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核を持たぬカダフィは殺され、核を持った金正恩は生き延びた。イランが「核保有」を諦めない衝撃の真実

2026年2月28日に始まったイラン戦争は、4月8日からの「停戦」を経てもなお、国際社会にとっては全く終わっていない状況です。トランプ大統領は5月11日、イランがアメリカ側の提案に対し「核兵器を保有しないことを約束しなかった」と非難しましたが、実はこの一言こそがイラン戦争の本質を物語っています。今回のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では、著者の国際関係アナリストの北野幸伯さんが、イラク戦争・リビア・北朝鮮の歴史を辿りながら、なぜイランが核保有を諦めないのか、そしてアメリカ自身がいかにこの事態を招いてしまったのかを、善悪では語れない「灰色の真実」として鋭く解き明かします。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:イラン戦争の本質~なぜ終わらない?

2月28日にはじまったイラン戦争。

4月8日から「停戦中」。

しかし、イランはホルムズ海峡を封鎖したままで、アメリカは逆封鎖をつづけている。

それで、国際社会にとっては、全然終わっていない。

トランプさんは5月11日、戦闘終結にむけたアメリカの提案に対するイランの回答について、

【 核兵器を保有しないことを約束しなかった 】

「ばかげたもの」

「受け入れられない」

と非難しました。

皆さん、イランが【 核兵器を保有しないことを約束しなかった 】というトランプさんの発言どうですか?

実をいうと、この一言が【 イラン戦争の本質 】なのです。

そして、この件を【 善悪論 】で語ると、とても複雑で、とても【 灰色 】であることがわかるのです。

核を持たぬ独裁者の悲惨な末路

ブッシュ(子)は2003年、イラク戦争をはじめました。

これは、「自衛戦争」でも「国連安保理の承認を受けた戦争」でもなかった。

明らかに「国際法違反」の戦争でした。

もっと悪いことに、アメリカの開戦理由、「サダムフセインは、大量破壊兵器を保有している」「サダムフセインは、9.11同時多発テロを起こしたアルカイダを支援している」は、両方とも【 大うそ 】でした。

ブッシュ(子)がこの戦争をはじめたことで、アメリカの威信は失墜。

覇権喪失のスピードは加速しました。

ブッシュ(子)が、ウソの理由で、国際法違反の戦争を開始した。

これを見ていた二人の独裁者がいました。

一人は、リビアのカダフィです。

カダフィは2003年12月、核兵器開発の放棄を約束し、無条件査察を受け入れました。

これを受けてアメリカは、「テロ支援国家指定」を解除。

2006年には、リビアとの国交を正常化。

めでたし、めでたし!

ところが、カダフィは長生きできませんでした。

なぜ?

2010年から2012年まで、いわゆる「アラブの春」という現象がありました。

中東・北アフリカ諸国で民主化を求める大規模デモが起こり、複数の独裁政権が打倒されたのです。

リビアでは、2011年内戦が勃発。

この時、欧米はどう動いたのでしょうか?

なんと、【 反カダフィ派 】を支援し、リビアを空爆したのです。

そして、2011年10月、カダフィは反体制派によって殺されました。

2003年に核兵器開発を放棄したカダフィは、その8年後死にました。

カダフィと正反対の道を進んだのが、北朝鮮です。

金正恩の父・金正日は2003年、核拡散防止条約(NPT)を脱退。

2006年に地下核実験を成功させ、事実上の核兵器保有国になりました。

金正日は、カダフィと同じ2011年に亡くなっています。

死因は、心筋梗塞。

後を継いだ金正恩は、同じ年に死んだカダフィと父・金正日の「死に方」の違いを見ました。

カダフィは、欧米の支援を受けた反カダフィ派につかまり、引きずりまわされ、惨殺された。

父・金正日は、独裁政権を維持し、病死しました。

そして、何よりも、息子・金正恩に、【 アメリカと戦える力=核兵器 】を残した。

金正恩は、「決して核兵器を放棄しない」と決意したことでしょう。

トランプ一期目の2017年、金正恩は、ミサイル実験を繰り返し、核兵器実験も行いました。

トランプは、金正恩を「チビデブロケットマン」と罵倒し、北朝鮮近海に軍を集結させていきました。

しかし、戦争は起こらなかった。

アメリカは、【 核兵器保有国 】北朝鮮を攻撃することができなかった。

トランプは、融和姿勢に転じ、金と3回首脳会談を行いました。

1回目、2018年6月 シンガポールで。

2回目、2019年2月 ベトナムで。

3回目、2019年6月、韓国と北朝鮮の境界である板門店で。

トランプの目的は、「北朝鮮に核兵器を放棄させること」。

一方、金正恩の目的は、「核兵器を保有したまま、制裁を解除させること」でした。

どちらもだまされることなく、会談は平行線。

北朝鮮核問題は、解決されないまま、今に至っています。

北朝鮮は、厳しい制裁下にあります。

とても貧しく、飢餓問題も時々報道されている。

ですが、体制崩壊に至ることはありません。

なぜ?

「北朝鮮必勝モデル」の誕生

2018年秋、トランプ一期目の副大統領ペンスさんの「反中演説」から「米中覇権戦争」がはじまった。

その後、中国、そして事実上の同盟国であるロシアは、北朝鮮をこっそり支援して守っているのです。

中露にとって北朝鮮は、「アメリカの侵略を止めてくれる【 緩衝国家 】」だからです。

こうして、【 北朝鮮成功モデル 】ができあがりました。

なんでしょうか?

【 核兵器を一発でも開発してしまえば勝ち 】

というのが、「北朝鮮モデル」です。

アメリカは、北朝鮮を攻撃できなかった。

他の国が核兵器を持っても、アメリカは攻撃できないでしょう。

とはいえ、極めて厳しい経済制裁を科されるでしょう。

でも、大丈夫。

中国、ロシアからの支援と交流で生き延びることができるのですから。

1、とにかく核兵器を保有してしまう

2、経済制裁は、中国ロシアとの交流で耐える

これが、【 北朝鮮必勝モデル 】なのです。

イランはなぜ核開発に舵を切ったか

さて、イランの「核兵器開発問題」がはじめて出てきたのは、2002年でした。

つまり、イラク戦争の前年です。

しかし、イランは、イラク戦争と独裁者フセインの末路を見て、核兵器開発をストップしました。

その後もブッシュ(子)政権は、非難をつづけていた。

ですが、実をいうと、アメリカも「イランは核兵器開発をしていない」ことを知っていたのです。

『毎日新聞』2007年12月4日付。

〈〈イラン核〉米が機密報告の一部公表 「脅威」を下方修正

[ワシントン笠原敏彦]マコネル米国家情報長官は3日、イラン核開発に関する最新の 機密報告書「国家情報評価」(NIE)の一部を公表し、イランが03年秋に核兵器開発計画を停止させたとの分析結果を明らかにした。〉 

さらに、『ロイター』2009年7月4日付。

〈イランが核開発目指している証拠ない=IAEA次期事務局長

[ウィーン 3日 ロイター] 国際原子力機関(IAEA)の天野之弥次期事務局長は3日、イランが核兵器開発能力の取得を目指していることを示す確固たる証拠はみられないとの見解を示した。

ロイターに対して述べた。

天野氏は、イランが核兵器開発能力を持とうとしていると確信しているかとの問いに対し「IAEAの公的文書にはいかなる証拠もみられない」と答えた。〉 

ここからわかることは何でしょうか?

ブッシュ政権が2000年代、「イランは核兵器保有を目指している!」と非難していたのは、「ウソだった」ということです。

それで、リベラルなオバマが2015年7月、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国 を巻き込んで「イラン核合意」を成立させました。

これで、イランは制裁が解除され、石油が輸出できるようになった。

イランは、そもそも核兵器を開発する気がなかったので、大いに喜びました。

ところが2018年5月、トランプが、イラン核合意から一方的に離脱。

2018年8月、イラン制裁を復活させます。

これは、何でしょうか?

イスラエルは、「イランが核兵器開発を目指している」と確信している。

トランプは、親イスラエルなので、核合意から離脱したのです。

再び苦しくなったイラン。

そもそも核兵器を開発する気はなかったのですが、追い詰められ、ある時点で気がかわったようです。

徐々にウラン濃縮度をあげていきました。

ここから、2023年のお話。

『時事』2023年3月5日。

<イランを訪問した国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は4日、ウィーンの空港で記者会見し、イラン中部フォルドゥの核施設で核兵器級に近い濃縮度83.7%のウラン粒子が検出された問題について「その水準の濃縮ウランは蓄積されていない」と述べた。> 

「核兵器開発には濃縮度90%以上が必要」とされている。

イランは2023年3月時点で、濃縮度を83%まで上げていた。

つまり、2023年内に核兵器を保有する可能性が高くなっていました。

そして、イランは2023年9月、IAEAの査察を拒否します。

日経新聞2023年9月17日付。

<国際原子力機関(IAEA)は16日の声明で、イランからIAEAの一部査察官の受け入れを拒否すると通告があったことを明らかにした。

査察官はウラン濃縮などを検証している。

グロッシ事務局長は「強く非難する」と述べ、査察に深刻な影響が出るとして再考を求めた。

国際社会の懸念が一層強まるのは必至だ。> 

これは、普通に考えて「いよいよ核兵器保有が近づいている。そのことがバレないようにIAEAの査察を拒否している」と考えられるでしょう。

というわけで、【 イランは核兵器保有を目指している 】ことは、間違いありません。

ブッシュ(子)が、「フセインは大量破壊兵器を保有している」といったのは、【 ウソ 】でした。

一方、トランプが、「イランは核兵器保有を目指している」といったのは、【 本当 】です。

(@@イランが、核兵器保有を目指し始めたのは、トランプが核合意から一方的に離脱し、制裁を復活させたからですが・・・)

さて、2025年6月、トランプ・アメリカは、イランの核施設を攻撃しました。

しかし、すべてを破壊することはできなかった。

国際原子力機関(IAEA)は、「イランは、ナタンズ、イスファハンの地下施設にいぜんとして60%濃縮ウラン440キロと20%濃縮ウラン200キロ近くを保有している」と発表しています。

そして、トランプさんは5月11日、戦闘終結にむけたアメリカの提案に対するイランの回答について、

【 核兵器を保有しないことを約束しなかった 】

「ばかげたもの」

「受け入れられない」

と非難しました。

これは、まさに【 イラン戦争の本質 】を示しているのです。

歴史を振り返ってみると、アメリカにも、責任があることがわかります。

・ブッシュ(子)は、ウソの理由で、国際法違反のイラク戦争を開始し、独裁者フセインを逮捕して、死刑にした

・アメリカは、2003年に核兵器を放棄したリビアのカダフィを、8年後の2011年に殺した

・アメリカは、北朝鮮の核兵器開発を止めることができず、核兵器保有を許してしまった

・トランプは、「イラン核合意」から一方的に離脱し、制裁を復活させることで、イランに【核兵器保有の決意】をさせてしまった

アメリカは、実に罪深い。

しかし、イランが現在、【 核兵器保有の意志を持っている 】ことは間違いない。

そして、イランが核兵器を保有したら、国際社会が困るというのは、その通りなのです。

イスラエル消滅と核ドミノの恐怖

まず、イスラエルが消滅する可能性がある。

イスラエルは核兵器をもっていますが、領土は四国程度の広さしかありません。

一方、イランの国土は日本の4.4倍。

イランは、イスラエルより74倍大きい。

核の打ち合いになれば、イランは生き残り、イスラエルは消滅します。

次に、他の中東諸国が、こぞって核兵器保有を目指す可能性がでてくる。

戦争がはじまった後イランは、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、カタール、バーレーン、オマーンなどを攻撃しています。

米軍関連施設だけでなく、石油インフラやその他の民間施設も攻撃している。

こんなイランが、核兵器をもったら?

周辺諸国は、安心できないので、「俺たちも核兵器を持とう!」となるかもしれない。

というわけで、トランプに「イラン暴走の責任」があるにしても、【 イランの核兵器開発を止めること】は、「いいこと」なのです。

そういう意味で、私はアメリカの勝利を願います。

過去のアメリカの行動が、今回の悲劇を生みだしたことを理解した上で。

(もちろん、交渉でイランが核兵器開発を断念するのが、ベストです。)

image by: Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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