の矛先をかわすためにも、日本人へと摘発のベクトルが向くことは十分考えられる展開だからだ。

それにしてもこうした組織は本来、静かに動いてこそ効果があるものだと思うのだが、よりによって7月31日にスタートして、中国側を刺激する意味があったのか。

「7・31」が呼び起こす731部隊

「7・31」という数字で中国人がすぐに連想するのは、過去の日本軍が中国東北部で人体実験を行った「731部隊」だ。

捕らえてきた中国人を「丸太」と呼び、細菌の効果を試したり、凍傷になる過程を観察した、恥ずべき事件だ。

かつての日本の一部では、これを「ソ連の捏造」とフェイク扱いした時期もあったが、いまでは評価は定まっている。騒ぎとなれば日本側にダメージが及ぶことは想像できたはずだ。

それを知った上で7月31日に組織を立ち上げたのだろうか。

もっとも中国側の反応はいまのところ外交部の発信とそれを受けたメディアの批判にとどまっている。

ただ気になるのは、外交部の会見の中で日本の過去の問題、中でも「遺棄化学兵器」に言及され始めたことだ。

遺棄化学兵器問題とは第二次世界大戦中に旧日本軍が開発・所持していた化学兵器を、敗戦時に現地に遺棄して逃げてしまった戦後処理の問題だ。

化学兵器の使用はジュネーブ議定書に違反する行為だ。処理せず遺棄された兵器が戦後経年劣化する過程で、中から毒ガスが漏れ出し、現地の農民など多くの一般市民が犠牲になったのだから深刻である。

人体実験もそうだが、この問題も言い訳の余地のない残酷で無責任な行為だ。もし逆の立場なら日本人はどれほど激しく中国を批判するだろうか。自分の身近な人が、侵略してきた軍が残していった化学兵器の被害に遭ったとしたら。

この問題が再び日中関係の話題の中心に置かれることになれば、日本のイメージは大きく傷つくことは不可避だ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年8月2日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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image by: Octavio Hoyos / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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