現代のカリスマ経営者として真っ先に名が上がる、テスラ、スペースX社のCEOなどを務めるイーロン・マスク。彼はこれまで多くの人々の賛同と資金を得て数々の「夢」を実現させてきましたが、何がここまで人を引きつけるのでしょうか。自らもイーロン・マスクの熱烈なファンという世界的エンジニアの中島聡さんは、メルマガ『週刊 Life is beautiful』で、彼について書かれた記事を紹介しながらその秘密を分析するとともに、イーロン・マスクから学べる「リーダーになる3つの秘訣」を記しています。
※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年7月31日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
私の目に止まった記事
● What Elon Musk Is Selling: Hope
イーロン・マスクの行動に関しては、非現実的なゴールを設定していつも失敗する、テスラは莫大な赤字を垂れ流し続けている、などの強烈な批判が絶えることがありませんが、一方で、私のような熱烈なファンも大勢いるし、テスラのモデル3は、(製造さえ出来れば)飛ぶように売れています。
この現象をどう説明したら良いかと考えていたところ、とても良い記事を見つけたので、紹介します。
内容は、タイトルにある通り、イーロン・マスクをスティーブ・ジョブズ以来の魅力的な経営者にしているのは、彼が「夢」を提供してくれるからです。
「電気自動車だけを売る新しい会社を作る」「民間の力で火星に人類を移住させる」「都市にトンネルを掘って渋滞を解消する」などの彼が語る夢は、普通に考えれば、どれもが非現実的で、「無理に決まっている」ものです。
普通の人ががそんな夢を語っても、誰も相手にしてくれないし、人も資金も集まりません。人も資金も集まらなければ、夢の実現など到底無理です。
しかし、イーロン・マスクだけは違うのです。彼の周りには、スティーブ・ジョブズが持つことで有名だった「現実歪曲空間」が生まれ、全員ではないものの、十分な数の人たちが、「彼の夢を信じてみよう」「彼にかけてみよう」と思ってくれるのです。
その結果として、彼の周りには、夢が実現する可能性が、資金や優秀な人材という形で具現化してくるのです。
それはある意味、「信じるものは救われる」宗教にも似ているのですが、宗教とは違って、それが、「必要な資金や人材が集まらないから、夢を叶えられない」という最初のハードルを超えることを可能にしてしまうのです。
結果として、テスラをBMWを脅かすまでの会社に育ててしまったし、SpaceXは再利用可能なロケットの開発に成功してしまったのです。
ここには、いつかは自分で会社を興したいと考えている人たちにとって、とても重要な教訓があります。簡単にまとめると、
- 多くの人が無理だと思うほどの大きな夢を持て(決して金儲けが目的ではダメです)
- その大きな夢の実現を心から望み、かつ、信じろ
- そして、その夢を熱く語り、他の人に伝染させる力を持て
となります。
気が付いていない人が多いのですが、これこそが、カリスマ性を持った(=現実歪曲空間を作り出すことが出来る)リーダーになる秘訣なのです。
そして、この資質は、決してスティーブ・ジョブズとイーロン・マスクだけの専売特許ではなく、ビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾス、孫正義、盛田昭夫など大きなことを成し遂げた起業家は誰も、スタイルは違うものの持ち合わせている資質です。
逆に言えば、どんな良いアイデアや技術力を持っていても、自分の夢を周りの人に伝染させる力を持たない人には、大きな夢を実現することはできないのです。
「アーリーステージのVCは、ビジネスプランよりも創業者の人となりを重視する」と言いますが、まさにこの話なのです。
どんなに綿密にビジネスプランを立てても、その通りには行かず、数多くの危機に見舞われるのが、ベンチャー企業の常です。そんな時に、生き残れるのは、夢を信じ、自分を信じ、周りの人たちを巻き込んで突き進む精神力を持った創業者だけなのです。
私の目に止まった記事2
● ソニー創業者・盛田昭夫が53年前に提唱した「働かない重役追放論」
ネットで別のものを探していて、たまたま見つけたのですが、ソニーの創業者の盛田昭夫氏が、1964年に、米国と比べた時の日本の会社の問題点を指摘している記事です。
- 国際競争に勝つために現在、日本の各企業がまず取組むべきことは、会社の機構、仕事に対する考え方という根本的なところを考え直してみることだ、と思う
- 私流にいえば、むこうは社員の成績をエバリュエーション(評価)することが基礎になった経済体制であるのに対し、日本の多くの企業は社員の事なかれ主義を根底にした体制であり、極言すれば“社会保障団体”の観さえある。
- ところが日本では、勤務評定には反対だ。組合などは働かない社員でもクビは切るなという。大きな間違いさえしなければ、みな同じように年功で上っていくという仕組みになっているから、一見営利団体のようではあるが、中身は社会保障団体のような様相を呈しているというのである
- 日本では温情とか家族主義とかいうものが強調されすぎて、勤労意欲の喪失、怠惰の習慣をますます強めているような気がしてならない。
- このように見てくれば、アメリカの徹底した実力主義に立つ企業とわれわれ日本の企業が競争するのは、大変な危険のあることがわかろう。
- 日本人は地位が高くなればなるほど働かなくなる
- 私は自由競争経済の恐ろしさというものを改めて感じた。こんな厳しさが日本にあるだろうか。こんな国の企業と日本は競争しなければならないのである
これを読んで頭に浮かんだのは、1964年という早い段階で、これらの問題点に気が付いていた盛田氏はすごいと尊敬の念と、こんなに昔からこの問題を指摘してくれる人がいたのにも関わらず、なぜ日本はこの問題を未だに解決することができないのだろう、という疑問の念です。
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※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2018年7月31日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込864円)
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