北朝鮮の朝鮮中央通信が「日本もミサイル圏内にある」と報じて以降、日本のマスコミは、今すぐにでもミサイルが飛んでくるかのような論調で連日報道がなされています。これに対し、メルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』の著者で北朝鮮の内情に精通している宮塚先生は、北朝鮮がVXガスを所持していること、殺害された金正男氏が最後に会っていた人物など、もっとほかにも気になる点が明らかにされていないことを指摘しています。
ミサイル発射報道もいいが…
北朝鮮は4週続けてミサイルを発射し、世界(といっても日本と韓国が主だが)を震撼させ続けているが、相次ぐミサイル発射に韓国政府や韓国民は半ばあきれ顔状況だとのこと。
これに対し日本は政府とマスコミが右往左往し、明日にでも日本本土にミサイルが飛んで来るかのように恐怖感を煽っている。これは北朝鮮の朝鮮中央通信が5月20日に「日本もわが方の打撃圏内にある」と題した論評で「実戦配備された核兵器を含むわれわれの全ての軍事的攻撃手段は、米本土と在日米軍基地に精密に照準を合わせ、せん滅的な発射の瞬間だけを待っている」という日米を恫喝した。さらに、「今からでも災いを招く愚かな振る舞いを止め、自粛したほうがいい」という警告し、5月14日の中距離弾道ミサイル「苛政2」の発射実験の成功後、「日本が慌てふためいている」とほざくほどである。
日本国民がはたして本当に慌てふためいているのかどうか、連日のマスコミ報道に辟易としている人や、最初からこのようなマスコミ報道には関心がない、聞こうとしない(見ようとしない)人たちには関係のない話であるが、要するに北朝鮮がミサイルを発射するのは、ICBМの開発のために、
1. 米本土に到達するミサイルの飛行距離
2. 弾頭部を保護する熱遮断技術
3. 核弾頭の小型化を実現させるために、発射を続けているのである。
マスコミ1社が代表してミサイル発射報道をすればいいのでは、という声が聞こえてきそうである。
毎年6月と言えば、「モネギ チョントゥ(田植え戦闘)」の話でもちきりになるのだが、今年はほとんど伝えられることはない。中朝国境にいる「定点観測者」からは、「今年も田んぼでは田植えのために大勢の人が手で植えている」と伝えてきたが、東北地方の貧しい農村地帯で育った私には、この田植えの話が一番関心があるのだが、日本のマスコミには関心がないようだ。
私はいつも「(海外への)恫喝にはミサイルを、田植えは“糞尿弾”で臨む」としてきたが、3月の国連安保理の採決に基づく、「北朝鮮経済制裁の実施」により中国などからの肥料の輸入量が減るのではないかと懸念していたが、これは2月に大量の石油と肥料を中国から輸入した、という記事である程度は安心していたが、北朝鮮の全国の田畑の農耕地に適した肥料がはたして十二分に供給されたのかは疑問である。
もう1つ気になっていたのが、マレーシアから北朝鮮に送還された金正男の遺体の件である。北朝鮮があれほどVXガスによる殺害ではないと否定していたので、その後、何らかの検査結果の発表があるのではないかと期待しているが、いまだにない(あるいは私の見落としか)。
ある外交評論家は「異母兄の金正男氏を、VXガスを用いて暗殺した。なぜ、他の毒物をいくらでも使うことができたのに、そうしなかったのか?VXガスを大量に貯蔵していることを、示したかったのだ」と、北朝鮮が大量のVXガスを貯蔵していることを言っているが、この評論家はどこから北朝鮮のVXガスの貯蔵量を調べたのか(聞いたのか)。巷のインターネットで、アメリカ、ロシアに次いで北朝鮮が2500~5000トンで世界3位の貯蔵量である、という記事をそのまま引用したのだろう。
この北朝鮮のVXガスの貯蔵量の出所は韓国国防部とされている。しかし、私が知る国防部の知人は「われわれはそのようなことは知らない」と言っていたが、VXガスを保有していることは事実であろう。さて、この金正男であるが、殺害時に12万ドル(約1300万円)を所持していたとマレーシアの警察当局が発表した。
正男が所持していた黒のバッグなどから大量の100ドル札が見つかり、これらはほぼ新札で300枚ごとに分けられ、4束あったという。正男は外交旅券を所持しており、出入国時に厳しい手荷物検査を受けずに済んでいたようで、この現金は「情報の対価」だったとのこと。ホテルで会った2人のアメリカ人男性に何の情報を渡したのか、こちらの方も気になる。
宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄
image by: Shutterstock