最近メディアで「働き方改革」が大きく取り上げられることが多くなり、今まではあまり意識していなかった「働き方」について、多くの人が思いを巡らすようになりました。今回の無料メルマガ『新米社労士ドタバタ日記 奮闘編』では、あまり聞きなれない「感情労働」という言葉と、その職業に携わる人が注意すべき点について、具体的に紹介しています。
感情労働
いま、ニュースを賑わしている、働き方改革案、国会での裁量労働制。国会に提出されたデータの不正確さ等より、今回は、現状を超えた職種への裁量労働制の誕生は見送りとなったようだ。
今日は、「〇〇労働」でも、ちょっと違った角度の「〇〇労働」の話…。
新米 「最近、新しい労働の種類が増えたったいわれていますね」
大塚 「ん? 裁量労働制のこと?」
新米 「いやぁ、あれは国会ではいったん消えたってことは、ボクでも知ってますよ」
大塚 「じゃぁ、何のこと?」
E子 「最近、燃え尽き症候群のことで話題になっている労働のことかな?」
深田GL 「『感情労働』のことだったら、うちでも請求書に同封する資料として取り上げようかと話していたところだよ」
新米 「へぇ~、そうなんですか、まさに、その『感情労働』です」
深田GL 「で、新米くんは『感情労働』について説明はできるのかな?」
新米 「すみません、実はその名前を聞いたことあるくらいで…。結局よくわかってないんで、お尋ねした次第です。言葉しか知らないんで、レクチャーお願いします」
深田GL 「よっしゃ、それでは行こう。今までは、『肉体労働』という体を使った作業を賃金に変える労働と、『頭脳労働』という頭を使って創出したアイデアなどを賃金に変える労働とに大きく分類されていたんだが、そこに『感情労働』という分類が加わったんだ。『感情労働』はその名の通り、感情を抑えることで賃金を得る労働とされているね」
E子 「今までは、『頭脳労働』の中に含められていたんだけど、メンタルヘルス等の問題が大きくクローズアップされたこともあり、別途分類されたのよ」
新米 「今までは、『頭脳労働』の一部だったんですかぁ」
深田GL 「対人の仕事に就く人の多くが、決められた感情の管理を求められ、規範的な感情を商品価値として提供しているだろう。しんどくなってくるんだな」
E子 「『感情労働』が必要な職種として代表的なものは、『客室乗務員(CA)』だとされているけれど、『看護師』などの医療職や『介護士』などの介護職も代表的だといわれてきているわね」
深田GL 「カスタマーセンターやコールセンターで働く『オペレーター』や『教師』や『保育士』など、常に模範的で適切な言葉や表情、態度で接することを求められる仕事や、『カウンセラー』『ケアワーカー』といった、専門家として患者や利用者に感情を使って安心を与える仕事、他にも顧客の言うことに耐えなければならないタイプの労働である『ウェイトレス』や『ホステス』といった接客業、営業職、『秘書』、『受付係』、『エレベーターガール』、『ホテルのドアマン』、『銀行店舗の案内係』、『不動産営業等のサービス業』…」
新米 「すみません、『エレベーターガール』って?」
深田GL 「そう言えば、最近の日本ではもう見ないよな。『感情労働』は、アメリカの社会学者A・R・ホックシールドによる言葉だからね。世界的な目で見れば、まだどこかの国にはある職業なんだろう」
E子 「『ホテルのドアマン』、『銀行店舗の案内係』、『不動産営業等のサービス業』なんて細かくあるけど、サービス業全般もそうなるでしょうね」
深田GL 「確かにな。接客業は入ってくるね。さっきは、書いてある職種を読み上げたけど、最近ではどの仕事も感情労働的になってきたといわれている。あらゆる職種に『コミュニケーション能力』が求められているもんなぁ」
大塚 「そうですね。『ITエンジニア』のようなコンピュータと向き合う仕事でも『顧客満足』が求められていますものね。技術と営業が一緒になって、『技術営業』という言い方も随分前からですね」
新米 「今では、どんな仕事も『感情労働』って言われても良いのではないか? って言われてきたことから、『感情労働』が最近クローズアップされてきたんでしょうか」
E子 「そういうことね。どの職場においても『感情の悩み』が増えている。そこに、正規・非正規の社員格差、ブラック企業、成果主義の導入などで、日本全体でメンタルヘルスの問題が深刻化しているのが原因の一つね」
深田GL 「自己の感情を無理にコントロールして働くうちに本来の自分らしさが失われ、『買い物依存症』や『ギャンブル依存症』に陥ったり、暴力的になったりする人もあるそうだよ」
E子 「『バーンアウト』(燃え尽き症候群)を招かないためにも、『あるべき理想像』にこだわりすぎないことも、の重要なテクニックらしいわ。
所長 「『感情労働』の話かい? かつての『消えた年金問題』でも多くの社労士が年金事務所で対応したけど、あちこちでうつ状態に陥った事例があるよ」
大塚 「そうなんですか? 社労士さんたちもうつ状態に…。大変だったんですね」
所長 「年金問題は、つまるところ人生相談だからね。もともといろんな話が出てくるよ。そのうえに『消えた年金問題』だろ。あの頃は、私も年金事務所で『ここ、火つけたろか?!』とか『目の前で自殺したろか!?』とか言われたもんだ」
新米 「え? 所長もそんなこと言われたんですか? 僕には対応できないです」
所長 「私も後輩たちにアドバイスしたもんだ、相談ごとに傾聴することは大事だけど、胸の中まで入れたらダメだよって。心が殺(や)られてしまう聴き方をしてはいけないよってね」
E子 「それに近いことが、この資料に書いてある、『表層演技』『キャラを創って対応する』ってことですね」
深田GL 「『表層演技』と『深層演技』のことや最終頁にある『キャラ創出』のこと?」
所長 「あぁ、そういうことと重なるね。それを自然にできる人は良いけど、ずっぽり自分自身、心の奥底まで全部を使って対応し、自分自身まで失ってしまうと行き過ぎなんだよな。君たちも重い相談を受けるときは要注意だよ」
全員 「はい、わかりました」
所長 「もう少し詳しいことは、資料に載っているから、お客さまにはこれを見ていただこう」
「感情労働」とは?
「感情労働」は、近年注目されている新しい概念で、アメリカの社会学者A・R・ホックシールドによる言葉です。相手(=顧客)の精神を特別な状態に導くために、自分の感情を誘発、または抑圧することを職務にする、精神と感情の協調が必要な労働のことをいいます。感情が労働内容にもたらす影響が大きく、かつ適切・不適切な感情が明文化されており、会社からの管理・指導のうえで、本来の感情を押し殺して業務を遂行することが求められます。体を使った作業を賃金に変える「肉体労働」、頭を使って創出したアイデアなどを賃金に変える「頭脳労働」に対して、「感情労働」とはその名の通り、感情を抑えることで賃金を得ます。このように、対人の仕事につく人の多くが、決められた感情の管理を求められ、規範的な感情を商品価値として提供しているのです。(カオナビ人事用語集から)
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