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受刑者逃走、未だ捕まらず…検討始めた「GPS監視」は本当に正しいか

愛媛県今治市の新来島どっく内にある松山刑務所大井造船作業場から4月8日、受刑者の男(27)が逃走してから10日以上が経過しました。広島県側の尾道市向島で目撃情報があったのを最後に行方が分からず、現在も逃走を続けています。数年前にある刑務所を訪れたことがあるというメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』の著者で健康社会学者の河合薫さんは、受刑者に出所後の就職先がなくまた逆戻りしている日本の現状を紹介、今回の事件をきっかけに国が受刑者の監視強化を発表したことについて本音も明かしています。

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年4月18日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

逃走犯と塀の中

松山刑務所大井造船作業場受刑者が、逃走を続けています。目撃情報のあった向島では、一時1000人体制で捜査し、これまで投入した捜査員は延べ6000人を超えるというのですから、重大事件並みです。

報道されているとおり、松山刑務所大井造船作業場は「塀なき刑務所」の異名を持つ開放的矯正施設の一つです。

民間の造船所の敷地内に1961年に作られ、凶悪犯ではない45歳以下の模範因を収容。受刑者は敷地内の寮で暮らし、日中は工場の従業員に交じり働き、鉄格子などの敷地を囲む塀はいっさいありません。

同様の施設は全国で4カ所。再犯率の高さが近年問題になっている中で、「塀なき刑務所の再犯率はたったの6.9%です。全国平均が41.4%ですから、いかに低いかがわかると思います。

私は数年前にある刑務所を訪問したことがあります。

きっかけはその刑務所で、受刑者たちにキャリア教育を行なっている方からの要望でした。累犯受刑者や暴力団員が入所するその刑務所では、再犯率を下げるためのキャリア教育を積極的に行なっていたのですが、「もっと受刑者に効果的な授業をやりたい。そのために力を借りたい」と連絡をくれたのです。

当時の数字ではありますが、一般刑法犯全体の再犯率は平成9年以降、一貫して上昇を続け、平成26年には過去最高の47.1%に達していました(平成27年版「犯罪白書」)。

また、仕事に就いている人の再犯率が7.6%であるのに対し、無職者は28.1%と4倍も多い。また、刑務所に戻る人の7割超が無職であることもわかっていました(平成21~25年度「保護統計年報」)。

「刑期をおえて出所するときには、『二度と戻ってきません!って言うんです。あのときの気持ちにウソはないと思います。でも、また戻ってくる。特に正月が近づくと、アンパン一個盗んで塀の中に戻ってくる。なんとか生活できるヤツも多いのに、戻ってきちゃう。居場所を求め刑務所に戻る。これも、現実なんです」

こう刑務官の方が話してくれましたが、塀の中で贖罪意識が醸成され、仕事への意欲を高め、しっかりと自立した生活をしよう! がんばろう!と気概を高めても、就職先がないのです。

そして、戻る場所もない

運良く「協力雇用主」の企業に就職できても、前科ものだと偏見の目で見られる。

その“まなざし”に耐えられず、自分の殻にこもり、他者と関わりを避け、孤立し、やがて「働いて自立して、がんばって生きて行こう!」という気持ちも失せ……、また犯罪に手を染めてしまうのです。

今回の逃走事件で、国はGPSを利用した受刑者の監視の検討を始めたと報じられています。

私は……、正直な気持ちを言うと……、このことが少しだけ残念です。もちろん脱走は問題です。でも、監視ではない方法で脱走を防ぎ、アンパンひとつ盗んで戻ってくることのない教育方法はないのか? そう思えてならないからです。

ノルウェーの刑務所は、塀がないことで知られますが、再犯率世界最低20%です。

殺人などの凶悪犯の刑務所にはさすがに塀はあり厳重に警備されていますが、塀の中では自由に受刑者たちが暮しています。

自分の部屋の鍵は自分で管理し、絵を描き、哲学の勉強をし、政治の勉強をしているのです。

「人の温かさ、互いに支え合うことの大切さを、普通の生活の中で学んで欲しい」というのが、ノルウェーの考えです。

私が訪問した日本の刑務所の塀は想像以上に高くどこまでもどこまで果てしなく高く、それまで一度も感じたことのない独特なものでした。

生きること、働くこと、年をとること、病気を患うこと、食べること、排泄すること……、そのすべてが「丸裸」に行われていて、それが妙に切なくもあり、人が人であろうとする健気さ、それを支える温かさ。無駄はないけど、決して無機質じゃない、行ってみないとわかりえない「生の吐息」が、そこには明らかに存在していました。

刑務所は社会の縮図」ーーー。こう刑務官の方はいいます。(つづく)

image by: Google Map(新来島どっく)

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年4月18日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』(2018年4月18日号)より一部抜粋

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
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