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【時事英語】格差を是正する「ベーシックインカム制度」に欧米が注目

かつては一億総中流社会と言われた日本ですが、近年では国民間の経済的な格差が大きな社会問題となっています。無料メルマガ『山久瀬洋二 えいごism』では、英語のエキスパートの山久瀬さんは、日本より経済格差が深刻とされる欧米での格差を是正する画期的な方法として注目される「ベーシックインカム」制度を紹介。欧米各国の本制度導入への議論の現状を解説してくれています。

加熱する「ベーシックインカム」導入への議論

海外のメディアで報じられたニュースを解説します。日本のマスコミではあまり報じられない切り口で、本当はどういう意味で報じられているのかを私見を交えてお伝えします。

今週のテーマは、「円熟した社会が『ベーシックインカム』制度を導入するには」です。

【海外ニュース】
Universal basic income is generating considerable interest these days, from Bernie Sanders, who says he is “absolutely sympathetic” to the idea, to Mark Zuckerberg, Facebook’s chief executive, and other tech billionaires.

訳:バーニー・サンダースがフェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグや他の技術界の富裕者の打ち出した考えを強く支持し、万人に向けたベーシックインカムという考え方に大きな関心が集まっている
(New York Timesより)

【ニュース解説】
去年のアメリカの大統領選挙では、国がもっと国民の生活を向上させるために積極的に動くべきだとした民主党のバーニー・サンダース Bernie Sanders 候補が注目を集めました。

表題の記事のように、彼が、フェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグ Mark Zuckerberg などと共に打ち出したのが、ベーシックインカム Basic Income という制度の導入でした。

ベーシックインカムは、全ての国民に平等に政府が一定の資金を支給して、最低限の生活ができるようにするシステムのことを意味しています。

国民から徴収した税金を、根本的な格差を是正し、その結果、個人の自由と尊厳を守るために、差別感なく均等に振り分けようというのがベーシックインカムの考え方です。

今、アメリカだけでなく、日本をはじめ、世界中で格差 gap の問題が討議されています。

格差は個人の努力で是正されるという人と、社会的に不利益を被った人々は格差の壁を乗り越えることは困難だという人とで、意見が対立しているのです。

格差を是正するには、税金の投入が必要です。同時に国としての強力な制度の導入も必要です。

こうしたことから、格差を是正するために政策を実行することは、国が個人の自由を阻害し、国民の税金をばらまきに使うことになるのではという議論もアメリカなどでは根強くあります。

バーニー・サンダースの対極をいき、大統領となったドナルド・トランプはベーシックインカムをはじめとした政府による国民全体への均一なサービスには極めて否定的なのです。

日本でも、「定額給付金」や「子ども手当」の形で一時キャッシュを国民に支給したことがありました。しかし、根本的な格差是正には程遠く、選挙のためのばらまきという批判にさらされたのは記憶に新しいはずです。

そもそも、格差はどうして生まれるのでしょうか

貧しい者は子供に十分な教育を与えられないことから、その子供も経済的に恵まれた仕事につけないという悪循環。

過去に差別を受けていた特定の人々が、その時期に経済的、教育的な基盤を作れなかったことからくる悪循環など、事例をあげればきりがありません。

もちろん、災害や戦争などが人間の夢を砕いてしまう悲劇も忘れてはなりません。

欧米の場合、そうしたことで発生する難民を受け入れることが、格差の原因を作っていると指摘する人も多くいます。

従って、そうした人々を受け入れるべきか、将来ある人材のみを受け入れるべきか、はたまた人道的に全ての難民を受け入れ、柔軟で強靱な社会を作ってゆくべきか、議論は分かれています。

これら全ての議論の上に、今「ベーシックインカム」という概念が問われるようになったのです。

ここで、このシステムを考える上で、過去に格差是正のためにとられたいくつかの政策を振り返ってみます。

まず紹介したいのが、アファーマティブ・アクション Affirmative Action という制度です。

これは、もともと社会的に不利益を被っていた人々が公的な職場での採用などで優先されたり、会社等が積極的に雇用した場合に補助金が支給されたりする優遇制度を意味しています。

具体的な事例としては、アメリカのカリフォルニア州などでの、1960年代に公民権法が制定されるまで差別の対象となっていたアフリカ系アメリカ人への職場や教育施設での雇用への優遇措置があげられます。

また、マレーシアでは中国系の人々に比べ、マレー系の人々には経済的にハンディキャップがあるとして、教育機関への入学の優遇や会社経営をする場合、マレー人を必ず株主の一人にするなどといった制度があります。

こうしたアファーマティブ・アクションを逆差別だとして抗議する人がいることも事実です。

また、アファーマティブ・アクションとは別に、北欧などの一部の国では、犯罪者が犯罪に走る原因となる社会的な不公正を考え、罪を犯し収監された者に恵まれた環境でしっかりと教育などの機会を与え、人間としての尊厳を取り戻す扶助をしようという試みも実施されています。

アファーマティブ・アクションにせよ、ベーシックインカム制度にせよ、こうした制度を導入するには、生活保護や失業保険などの福祉政策とは全く異なる視点での検討が必要です。

つまり、これは恵まれない人への補助ではなく、国民全体の生活レベルと安心を保証する国家の基本的な制度なのです。

2016年にスイスでこの制度を導入するか国民投票が行われましたが、大差で否決されました。

オランダやフィンランド、そしてカナダなどでもこの制度の導入の検討にはいっていますが、未だに成功した事例はありません。

ベーシックインカムに向けた財源はどうするのでしょうか。

また、生活保護や失業保険などの福祉政策、年金制度などとの整合性をどのように位置付けるのでしょうか。

さらに、富裕層とそうでない国民との不公平感をいかに是正すればいいのでしょうか。

また、国の財政難に拍車をかけることにはならないのでしょうか。

課題はいくつかありそうです。

さらに、AIなどの進化で失われる職業による失業者の救済にこの制度が適しているかどうかという実験も必要となりそうです。

ベーシックインカムはすべての人が対象となることで、逆に不公平感を是正しようという画期的な発想でもあります。

しかし、この制度の導入には、国民がいかに格差を捉え、恵まれない境遇にある人への深い洞察と同情を共有できるかという課題を克服しなければなりません。

格差が個人ではなく社会全体の課題であるという意識への支持も必要です。

成熟し円熟した大人の社会によってこの制度が受け入れられるかどうか。

制度の導入にはこれから数十年の粘り強い試行錯誤が求められるのかもしれません。

image by:Shutterstock

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【著者】 山久瀬洋二 【発行周期】 ほぼ週刊

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