遺族厚生年金は、配偶者を亡くした遺族の生活を支える大切な制度です。これまでは発生したら終身で受給できるのが当たり前でしたが、令和10年4月から大きな転換期を迎えます。60歳未満の方が新たに受給する遺族厚生年金は、原則として5年間の有期年金へと変わるのです。今回のメルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では、著者の年金アドバイザーのhirokiさんが、令和10年度から始まる遺族厚生年金の新制度について、その背景や仕組み、金額の変化、廃止される中高齢寡婦加算まで、具体的な事例を交えてわかりやすく解説してくださいます。
遺族厚生年金が終身から5年有期年金へ
令和10年4月1日から新規で遺族厚生年金を受給する事になった60歳未満の人は原則として5年間の有期年金となります。
今までの遺族厚生年金というのは発生したら終身で受給するのが普通でしたが、それが一気に5年の有期年金へと変化することとなりました。
遺族厚生年金というのは元々は女性に有利な年金でした。
どうして有利だったのかというと、昔は男性が外で働いて、女性は家の事をするという役割分担が色濃い時代でした。 特に昭和時代ですね。
で、夫が亡くなると妻の生活は途端に苦しくなってしまうので、遺族年金で終身で保障するという形が一般的でした。
ところが昭和61年から施行された男女雇用機会均等法からは社会進出していく女性が増え、それまで多数派だった専業主婦世帯から共働き世帯へと移り変わっていきました。
共働き世帯が専業主婦世帯を抜いたのは平成6年ごろですが、それ以来働く女性がどんどん増加していく事になりました。
現在では男女共に働いて給料も男女そんなに変わらないようになってきました(といってもまだまだ差がありますが…)。
そうすると男女とも老齢になればそれなりの老齢年金を受給する事ができるようになります。
すると遺族年金の役割が薄れる事になっていきました。
男女共に働くから、どちらかが亡くなっても収入としてはなんとかやっていけると。
よって、遺族厚生年金は配偶者が亡くなってから生活を立て直すまでの期間として、5年の有期年金となったのです。
その5年間で生活を立て直してくださいねという期間。
ただし、誰でもそうなるというわけではなくて60歳未満の人が対象となります。
今現在は遺族厚生年金は終身ではありますが、そうではなかった年代の人がいます。
それは遺族厚生年金を30歳未満から受給できる妻です。
平成19年4月改正により、30歳未満で遺族厚生年金がもらえる妻は5年間の有期年金となりました。
それが60歳未満の人にまで拡大されます。
しかしながら30歳未満の人が対象だった妻がいきなり60歳未満の人まで対象範囲を広げるわけにもいかないので、まずは令和10年4月1日時点で40歳未満の人である1989年4月2日以降生まれの妻(40歳未満の人)からが5年有期年金の対象となります。
20年かけて40歳未満から60歳未満に対象を拡大していきます。
あと、男性の方ですが、男性が遺族厚生年金を受給しようという時はまずは妻死亡時に55歳以上である事が絶対条件でした。 55歳以上であり実際の受給は60歳からとなります。
従来はそういう制度でした。
しかしながら60歳未満で遺族厚生年金が受給できる人は原則として5年間となったので、男性が受給しようという時の「55歳以上である事」というのが無くなりました。
よって、男性も60歳未満であれば例えば40歳くらいからでも5年間の遺族厚生年金を受給できるようになったわけです(令和10年4月1日以降に新規で遺族厚生年金が発生する人は)。
遺族厚生年金を受給できる要件と金額の変更
遺族厚生年金を受給しようという時は、本人死亡時点で本人に生計を維持されていた配偶者に対して給付が行われます。
この生計を維持されていたというのはどういう場合を言うのでしょうか。
簡単にいえば、以下のようになります。
ア.死亡者と住民票が一緒だった(生計を同じくしていた) イ.本人死亡当時、配偶者の前年収入が850万円未満(もしくは前年所得が655.5万円未満)←これを収入要件という。
この2つを満たす場合が生計を維持されていたとなります。
本来はそうだったんですが、5年間の遺族厚生年金ではイの収入要件が撤廃されます。
生計を同じくしていれば遺族厚生年金を貰えるようになったんですね(他に保険料納付要件も満たす必要がある)。
なお、60歳以上で遺族厚生年金が発生する人は終身年金なので、収入要件は必要となります。 60歳以上で遺族厚生年金が発生する人は従来の遺族厚生年金と変わりありません。
ちなみに、遺族厚生年金と共に国民年金からの遺族基礎年金が発生する事があります。
遺族基礎年金は18歳年度末未満の子がいた時に「子のある配偶者」または「子」に発生する年金です。
この遺族基礎年金に関しては収入要件が必要であり、また、5年有期とはなっていません。 遺族基礎年金は従来の制度とほぼ同じと考えてもらえればいいです。
ここで注意が必要なのですが、もし遺族厚生年金と遺族基礎年金が発生した場合です。
遺族厚生年金と遺族基礎年金が受給できる際は遺族基礎年金が受給できている間は遺族厚生年金も受給する事ができます。
遺族基礎年金の受給権を失ってからは遺族厚生年金のみとなるので、遺族基礎年金を失ってから5年間が遺族厚生年金をもらう事ができます。 ここは注意ですね~
なお、この両者の年金を受給していた時に、遺族基礎年金の受給権を60歳以上になってから失った時はそれ以後の遺族厚生年金は終身となります。
遺族基礎年金を失った時に60歳未満だったら、そこから5年間が遺族厚生年金となります。
5年経って全額停止のまま2年が経過すると遺族厚生年金は失権します。
年金額は4分の4まで受給可能に
次に遺族厚生年金の金額ですが、今現在の制度では死亡者報酬比例部分の4分の3の額となっています。
しかし、5年間の有期年金ではその額に4分の1の「有期加算」というのが加算されます。
つまり、年金額が死亡者の報酬比例部分の4分の3ではなく、4分の4貰えるって事ですね。
5年間のうちに生活を立て直す期間なので、給付を手厚くする制度となっています。
そして、5年間の有期年金だった人が、65歳になると老齢厚生年金などを受給する事になると思いますが、その上に死亡加算という年金が生涯加算されます。
死亡加算というのは死亡した配偶者と婚姻期間の厚生年金記録を半分分けてもらう制度です。
なんか離婚分割と似てますね^^
例えば婚姻期間中に死亡者が稼いだ厚生年金記録が80万円であり、例えば妻はその間40万円稼いだとします。
すると80万円+40万円=120万円を半分にして、それぞれ60万円ずつにするのが離婚分割ですが、それと同じ事を死亡加算でやります。
妻は離婚分割のやり方で20万円の年金が増えたので、将来妻が老齢厚生年金を貰う時に、その上に20万円の年金を加算してもらいます。
将来の老齢厚生年金が50万円だったら、その上に死亡加算が20万円ついて合計70万円貰う事ができるという事ですね。 これは終身で受給する事ができます。
請求は5年有期年金が終わってから、5年以内に請求する必要があります。
年金は65歳以降に加算されます。
ただし、請求月の翌月からの年金となるので早めの請求をしたほうがいいですね。
縮小され25年後には廃止される中高齢寡婦加算
現制度に、夫死亡時に妻が40歳以上だった時に発生した遺族厚生年金に中高齢寡婦加算というものが加算される場合があります。 年額は令和8年度では635,500円となっていて、なかなか大きな額となっています。
中高齢寡婦加算は今後は令和10年4月2日以降に受給する人から25年間かけて金額が縮小され、令和35年(2053年)4月2日以降に受給する人からはもう受給する事が無くなります。
中高齢寡婦加算というものがどうして存在したのでしょうか。
遺族年金というのは昔の女性に配慮された制度設計になっていますが、遺族厚生年金ができた昭和61年当時は夫が就労し、妻が家の事をやるという家族構成が典型的でありました。 また、中高齢の女性は就労が難しく、就労ができても賃金が低いというような労働状況でした。
夫が死亡すると世帯の収入の低下を招き、その状態が将来にわたって続くものと見込まれたので、中高齢寡婦加算というものを遺族厚生年金に加算して年金額を補うものとされました。
でも現代は就労する女性も急増し、給与も上がってきているので中高齢寡婦加算の役割も低下し、廃止に向かう事となります。
というわけでザッと5年有期年金について述べてきましたが、論点は多いのでこれからちょくちょく遺族厚生年金について取り上げていきます。
では簡単に事例をここでは取り上げてみます。
5年間の有期年金の場合の遺族厚生年金
◯昭和60年8月2日生まれのA夫さん(令和8年に41歳になる人)
・1度マスターしてしまうと便利!(令和8年版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法。 https://ameblo.jp/mattsu47/entry-12952308425.html
・絶対マスターしておきたい年金加入月数の数え方(令和8年版)。 https://ameblo.jp/mattsu47/entry-12953285949.html
20歳になる平成17年8月から平成20年3月までの32ヶ月間は学生だったので、学生納付特例免除による国民年金保険料全額免除をしていました。 この間は老齢基礎年金には反映しません。
平成20年4月から令和10年10月31日までの246ヶ月間は厚生年金に加入していました。 なお、この間の平均標準報酬額は56万円とします。
また、婚姻期間は平成25年6月から令和10年10月31日までの185ヶ月とします。 この婚姻期間中にA夫さんが稼いできた給与(標準報酬月額や標準賞与額)は9900万円とします。 妻はこの間は国民年金第1号被保険者期間とします(自由業をやっていた)。
ところがA夫さんは10月31日をもって厚生年金加入中に病気により急死してしまいました。 厚生年金期間は死亡日の翌日の属する月の前月まで数えるので、10月までが厚生年金期間となります。
さて、A夫さんは厚生年金加入中に死亡しましたが遺族に遺族年金は支給されるのでしょうか。
まず残された遺族は妻(平成2年3月生まれの令和10年時点で38歳の人。年間収入は400万円とします)、子はなしとします。 死亡時点で生計を同じくしていた遺族は妻のみ。
なお、一般的な遺族年金の場合は生計維持関係を見るために「遺族の収入が850万円未満であること、または所得が655.5万円未満であること」というのがありましたが、5年間の有期年金ではこの収入の部分は見ません。
あくまで、死亡時点で同居(生計を同じくしていた)という部分だけ見ます。
次にA夫さんの死亡日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間がある場合はその3分の1を超える未納があってはいけません。 これを保険料納付要件といいますが、過去の記録を見ると未納自体がないので大丈夫です。
よって、A夫さんの妻には遺族厚生年金が支給されます。
・令和10年10月31日発生の遺族厚生年金→56万円×5.481÷1000×300ヶ月(最低保障月数)÷4×3+有期加算56万円×5.481÷1000×300ヶ月÷4×1(有期加算という。これが新しく創設。よって遺族厚生年金が4分の3ではなく1まるまる貰える事になる)=920,808円(月額76,734円)
この遺族厚生年金は本来なら終身支給となっていましたが、令和10年4月1日以降に新たに発生する遺族厚生年金からは5年間の有期年金になります。
この5年間の間に生活を立て直してねという意味で、5年間の有期年金となりました。
期間としては、令和10年11月から令和15年10月分までの支給となります。
こうすると、ああ…遺族厚生年金は5年間だけか…と思ってしまいますが、5年を過ぎた後に一定の所得基準の人(大体、国民年金保険料免除基準に該当する人)は5年間を過ぎた後も支給が継続したりします。
継続給付は最大65歳まで続きます。
なお、この事例の妻は年収400万円もあるので、5年間の給付ののちに全額停止して、それが2年間継続すると遺族厚生年金は失権(消滅する)する事になります。
給付終了後にもらえる死亡加算とは
5年間で給付がなくなるとして、その後は何も給付がなくなってしまうのでしょうか?
実は65歳以降の妻の老齢厚生年金に死亡加算というのが加算されます(5年間の有期年金が終わってから5年間のうちに請求が必要)。
これは離婚分割と同じような制度であり、婚姻期間が平成25年6月から令和10年10月31日までありましたよね。 この間にA夫さんが稼いだ9900万円の記録を最大半分分けてもらいます。
この死亡加算は過去の遺族厚生年金が有期年金だった人に限る。
例えば妻が65歳から老齢厚生年金30万円と、老齢基礎年金60万円の合計90万円を貰うとします。
その老齢厚生年金に死亡加算が新たに加えられます。
・死亡加算(簡易計算)→9900万円÷2×5.481÷1000=271,310円となります。
よって、65歳からの妻の年金総額は老齢厚生年金30万円+死亡加算271,310円+老齢基礎年金60万円=1,171,310円となります。
なお、死亡加算は終身給付となり、途中で再婚などをしても失権しません。
このようにちょっと複雑なのですが、他のケースに関してはまた6月あたりに連続で有料メルマガのほうで出していきます。
※追記 令和10年4月1日前にすでに遺族厚生年金を受給している人は今回の5年年金には該当しません(終身年金)。
また60歳以上で遺族厚生年金が発生する人や、遺族基礎年金が消滅した時に60歳以上だった人は遺族厚生年金は終身年金となります。
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