東京医科大に続き、昭和大医学部でも明らかになった不正入試問題。女子や2浪以上の受験生が不利になるような得点操作が行われていたとあって、各所から批判の声が上がっています。この問題を取り上げているのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、「医師とは残された命に光を与えてくれる存在」とした上で、「人生は思いどおりならない」という経験を持つ2浪医師の言葉が必要になってくることもあるはず、という持論を記しています。
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年10月17日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
2浪と現役、能力高いのはどっち?
医学部の不正入試をめぐる問題で、昭和大学でも医学部の一般入試で、2浪以上の受験生が不利になるような得点操作を行っていたことがわかりました。
医学部の二次試験で、80点満点中、現役の受験生には10点、1浪の受験生には5点を加点。一方で、2浪以上には加点をしなかったほか、卒業生の親族を優先して補欠合格させていました。その数は2013年以降、19人に上るということです。
現役と1浪を優遇した理由について昭和大学は、「(現役・1浪は)活力があるとか、アクティブに動ける可能性が高いと判断していた」と説明しています。
…活力。便利な言葉です。
私が学生時代、周りには2浪の人も結構いましたが、明らかにオトナでしたし、現役生に比べ、よく言えば余裕がある。悪く言えばのんびりしている。それを「活力の違い」と表現することは、間違いではないかもしれません。
でも、本音は「能力」。「(現役・1浪)の方が、能力が高い可能性があると判断していた」ということだったと思うのです。
実際、テレビなどのメディアで関係者は、「能力」という言葉を使っていましたし、「現役生より2浪生は時間をかけて勉強している→能力が低い」というコメントも少なくありませんでした。
要するに「コスパ」。労力と結果という視点で捉えれば、現役生の方が優秀。流行りの言葉でいえば、「生産性が高い」ということなのでしょう。
ただ、医学生は将来の医師です。試験に合格する能力は、現役生の方が高いかもしれません。でも、だからといってそれは、医師に求められる能力なのでしょうか?
「時にいやし、しばしば支え、常に慰む」――。
これは医療関係者の基本的な心構えとして伝えられている、フランスの医師による言葉で、私が大学院生のときの恩師が教えてくれました。
私の専門である健康社会学では、「医者と患者のコミュニケーション」も研究領域です。医療技術が発達し、「病とともに生きる」今の時代に、医師が患者さんといかに向き合うかは、患者のQOLを考える上で極めて大切です。
しかしながら、現実はどうでしょうか。医師は「患者」を看るより、パソコンの数値を見ています。
確かにさまざまな検査結果の数値をいかに読み解くか?ということは病気を治療する上では重要かもしれません。でも、私は…、医師というのは、医療現場が考えている以上に、患者や家族にとって、大きな存在だと思うのです。
「HOPE」という概念があります。
HOPEとは、「逆境やストレスフルな状況にあっても、明るくたくましく生きていくことを可能にする内的な力」で、いわば「光」です。
その「光」をもたらしてくれるのが、医師の言葉なのです。
個人的な話ですが、3年前に他界した私の父親は、「お医者さま」の言葉を何よりも頼りにしていました。
「○○先生から運動していいって言われた!」
「○○先生が『血液検査の結果も良好!』って言ってた」
「○○先生から『順調ですね!』って言われた」
などなど、入院中も通院しているときも、先生の言葉に父は勇気をもらっていました。
医師とは「残された命」に、光を与えてくれる存在なのです。
そんなときに「人生は思いどおりならない」という経験をした2浪医師の言葉が、必要になってくることもあるのではないでしょうか。
私がここで書いていることは、少々飛躍しているかもしれません。
しかしながら、私たちの研究室(東京大学大学院健康社会学教室)で、一般の成人男女300人を対象に、ホープに関する調査を行ったことがあるのですが、「信頼できる人」がいることでホープが強まる傾向にあり、医師などの医療関係者と「喜びや悲しみを共にわかちあえる患者」ほどHOPEが高いことがわかっています。
医療の技術や検査精度が高まっている時代だからこそ、患者さんと向き合える医師を、大学には育てて欲しいと心から願います。
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※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年10月17日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
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- 2浪は現役より劣る?/「唸った」(6) ほか(10/17)
- 「就職一括採用」という病/「唸った」(5) ほか(10/10)
- 葉っぱの落書きとノーベル賞/「唸った」(4) ほか(10/3)
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- 人生漂流時代の心構え/オレにも言わせろ! ほか(9/26)
- 私物化された大学の後始末/「唸った」(3)ほか(9/19)
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※『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』(2018年10月17日号)より一部抜粋