MAG2 NEWS MENU

孫正義社長も心が折れたか、米スプリント合併「妥協」の裏事情

先ごろ発表された、ソフトバンクの子会社で米国携帯電話4位のスプリントと同3位のT-Mobile USの経営統合。孫正義社長がこだわり続けていた経営権を、手放す決断をしたことについて各方面で大きな話題となりましたが、「孫社長はアメリカ市場を諦めたのではないか」と受け止めたのはケータイ/スマートフォンジャーナリストでメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』の著者・石川温さん。また同メルマガでは、ソフトバンクKKの主要株主が楽天に取って代わる可能性についても言及しています。

スプリントとT-Mobile USが経営統合へ――孫社長、もはやアメリカ市場は「諦めモード」か

噂通り、スプリントとT-Mobile USの経営統合がまとまった。あれだけ経営権にこだわっていた孫社長。2回目の経営統合交渉は破談となったが、要は、孫社長が首を縦に振れば話が一気に進んだということだろう。このリリースをソフトバンクから受け取ったとき「孫社長はアメリカ市場を諦めたのではないか」。そんな印象を抱いてしまった。

4Gネットワークはなんとか立て直したものの、これから5Gへの投資をするとなれば途方もない戦いとなる。しかも、アメリカの5Gはどちらかと言えば、固定回線としての需要からまずはスタートする。5Gとして固定回線を売りそこにコンテンツを配信していくというビジネスモデルが必要となってくる。AT&Tがタイム・ワーナー、ベライゾンが旧ヤフーと一緒になろうとしているのは、まさにその世界観を目指しているわけで、第4位のキャリアが5Gネットワークだけを手がけても歯が立ちそうにない

孫社長にとって、誤算はいくつもあった。ひとつはT-Mobile USを一緒に買収できなかったこと。もうひとつは予想外にT-Mobile USが復活し始めた点にある。T-Mobile USが5月1日に発表した決算を見ても、売上高は前年同期比9%増の104億5,500万ドル、純増数は61万7,000件だった。純増数で比較すると、ベライゾンが2万4,000件の純減、AT&Tが2万2,000件の純減、スプリントが5万5,000件の純増であった。

アメリカ市場においては、T-Mobile USの一人勝ち状態と言え、スプリントは全く歯が立たない状態だ。スプリントが第3位で、T-Mobile USが第4位だった頃が懐かしい。いまの勢いを以てすれば、経営統合する際に、スプリントが経営権を持つというのはちゃんチャラおかしいわけで、T-Mobile USの名前を引き継ぎ、経営権もT-Mobile USが主導権を握るのは至極当たり前のことといえる。

現在のCEOである、ジョン・レジャー氏の経営手法が冴え渡っており、孫社長としても、新会社もジョン・レジャー氏に任せてしまった方が安泰と考えたのではないか。ソフトバンクとしては、会社の買収云々よりも、ジョン・レジャー氏に互角に戦える経営陣を揃えられなかったのが最大の敗因ではないか。マルセロ・クラウレCEOは経費削減などを行い、会社としては持ち直したものの、上位3社を責めるまでには至っていない。

ソフトバンク全体を見ていて思うが、孫社長が突出して経営を上手く回している一方、孫社長以外の経営陣が関連会社をうまく経営できていないというのが、弱点になりつつある。孫社長が仮に100%出資したとしても、ソフトバンクから経営陣を送り込んで、新たに経営を回すのに限界を感じているような気がしてならない。

「群戦略」で、経営自体は他人にお任せし出資者に徹するやり方のほうが、身の丈にあっていると感じたのではないだろうか。

スプリントとT-Mobile USの経営統合は「群戦略」への転換化

今回のスプリントとT-Mobile USの経営統合話。この数年の孫社長の発言を振り返ってみると、売りたくてしょうが無い時期があったようだ。やはり、スプリントを買収した当初、T-Mobile USも一緒に買収できなかったときから、すでに孫社長としては「失敗」だったわけで、結局、スプリントを持ち続けるモチベーションが保てなかったのだろう。一般メディアでは「孫社長が携帯電話事業に飽きてきた」という書かれ方もされているが、あながち、間違いではないのかも知れない。

かつて、孫社長は、目星をつけた会社に対しては、まるごと買収してしまうという集中戦略を獲っていた。ビジョンファンドを設立してからは「群戦略」として、出資したとしても2~3割程度に止めてリスクを小さくすると言う考え方にシフトしつつある。今回のスプリントとT-Mobile USの統合によって、ソフトバンクの持ち株比率は27.4%となる。まさに「群戦略に見合った数字となっている。

そこで、気になるのが、日本の携帯電話事業の行く末だ。ソフトバンクグループは、傘下の携帯電話事業を東証一部に上場させようと準備中だ。狙いとしては「投資を進めるソフトバンクグループと、通信事業分野において中核企業であるソフトバンクKKの役割と価値を明確に分ける」としている。

ただ、ひょっとすると、孫社長としては、ソフトバンクKKを上場させつつ、いずれはソフトバンクKKヘの出資比率を少なくするつもりなのではないか。

将来的に、携帯電話事業はリスクの高い商売になる可能性が高い。5Gの投資やMVNOの台頭、総務省の茶々入れなどを考慮すると、携帯電話事業にうまみがなくなる時期が来てもおかしくない。その時に備えて、上場し、いつでも持ち株比率を下げる準備をしているのではないか。携帯電話事業に飽きている孫社長ならそんな考えを持っていてもおかしくない。

何年か後、ソフトバンクが主要株主ではないソフトバンクKKが誕生するかも知れない。さらにその会社の主要株主が楽天なんて事になったら、もっと面白いことになるのだが。

 

石川 温この著者の記事一覧

日経トレンディ編集記者として、ケータイやホテル、クルマ、ヒット商品を取材。2003年に独立後、ケータイ業界を中心に執筆活動を行う。日経新聞電子版にて「モバイルの達人」を連載中。日進月歩のケータイの世界だが、このメルマガ一誌に情報はすべて入っている。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 石川温の「スマホ業界新聞」 』

【著者】 石川 温 【月額】 初月無料!月額550円(税込) 【発行周期】 毎月 第1土曜日・第2土曜日・第3土曜日・第4土曜日(年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け