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トヨタに未来はあるのか? EV車への完全シフトに出遅れたウラ事情

EV(電気自動車)への完全シフトを踏み切れないトヨタ自動車に未来はあるのか? そんな鋭い質問が、世界的プログラマー・中島聡さんの発行するメルマガ『週刊 Life is beautiful』に寄せられました。この難しい質問に対して、自動運転車を所有し日米の自動車業界にも明るい中島さんが詳しく解説しています。

トヨタに未来はあるか? 中島聡に寄せられた質問

今週は、こんな質問がありました。

トヨタ自動車の未来についての質問です。

Q. 先日、トヨタ自動車とマツダ自動車が資本提携を結び、将来的にはEVの共同生産も開始するといった情報が出ておりました。トヨタ自動車としてはイノベーションのジレンマでなかなかEVへの完全シフトに踏み切れない事情もあると思うのですが、今のままだと世界のEVの潮流に完全に取り残されてしまうリスクもあるのと思います。トヨタ自動車がこのまま中途半端なEVシフトしか対応しなかった場合、トヨタはどのようになっていくと思いますか?また、もしも、EVに本腰を入れて取り組んだ場合、大胆なリストラや関係会社をドラスティックに切っていくようなこともやっていかなければならないと思うのですが、そんなことトヨタにはできるでしょうか?

タイムリーな質問、ありがとうございます。

EVへのシフトは、もはや時間の問題でしかないと私は見ていますが、そのスピードに関しては、各国政府の政策、消費者マインドの変化、石油価格、既存の自動車メーカーの対応、Tesla Model 3 の成功、リチウムイオン電池の生産量と値段、中国を中心とした新規参入、など様々なパラメータがあるため、予測するのは簡単ではありません。

いずれにせよ、シフトは一夜で起こるわけではないし、全ての車両タイプで起こるわけではないので、たとえトヨタ自動車が中途半端な EV シフトをしなくとも、それが2~3年以内に売上や利益に直接的な大きな影響を与えるとは思いません。直接影響を受けるとしても、Tesla Model 3 と米国で直接競合する車種(小型の高級セダン)だけだと思います。

もちろん、中長期的にはトヨタ自動車自身も EV シフトをせざるを得ませんが、そこで一番のネックになるのがディーラーネットワークだと思います。ディーラーは、今や車両の販売価格と卸値の差で儲けるのではなく、販売後のサービスや部品で儲けるビジネスになっているため、メンテナンスがほぼ不要な EV 車を売るインセンティブが全く働かないのです。かといって、彼らのマージンを増やしていては、Tesla などのライバルとの価格競争に負けてしまいます。

EV だけ直売」のようなことが出来れば良いのですが現在のディーラーとの契約ではそれは無理だと思います。

ディーラーとの契約をかいくぐる「ウルトラC」として、今回提携を発表したマツダと EV 専門の新会社を作り、そこはディーラーを通さずに直売をするということも可能なように思えますが、それをディーラーたちが黙って見ているとも思えないので、痛みを伴う改革になることは確実です。

トヨタ自動車にとって、もう一つの大きな悩みは、莫大な開発費を投じてきた水素自動車です。「EV に本気で取り組む」とは、すなわち「水素自動車を捨てる」ことです。現在のように、「EV と 水素自動車は並行して進める」というメッセージを出している限りは、経営陣はまだ本気ではないと解釈して間違いないと思います。

痛みを伴う改革は、実際のところは「できるかどうか」ではなく「やるかどうか」なので、それは全て経営者たちの覚悟次第だと思います。

ちなみに、どんな大企業でもそうですが、トップが危機感を持っているにも関わらず、実際に働いている人たちは、日々の仕事に忙殺されて、大きな変化に目を向けている余裕もなく、結局対応が遅れてしまうということがしばしばあり(私が Microsoft にいた時にも体験しました)、それが改革の足を引っ張ります。

既存のビジネスを壊さず、かつ、同時に新しい変化に対応するということが非常に難しいことは、歴史が何度も証明しています。ここから数年の自動車業界からは目が離せません。

image by: Thampapon / Shutterstock.com

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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【著者】 中島聡 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 火曜日(年末年始を除く) 発行予定

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