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喫煙者数は増えている。「途上国」で巨大化するアジアのタバコ企業

日本でも年々拡大する「全面禁煙」の流れで、肩身の狭い思いをしている喫煙者たち。しかし、以前もお伝えした通り世界レベルでは喫煙者の数は増加しており、さらにタバコ会社はM&Aによってますます巨大化しています。今回のメルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』では、著者で現役医師の徳田先生が、タバコ会社が公然と撒き散らす健康脅威の恐ろしさと、それが放置されている現状に怒りの声を上げています。

アジアのタバコ会社による健康脅威

2017年3月に、インドネシア大学に招聘された私は、初めてインドネシアを訪問しました。インドネシア大学医学部の教員の先生方に身体診察法の教え方を教えるためでした。ところで、イスラム教国であるインドネシアではほとんどの人々はお酒を飲みません。しかしながら多くの男性がタバコを吸っているのを見かけました。

最近インドネシア政府が、2020年までに国内でのタバコの生産量を現在の約3倍に増加させると発表しました。インドネシアはすでに世界第4位の喫煙者数を出しています。そして10年以内に喫煙者世界第一位になる予想がなされていたときに、この発表がなされたのでした。

実はこのインドネシア政府の動きは、世界的なタバコ会社の激しい商業主義的競争原理主義がもたらした出来事でした。1990年以降、世界の大手タバコ会社はM&A(企業同士の合併吸収)を繰り広げて巨大多国籍企業となっていきました。市場価値では、フィリップモリスとブリティッシュアメリカンタバコは二大巨頭です。

アジアの振興タバコ会社

そのような状況で乱入会社が多数出てきました。アジア各国政府が部分的に指揮経営をしているアジアの振興タバコ会社たちです。これらの会社は、各国政府のバックアップも受けながら、かつグローバリゼーションのシステムをうまく利用して世界進出しています。

その中で市場価値世界第3位に躍り出ているのが、なんと日本たばこ(JT)のJapan Tobacco Internationalです。JTIは1999年に設置され、すでにRJレイノルズやレームツマ、ギャラハーなどを買収し巨大多国籍企業となりました。日本に続いて、韓国やタイ、台湾そして中国のタバコ会社が多国籍企業となって拡大路線に参戦しています。

1980年代まで、アジア各国のタバコ会社は専売公社の立場でほぼ独占的に国内のシェアを確保していました。そこでアメリカの貿易代表やWTOが市場の解放を求めてきました。その結果、市場開放したアジア各国のタバコ会社におけるマーケットシェアは縮小しました。そこで出てきた戦略が海外マーケットだったのです。

一早く民営化に成功した日本のJT韓国のKT&Gは、アジアだけでなくヨーロッパや中東などにもマーケットを拡大させています。また、最近注目されているのが、中国国営タバコ会社です。主に国内需要の段階ですが、この会社はすでに、世界のタバコの約3分の1を生産しています。中国内外で工場建設ラッシュに入っています。

多国籍タバコ会社による健康被害

このような多国籍タバコ会社のバトルロイヤル状態で世界の人々の健康状態はどうなるのでしょうか。まず、激しい市場競争原理主義によってマーケットは拡大します。すでに年間6億人もの人間を殺しているタバコがさらに拡大生産されるのです。多くの人々が早く死ぬことになります。

タバコ会社の収益から得られる税金によって、各国政府は目先の利益を過大評価します。タバコ会社のロビー活動は巧妙です。アルパチーノ主演の映画「インサイダー」は、アメリカの某タバコ会社がタバコの害を隠していたことが会社の内部通告者によって暴露された事件を映画化したものでした。この事件で莫大な賠償金をタバコ会社は患者グループに支払いました。

タバコ会社との戦い

グローバリゼーションのシステムの中で巨大化するタバコ会社が人々に病気をもたらしている状況で私たちは何をすべきでしょうか。人々の健康を守るべき医療やメディアに関係する人々は、結束してこの市場原理主義的多国籍タバコ企業の活動に対抗すべきでしょう。

世界銀行が昔から指摘しているように、タバコ会社の収益増大は結果的に国々で経済的損失をもたらします。そのことを、各国の総理大臣や財務大臣、主要な政治家に理解してもらうべきでしょう。

タバコによる病気の健康保険支出と病気になった人の生産活動の喪失を合わせると、地球上のGDPの約2%の損失にもなります。この莫大な経済損失被害の40%は新興国が受けています。喫煙率が高いためです。

しかも多国籍たばこ会社は新興国の安い労働力を求めて工場をどんどん建設しています。労働力を安く使ってしかもその労働者にタバコを吸わせて早死にさせているのです。日本の人々は、日本のタバコ会社が世界3大の凶悪会社になっている事を理解して、政治家や官僚を動かし、その会社の活動を押さえ込むべきでしょう。

文献:Lee K ER al. Looming threat of Asian tobacco companies to global health. Lancet. 20 May 2017.

image by: Shutterstock.com

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