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国語学習のプロが、2020年大学入試改革を「改悪」と断言する理由

 文科省は2020年より現在の大学入試制度のシステムを大きく変更することを決定しています。具体的には、「記述式の設問」を導入し、より生徒の考える力を重視する試験内容に変更するそうですが、メルマガ『ふくしま式で文学・評論を読み解く!』の著者である、国語指導のカリスマ・福嶋隆史さんはこの入試改革は「授業改悪を呼び起こす」と断言。大学入試制度の改革が平時の授業に及ぼす影響を懸念しています。

〈2020年入試改革〉は「授業改悪」を呼び起こす!

2020年「大学入試改革」に向かって、教育界は着々と動いている。

入試が変わることの最大の問題は、実は入試そのものにあるのではない。

入試が変わると、授業が変わる。

これこそが、問題なのだ。

大学入試が変わると、高校の授業が変わる。

高校の授業が変わると、中学の授業が変わる。

同様に、大学入試対策予備校の授業が変わる。

高校入試・中学入試対策の進学塾の授業が変わる。

全てが、ドミノのように影響を受ける

もちろん、大学入試が変わるといっても、二次試験までもが完全にリニューアルされるわけではない。変わるのは、あくまでも従来のセンター試験だ。

とはいえ、50万人が受けるセンター試験が変わることが、二次試験に全く影響を与えないはずがない。多くの大学では、変革の流れに乗る(乗らざるを得ない)だろう。

では、その変革の流れとはどういうものなのか。

最も分かりやすいのが、「記述式設問の導入」である。

先ごろ2017年5月に、記述式設問のモデル問題例と、それを利用した 第1回・第2回のモニター調査の結果が公表された 。

案の定、50万人規模で記述式設問を課すことの難しさが露呈される形となった。 

その詳細は、 こちらに1万字の分析を無料で全文公開しているので、別途お読みいただきたい。

ただ、今回は、そういった「記述を課すことの難しさ」を訴えたいわけではない。 

問題は、授業が大きく影響を受ける点にある。

多くの教師・講師は、こう考える。

記述式設問が出るらしい。

じゃあ、授業でも記述式設問をたくさん与えなければ

文章(連続型テキスト)だけでなく、表・グラフ・イラストなど(非連続型テキスト)をもとにして考察するテストが出るらしい。

じゃあ、授業でも文章だけでなく表・グラフ・イラストなどをもとにして考察するようにさせなければ。

説明的な文章ではなく、会話のやりとりのような文章での出題が多いらしい。

じゃあ、授業でも、説明的な文章ではなく会話のやりとりのような文章を与えなければ。

駐車場の契約書までもが題材になっているらしい。

じゃあ、授業でも契約書を題材にしなければ。

Aというテストが出るらしい。

じゃあ、授業でもAさせなければ。

この短絡こそが、危険なのである。

先の例をまとめて言えば、こういうことになる。

思考力を問う出題がなされるらしい。

じゃあ、授業でも思考力を問うようにしていかなければ。

もっと単純化してみよう。こうなる。

考える力が問われるらしい。

じゃあ、考えさせなければ。

ただ「考える」だけの授業。

ただ「考える」だけで、「考える力」が身につく

そう思うところに、間違いがある。

ただ「バスケをする」だけの授業。
ただ「バスケをする」だけで、「バスケで勝つ力」が身につく。
それが間違っているのと、同じことである。
バスケで勝つためには、パス・ドリブル・シュートといった基礎技術を、段階的・系統的な手法によってトレーニングし、身につけることが不可欠だ。
それがあって初めて、バスケの試合で勝つことができる。
ところが、「バスケの試合で勝つためには、とにかくバスケの試合をすればよい」といった暴論が暴論と思われないどころか正論と思われ始めているのが、昨今の教育界の姿なのである。

考える力を測るテストが出る。
だから、考える力をつけさせる必要がある。
だから、考える授業をしよう。
──これは、間違っている。

考える力を測るテストが出る。
だから、考える力をつけさせる必要がある。
だから、考える力とは何かを今一度認識し直し、段階的・系統的にそれを身につけさせる授業をしよう
──こうでなければならない。

では、考える力とは何なのか?
その答えは、私がこれまで21冊の著書の中で繰り返し述べてきたことだ。
骨組みだけ、ここに紹介しておこう。
それは、次の「3つの力」に集約される。

言いかえる力……抽象・具体の関係(同等関係)を整理する技能
くらべる力………対比関係を整理する技能
たどる力…………因果関係を整理する技能

分かりやすく言えば、こういうことだ。

言いかえる力……「どういうことですか?」という問いに答える力
くらべる力………「どう違うのですか?」という問いに答える力
たどる力…………「なぜですか?」という問いに答える力

言いかえる力・くらべる力・たどる力。
これが、思考力における「パス・ドリブル・シュート」である。
詳しくは、私の著書をお読みいただきたい。

とだけ書くのは不親切かもしれないので、1冊だけタイトルを紹介しておこう。
「記述」という意味では、『” ふくしま式200字メソッド”で「書く力」は驚くほど伸びる! 』(福嶋隆史著・大和出版)が適しているだろう。
とにかく、「3つの力」のそれぞれを、細分化されたステップの中で身につける授業なしに、2020年の入試改革を乗り越えることは不可能だ。
「考える授業」をどんなにやっていても、これらの技能を意識させない限り、それは「ただ試合をさせているだけの授業」に終始する。

「考える授業」と、「考える技能を身につけさせる授業」とは、大きく異なるのである。

image by: shutterstock

福嶋隆史この著者の記事一覧

【2019.10~質問受付開始! 届いた全ての質問に答えます】国語指導のカリスマ福嶋隆史が今解き放つ、シンプル&ハイレベル読解技法の全て。書籍にできない塾内教材を惜しみなく公開。塾講師・学校教師、受験生とその親の皆さん必読。Eテレ「ニューベンゼミ」出演・監修。【著書】『「本当の国語力」が驚くほど伸びる本』『「本当の国語力」が身につく問題集』『「本当の語彙力」が身につく問題集』『”ふくしま式200字メソッド”で「書く力」は驚くほど伸びる!』(大和出版)など24冊・累計68万部

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【著者】 福嶋隆史 【月額】 ¥825/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎月 第4水曜日(年末年始を除く) 発行予定

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