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先進国の労働力不足。このままでは移民争奪戦で日本が勝てぬ理由

減少の一途を辿る日本の人口ですが、2018年版の人口動態では少子高齢化や一極集中現象の他、「外国人割合が過去最多」という異例のデータが出ています。これを受け、ジャーナリストの嶌信彦さんは自身の無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』で、今後、外国人が永住権を得られるチャンスがあるのは当然として、移住後の福祉分野の改革を無視し続ければ、労働先に日本を選ぶ外国人は減るだろうと警鐘を鳴らしています。

少子高齢化など人口動態の異変拡大 ─減少幅最大、外国人は250万人で最多─

日本の人口動態に異変が起きている。総務省の調査によると2018年1月1日時点の日本の総人口は1億2,520万9,603人で9年連続の減少。減少幅は37万4,055人で1968年の調査開始以来最大だったのである。しかも15~64歳の生産年齢人口は初めて6割を切り、逆に外国人人口は過去最多の249万7,656人で前年比7.5%増えている

また出生数は94万8,396人で1979年度の調査開始以来、最少。逆に死亡者数は134万774人と過去最多で、出生数より死亡者数が多い自然減は11年連続となり、その幅も39万2,378人と過去最大となった。日本の少子高齢化、人口減少の実態がはっきりと浮き彫りになり、外国人人口の増加で活力を保っているともいえる。

また14歳以下の年少人口も1573万5692人に減り、全体の12.57%。遂に65歳以上の老年人口は3462万9,983人と年少人口の約2倍となっており、この数字をみている限り日本人の「若返り」は極めて難しく、ますます高齢化社会に突き進んでいるとみることができる。

かつては日本の標準世帯は親2人、子供3人の5人家族が普通だったが、今や子供は1人~2人。親も1人という家族が増えつつあり、世帯人員が2~4人という家族が珍しくなくなってきた。

三大都市圏の人口だけ横バイ

都道府県別の人口増加率は東京都が首位だが、数字はわずか0.55%増、前年からは0.05%縮小している。人口減少率の最大は秋田県の1.39%だった。東京、関西、名古屋の三大都市圏の人口をみても前年比0.01%増しかなくほぼ横バイ。この三大都市圏の日本全体に占める人口の割合は12年連続で5割を超えた。地方が減り大都市圏が増えているという一極集中現象が進んでいる状況がよくわかる。

一方で増加しているのは外国人だ。特に若い世代が多く、20歳代は74万8,000人と同年代の日本の総人口の5.8%を占め、特に東京では10人に1人が外国人となっている。外国人全体では、今年1月1日の時点で前年比17万4,000人増の249万7,000人となり、過去最多を更新している。

外国人の多い市は大阪、横浜、名古屋など。ただ、増加率でみると北海道、青森、鹿児島などが前年比で50%を超している。日本で働いている外国人の国籍では中国人が全体の3割を占めるが、最近はベトナム、フィリピンなど東南アジアやネパールからの人も急増している。

外国人が急増している最大の理由は、日本人の若い働き手が減少しているためだ。特に製造業は深刻で、ものづくりの多い中京地区は自動車や機械産業などで人手不足の解決は緊急の課題となっている。愛知県の有効求人倍率は1.98で製造業分野においては7,000人以上が不足しているという。

いずれ外国人労働者もソッポ向きに

このため、これまでは単純労働など限られた5分野しか認めてこなかった外国人労働者の在留資格の対象業種を来年4月から倍増させる方針という。これまでは農業、介護、建設、宿泊、造船を想定していたが、今後は金属プレスや鋳造など製造業の一部、食品加工、水産、外食産業、物流などを加える方針で、人手不足分野については、日本語能力や一定の技能を持つ外国人には最長5年まで日本で働くことを認める。さらに技能と日本語能力で新たな試験に合格し新資格を得た人は家族帯同を認められ、上限なく在留期間が更新でき永住の道が開ける方針ともいう。

ただ先進国では労働力不足がどこも日常的になっているため、給与や社会保障、医療の手当てなど福祉対策なども整えてゆかないと、日本に来てくれる人がだんだん減ってゆくのが現実だ。過去のように「働かせてやるから来てもよい」「給料は低目に…」などとタカをくくっていると日本で働くことを嫌がる外国人が出てくることは必定なのだ。「人手不足解消といった手前勝手な理由だけで「労働開国」を宣言しても、外国人労働者からソッポを向かれてしまうことを十分認識する必要がある時代になっているということだ。

ドイツでは3年前から率先して難民の受け入れを行ってきたものの、難民排斥を掲げる右翼政党が登場して受け入れがだんだん難しくなっている現実も出ているという。しかし、経済界、特に中小企業の間ではいまや難民労働者を働き手として受け入れないと事業が成り立ってゆかない企業も増えつつあるのが現実らしい。このため、ドイツでは「人道的な理由だけでなく経済的にも難民を受け入れないことはドイツの損失になる」という運動が広がり始めているという。

また、ドイツではかつての高度成長期にトルコから多くの労働者を受け入れ、問題となって二国間協定を結んだ。今は移民系といわれる労働者の割合は全人口の24%に達している。中小企業などではドイツ人を募集しても容易に人が集まらないからだ。

日本でもそろそろ期間を区切った外国人労働者だけでなく、移民の受け入れを正面からプラス面、マイナス面を考慮して移民開国の是非を検討する時期に来ているのではなかろうか。

(TSR情報 2018年10月18日)

image by: humphery / Shutterstock.com

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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