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米民主党の支持率は35年ぶりに最低。“トランプより嫌われた野党”がこのまま中間選挙を戦えるのか?

トランプ政権の暴虐ぶりが連日報じられる一方で、野党・民主党の存在感は薄れる一方です。2025年7月の世論調査では、民主党の純支持率はマイナス30ポイントと35年ぶりの最低を記録。なぜここまで国民に見放されてしまったのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では、著者でジャーナリストの高野孟さんが、話題の書『アメリカ民主党 失敗の本質』を紐解きながら、民主党が労働者を見捨てた歴史的経緯と11月中間選挙の行方を鋭く分析しています。

こんなふうで米民主党は11月中間選挙を戦えるのか?『アメリカ民主党 失敗の本質』を読む

シェークスピアの狂王劇のようなトランプ米大統領のホワイトハウスでの有様を毎日毎日見せられて、がっかりしたり怒ったりしているうちにすっかり忘れていたことがある。野党の民主党、そして米議会の姿がまったく視野に入って来ないが、彼らは一体どこへ行ってしまったのか、もしワシントンにいるのなら何をしているのだろうか、ということである。

もちろん、下院で共和党の220に対し民主党は215議席、上院も53対47議席で、僅差とはいえ両院で少数派に追い込まれている民主党に出来ることは少ないのかもしれないが、それにしてもこのトランプ政権の暴虐ぶりを眼前にして、ただひたすら隠忍自重、11月中間選挙で敵失による”大勝”が転がり込んでくるのを待つだけなのか。なぜ民主党はそこまで影が薄くなってしまったのかーーということをぼんやり考えている時に出会ったのがズバリ『アメリカ民主党 失敗の本質』というタイトルの本だった(東洋経済新報社、26年3月刊)。

共著者のジョン・ジュディスとルイ・テイシェイラはいずれも練達のジャーナリストで、しかも「民主社会主義者」つまり欧州の社会民主主義者に近い筋金入りの左派の立場から長年、民主党を支えてきた論客として知られている。それだけに、外からの表面的な批判ではなしに、内在的な党改革への提言が聞けるのではないかと思い、早速紐解いた。同書の結論は、「労働者階級と中間層の利益を最優先に考える政党」として民主党を再建しなければならないというもので、私が前々から漠然と考えていたこととピタリ一致する。

そこで、同書の要点を私なりの問題意識に引き寄せながら紹介することにしたい。それは、日本でも今や行方不明になってしまった旧民主党以来のリベラルの潮流をどうしたら再興出来るかを考える上で多少の参考になるかもしれない。

民主党はいつから労働者と離れたのか

1930年代の大恐慌の時代、フランクリン・ルーズベルト大統領によって形成された「ニューディール連合」は、当時急拡大しつつあった労働組合を中核としながらも、南部の保守的な白人層、農場経営者、マイノリティ、知識人を含む広範な人々による民主党支持ネットワークで、まさにその広範さによって同党は「人々あるいは人民(the people)の党」とさえ呼ばれた。それに対し共和党は「経営者と富裕層の党」と見られていた。

ルーズベルトの4期16年とその後継のトルーマンの1期4年を合わせると20年にも及んだ民主党王国時代の後、1952年にようやく共和党が政権を奪ったけれども、その候補者のアイゼンハワーは第2次大戦勝利の元帥としての国民的英雄であって、本人が「どちらの党で立っても良かったが、民主党政権が長く続いていた後なので共和党にしようかと思って」という程度の共和党候補者だったので、この頃にすでに「経営者と富裕層の党」というイメージは意味をなさなくなっていたと見るべきだろう。

これに対して民主党は、1960年にジョン・ケネディを立ててアイゼンハワーの2期から政権を奪回し、彼の狙撃死の後を埋めたリンドン・ジョンソンまで含めて1960年代のほとんどは民主党時代なのだが、その頃に盛んになったのがキング牧師を筆頭とする「公民権運動」で、ジョンソン時代に一切の人種差別を禁止する公民権法が成立した。さらに、役所、企業、大学に黒人を白人と同等もしくは優先的に採用することを義務付ける「アファーマティブ・アクション(積極的取り組み)」政策も導入された。

そのこと自体は、社会的に大きな意義のある進展であったけれども、それまで民主党の主要な支持基盤であった労働組合の中心をなす白人労働者や南部の白人層の多くはそうは思わず、ルーズベルト以来の「連合」から離脱し始めた。これが民主党と労組の乖離の端緒である。

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クリントン政権のIT&金融戦略

第2の、そして決定的な転機は、クリントン政権下で起きる。ジュディスとテイシェイラはこう書いている。

▼クリントンおよびオバマ政権期には、ハリウッド、シリコンバレー、ウォール街、さらには環境保護団体、公民権団体、フェミニスト団体が影響力を強め、労働運動は二次的、あるいは三次的な位置に追いやられた。 ▼現在、民主党の「影の政党」には、 (1)アメリカ自由人権協会(ACLU)、サンライズ・ムーブメント、全米家族計画連盟、ブラック・ライブズ・マター(BLM)といった団体、 (2)『ニューヨーク・タイムズ』紙、MSNBC、Voxなどのメディア、 (3)フォード財団やジョージ・ソロスのオープン・ソサエティ財団といった基金、 (4)アメリカ進歩センターなどのシンクタンク ーーが含まれる。……

ここから先は同書では余り語られていないので、私見で補いたい。こうなってきた背景には、産業構造の大きな転換があった。ルーズベルトの時代から1950年代にかけては、鉄鋼、自動車、航空・宇宙、化学、兵器など重厚長大産業や繊維など大規模軽工業が中心で、それら全てを軍需面から統合する形で「軍産複合体」と呼ばれる化物が成長を遂げてきた。ルーズベルトのニューディールは、ケインズ的な公共事業への政府支出で大恐慌から脱出しようとしたと言われるが、実際にはそれが功を奏するより先に第2次世界大戦に突入し、究極の公共事業と呼ばれる戦争特需で溢れ返ることで経済を立ち直らせたのであり、それを通じて軍産複合体を核とする産業構造が出来上がり、戦後になっても「冷戦」の開始、やがてベトナム戦争への全面参戦という中でそれが肥大化し続けた。その時代は、労働運動の面から見れば、大企業の白人労働者を中心とする労働組合の最盛期ということでもあった。

やがて冷戦が終わり、それを受けて1992年にクリントン政権が登場すると、経済政策もまた脱冷戦志向となり、ゴア副大統領の「情報スーパーハイウェイ構想」に導かれてシリコンバレーを中心としたコンピューター・情報通信産業が爆発的な発展を遂げ、それが95年のインターネット解禁へと繋がっていく。インターネットは、周知のように、国防総省の高等研究計画局(ARPA)が核戦争に備えてどんなことがあっても全国の主要な国防研究機関の間の情報のやり取りが途切れることのないよう、「分散型」のパケット通信のネットワークとプロトコルを開発していたのが原基で、それを全米科学財団を通じて最初はアカデミズムに、続いて民間企業にも公開したもので、これによりグローバルな情報通信革命が激発された。

当時このような軍需で培った先端技術の民間開放は「軍民転換」と呼ばれ、インターネットだけでなく、例えば米軍の指揮・通信システムの専用とされていた通信衛星を通じての高品質デジタル通信技術は民間のデジタル衛星テレビ放送技術へと転生し、たちまち世界中に波及した。

またインターネットの普及とコンピューターの高性能化に伴って金融のIT化が進み、容量と速度に事実上制限のない「仮想電脳空間」を金融取引情報が飛び交うという想定外の事態が展開し、すでに地上では物理的な限界にぶつかっていた世界資本主義はそこに仮初の生き残りの道を見出すことになった。

このような米国経済の大変革の結果として、IT開発の世界センターとなったシリコンバレー、世界最強のコンテンツ産業の担い手のハリウッド、ITで水を得た魚のように生き返ったウォール街などが民主党政治への影響力を強めたのである。

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取り残された労働者は共和党に救いを求めた

クリントンやゴアが、シリコンバレーの若い起業家やウォール街の大物金融家などにチヤホヤされるのはそれでいいとして、真っ当な政治家として大事なのは、そのような時代の波に上手く乗って金も名誉も得ている一握りの人たちとはかけ離れた境遇にある大多数の人々である。

ここから先はさらにジュディスとテイシェイラの同書から離れて、私の本棚で35年前から待機している別の書物を引っ張り出そう。ロバート・ライシュ『ザ・ワーク・オブ・ネーションズ(諸国民の労働)』(中谷巌訳、ダイヤモンド社、1991年刊)である。ライシュはハーバード大学の経済学の教授で、イェール大学ではビル&ヒラリー・クリントンと同級生という縁もあってクリントン政権第1期に労働長官を務めた。その直前の90年に出版した上掲書の原著を提げて閣僚入りしたが、思ったほどのことを実現できず、失望して1期で辞めたと言われている。このタイトルは、言うまでもなくアダム・スミスの『ザ・ウェルス・オブ・ネーションズ(諸国民の富)』を意識したもので、そこに著者としての意気込みが感じられる。

彼は、米国を筆頭に地球規模で進展するこの経済大変動の下では、従来の職業分類はまったく意味をなさないとして、新しい「3つの職種区分」を提唱する。

第1は「ルーティン生産サービス」で、「かつて米国資本主義の歩兵部隊が演じた繰り返しの単純作業」である。90年現在、このサービスは米国の雇用の4分の1を占めるが、その人数は減少しつつある。金属を扱う産業では白人男性が多く、繊維、半導体、情報処理業ではヒスパニックや黒人女性が多いけれどもその監督者には白人男性が多い。

第2は「対人サービス」で、「小売店員、ウェーターとウェイトレス、ホテル従業員、守衛、銀行の窓口係、病人介護や付添人、老人ホーム介護者」、託児所労働者、家庭の掃除請負い、病人の家庭介護者、タクシーの運転手、秘書、美容師、自動車整備士、住宅の販売人、航空機のスチュワーデス、診療医師、警備員など」。米国人の仕事の30%を占めてなお増加傾向にあり、全体に女性が多い。

第3は「シンボル分析的サービス」で、これは聞き慣れない言葉だが、グローバル化の波に乗ることのできる専門家や知識労働者の類と考えて差しつかえない。「研究科学者、設計技術者、ソフトウェア開発者、建設技術者、生物工学技術者、音響技術者、公共関係専門家、投資銀行家、法律家、不動産開発専門家、専門会計士など。さらに経営・金融・税務・エネルギー・農業・軍事・建築などの分野のコンサルタント、経営情報専門家、組織開発専門家、戦略プランナー、ヘッドハンター、システム・アナリスト、広告プランナー、マーケティング戦略家、アート・ディレクター、建築家、映画監督、写真家、工業デザイナー、出版人、作家と編集者、ジャーナリスト、音楽家、テレビ・映画プロデューサー、大学教授も含まれる」。ほとんどは4年制大学を卒業し、その多くは学位を持つ。圧倒的に白人男性が多いが、白人女性、ヒスパニックや黒人も徐々に増えている。しかし雇用の20%を超えていない。

この中でどんどん豊かになるのは第3のシンボル・アナリストだけで、他は次第に貧しくなっていく。その貧しい多数派の間では、「外国のものを等しく軽蔑する排他性」が強まり、「われわれが勝つか彼らが勝つかという『ゼロ・サム』ナショナリズムが公共精神を腐敗させ、……行き着くところ、人々は自国民だけの福祉を向上させ、地球上の他のあらゆる人々に害を及ぼすような政策を支持するようになり、そこで他の国も自衛上、同じことをするのである。軍備は拡張され、貿易障壁は高くなり、冷戦は熱い戦争となる」。

3分の1世紀以上も前にトランプ政権の登場を見越していたかのようだが、まさにクリントン政権もオバマ政権もこの取り残されて貧しくなっていく白人中心の多数派に十分に手を差し伸べず、むしろBLMやLGBTQや移民や地球環境を心配する人たちなどの急進的な少数派グループの言い分に耳を傾けようとする「社会的リベラリズム」へと流れていく。そこを突いて、トランプが白人多数派を一気に浚ったのである。

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さあ民主党はどうするのか?

再びジュディスとテイシェイラの書に戻れば、巻末の解説でジャーナリストの会田弘継がこう書いている。

▼トランプ2.0政権に世論もあきれかえっているように見えた2025年7月、『ウォールストリート・ジャーナル』が公表した世論調査は、米市民があきれかえっているのはトランプ政権よりも、むしろ民主党であることを示していた。

▼同党への支持率(33%)から不支持率(63%)を引いた「純支持率」はマイナス30ポイントで、1990年以来の35年間で最低を記録。……民主党を「強く支持する」人は8%にすぎず、共和党の19%の半分以下。インフレや移民対策など個別政策についても、市民は民主党より共和党をずっと信頼しているという結果が出た。こうしたことを含めて、どうも米国の状況が日本にはよく伝わっていない。……日本の知識社会はトランプ出現の意味はもとより、民主党という政党について考え違いをしているのではないか。

▼トランプ現象は白人労働者の人種差別意識が引き起こしているという(日本の知識社会で特に顕著な)見方は、実態とずれている。あらゆる人種にわたって労働者階級はトランプと共和党を支持する方向に動いている。……

さてそうなると、今年11月の中間選挙で共和党が大敗し、トランプ政権が一気にレイムダック化していくという見通しは、まったくの希望的観測に過ぎないのだろうか。それとも民主社会主義者を名乗る34歳のインド系ムスリムのゾーラン・マムダニNY市長の誕生や、保守地盤のテキサス州で連邦上院選候補に浮上した36歳の元神学生=ジェームズ・タラリコ州下院議員などは、ジュディスとテイシェイラの書でもまだ描き切れていない民主党の若き救いの神々となる可能性を示しているのだろうか。

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image by: Shutterstock.com

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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