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会社で政治の話題は控えよう。日本人が知っておきたい国際的タブー

海外のメディアで報じられたニュースを中心に解説する、無料メルマガ『山久瀬洋二 えいごism』。著者である山久瀬さんはメルマガの中で、国際社会における日本人が知っておきたいタブーとその回避術について紹介しています。

 

日本人が知っておきたい国際舞台でのタブーとその回避術

今週のテーマは、「日本人が知っておきたい国際舞台でのタブーとその回避術とは」です。

【海外ニュース】

Offer your information voluntarily to create a comfortable environment to work in the global community. 

訳:自らの情報を積極的に語り、世界の人と働きやすい環境を創造しよう。 (山久瀬洋二のtwitterより) 

 

【ニュース解説】

北アイルランドに進出している国際企業の多くに規則があります。それは、会社の中で政治の話題をもちださないこと。このタブーをおかすと解雇されることもあるのです。どうしてでしょうか。

北アイルランドでは、イギリスからの分離独立運動が伝統的にあり、それがテロ行為にまで発展した経緯があります。しかも、この対立の背景にはカトリックとそうでない人々との宗教上の確執もあるために事情は複雑です。

そして、イギリス側に立つ人と、独立した上でアイルランドに帰属したいと思うこれらの人々が同じ職場に混在しているのです。北アイルランドの職場でそのタブーを破ると、会社が深刻な混乱にみまわれてしまう可能性があるのです。

最近話題になっているスペインでのカタロニアの独立問題についても同様です。スペインではカタロニアのみならず、北部のバスク地方にも独立運動が根強くあります。こうした事例は世界のいたるところでみられます。

このように、海外では政治の話題を職場に持ち込むことは非常識な行為とされるケースが多いのです。アメリカの場合、こうした民族や宗教の対立によって多くの人が移民として流れ込んできました。アメリカのパワーはその多様性にあるといわれています。しかし、それは同時に政治的、宗教的な立場の異なる人々が常にそばにいることを意味しています。

 

例えば、アメリカで3つの背景を持つ人がいて、夕食を一緒にしているとします。日本人、東欧系アメリカ人、そして中東系のアメリカ人です。まず、彼らはお互いに、相手がどういった背景をもった人かわかりません。日本人は外国からきているので、アメリカ人たちも多少はそのことを意識するかもしれません。しかし東欧系のアメリカ人からみるなら、前に座っている人がどこから来た人かはわかりません。

 

逆も真なりです。たまたま、何かの機会に相手が中東系の人だとわかったとします。しかし、その人がイスラム教徒なのか、さらに信仰を大切にしている人なのかどうか推測だけではわかりません。もしかすると、その中東系の人の出自は、イスラエルのために国を追われたパレスチナ難民かもしれません。実は、東欧系のアメリカ人の多くはユダヤ人の背景をもっています。であれば、お互いに相手のことがわからない以上、安易に自らの政治的スタンスについては語れないのです。

 

このように世界の多くの国では宗教的な背景も異なれば、国際情勢や国内の情勢に対する見解が異なっている人々が同居しているのです。しかも、それが極めて深刻な歴史的な過去とつながっていることもしばしばです。それを知らずに一方的に自らのスタンスで政治の話をすれば、思わぬ不快感を相手に与えてしまう可能性があるでしょう。

さらに例をあげれば、アメリカの中には、宗教的背景によって人工妊娠中絶に強い不快感を持つ人がいます。そうした人に彼らに共通した常識と異なる会話をしてしまったために、相手に思わぬ抵抗感を与えてしまった事例もアメリカの職場では散見します。

ですから、ある程度知り合いになるまでは、政治的なコメントを控え、お互いの交流を進める中で、少しずつ相手への理解を深めながら話題を広げてゆくのが、ビジネス上のコミュニケーションのやりかたなのです。

よく日本人は日本人ではない人を外国人と呼ぶことで、日本人と世界の他の人々とを区別しようとします。しかし、ここで語ったように、実際の世界は、ただ日本と海外とを分離すればよいという単純なものではありません。つまり、日本人は多様な世界の中の一つの民族に過ぎず、日本人も含め、それぞれ異なった人種や民族、国籍の人がいることからくる繊細さを常に心に抱いておく必要があるわけです。

であれば、当然相手方の政治的な事情や宗教的意識について軽率には触れずに、相手との会話を通して、少しずつ相手の状況がわかってきた段階で、より深い会話をしてゆく繊細さが必要なのです。

ではどうすればいいのでしょうか。逆に、自分から進んで開示した情報についてはプライバシーでなく、どんどん質問をしても構わないという意識が世界にはあります。

例えば、職場で家族の写真をみたときは、むしろ遠慮なくこの写真の方は奥さんですかなどといった質問をしたほうが、相手との紐帯を強くできるのです。しかし、そこに開示されていない情報はプライバシーに属します。そこを聞き出すことは却って相手の抵抗を招くはずです。宗教感、政治的スタンス、年齢、性的な趣向などは多くの場合、そのカテゴリーになるのです。

だからこそ、日本人には自ら進んで自分の背景や情報を提供し、相手にポジティブな好奇心を与え、会話を進めてゆくことをおすすめします。そうすれば、相手は開示された情報だと安心して、日本のことについて様々な質問をしてくるはずです。海外の人との交流の基本は、相手に対して自らが進んで情報を開示することにあるのです。 

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【著者】 山久瀬洋二 【発行周期】 ほぼ週刊

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