11月9日、「冷戦終結後最大規模で仮想敵国がロシア」というNATOの軍事演習が実施されたと報じられました。これを受け国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、ロシアと東欧の紛争、スパイ暗殺事件、北朝鮮情勢など、ここ10年だけでも「軍事演習が必要なほど緊迫」している世界各地の実情を列挙し、「日本の危機感のなさ」に警鐘を鳴らしています。
【平和の島】日本の危機
日本は、本当に平和な国です。たとえば、「世界大戦の準備が着々と進められている」と聞いたら、普通の日本人はどういう反応しますか「ネトウヨ?」「トンデモ?」「陰謀論者?」。これが、ごくごく普通の反応だと思います。たとえば、こちらをごらんください。
<NATO>冷戦後最大の軍事演習 「仮想敵国」はロシア
毎日新聞 11/9(金)22:41配信
北大西洋条約機構(NATO)が対ロシアを念頭に、冷戦終結から最大規模となる軍事演習を北欧ノルウェーで展開している。ロシアによるウクライナへの軍事介入(2014年)やサイバー攻撃などを組み合わせた「ハイブリッド」型の脅威に身構える西側諸国が強い対抗姿勢を示した形。演習に対してロシアは激しく反発する。演習直前には、米国がソ連(当時)と結んだ中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱を表明したことで、米露の軍拡競争活発化の懸念も強まる。世界は「新冷戦」のとば口にあるのだろうか。
【トロンヘイム(ノルウェー中部)で八田浩輔】
これ、どうですか?NATOは、冷戦後最大規模の軍事演習を行っている。仮想敵はロシア。なんでそんな話になっているのでしょうか?
世界で今起こっていること
世界で今、何が起こっているのでしょうか?ここ10年を超特急で振り返ってみましょう。08年、リーマンショックからアメリカ発「100年に一度の大不況」が起こった。この時、アメリカは沈みましたが、中国は逆に浮上した。世界が沈む中、この国は9~10%の成長をつづけた。
「アメリカは沈んだ、中国は浮上した」
それで、中国は「本性」を現します。2010年「尖閣中国漁船衝突事件」。明らかに中国が悪いにも関わらず、レアアース禁輸など、厳しい制裁を日本に科した。2012年9月、日本は尖閣を国有化。同年11月、中国は、ロシアと韓国に「反日統一共同戦線戦略」を提案。「日本壊滅作戦」に乗りだしました。全国民必読証拠はこちら。
私は2012年11月、「新日中戦争がはじまった」と認識しました(「武器を使う戦闘行為」は起こっていませんが、「戦争」には、「情報戦」「外交戦」「経済戦」などが含まれます)。
私は以後、ずっと「戦時中」という意識で生きています。そして、私のミッションは、
- 第1に、日中戦争(戦闘)を回避すること
- 第2に、万が一日中戦争(戦闘)になっても、日本必勝の状態をつくっておくこと
この2つを常に意識しながら、情報発信をしてきました。その集大成が、『中国に勝つ日本の大戦略』(北野幸伯 著/扶桑社 )。08年以降何が起こったのかを超詳細に記し、中国の戦略を無力化する方法も、具体的に書いています。まだの方は、是非ご一読ください。
この後中国は、「日本は右傾化している」「日本は再び軍国主義化している」「日本は歴史の修正を目指している」と大々的にプロパガンダしました。その証拠として挙げたのが、「総理の靖国参拝」「憲法改正」「東京裁判史観の見直し」などだった。
2013年12月、安倍総理が靖国を参拝した。すると、思いがけず世界的大バッシングが起こった。中韓のみならず、アメリカ、イギリス、EU、ドイツ、ロシア、オーストラリア、シンガポール、台湾などが、日本を強く非難した。特に大々的だったのがアメリカメディアです。
日本政府は、大いに驚きました。「小泉さんは、在任中6回も参拝して、ほとんど批判されなかった。なぜ安倍総理が1回参拝しただけで、これほどひどく叩かれるのか????」
しかし、世界にその理由を知っている人たちが3万6,000人ほどいました。それが、RPEの読者さんです。RPEでは、「反日統一共同戦線戦略」のことを語っていましたし、「靖国参拝で一番喜ぶのは、習近平である!」として、靖国参拝に反対していた。(念のために書いておきますが、私が靖国参拝に反対だったのは、それが【中国の罠だから】です。「道義的」には参拝に大賛成です)。
2014年初め、日本は世界で孤立していました。中国の思惑どおり、中国、アメリカ、ロシア、韓国が日本をバッシングし、それに、欧州、オーストラリア、東南アジア諸国が便乗するような状態になっていた。ところが、2014年3月、ロシアがクリミアを併合したことで、日本と安倍内閣は救われました。なぜ?アメリカは、「対ロシア制裁」を主導せざるを得なくなった。その制裁網に、日本を加える必要があったからです。
ロシアの意識は「戦時中」
さて、2014年3月のクリミア併合。これ、世界的に見ると、圧倒的に「ロシアが悪い」。しかし、ロシアに住むロシア国民で、「わが国が悪い」と思っている人はほとんどいません。
まず、2014年3月が「事件発生日」と、彼らは考えない。2014年2月、ウクライナで革命が起こり、「親ロシア」のヤヌコビッチ政権が崩壊した。そして、「親欧米」政権ができた(これが事件の発端)。
新政権は、「ロシア黒海艦隊をクリミアから追いだし、NATO軍を入れる!」などと宣言している。。プーチンは激怒して、「もともとロシア領だったクリミアを取り戻した」という認識なのです(事前に住民投票が実施され、98%がロシアへの併合を支持したとされる)。
ロシア側の主張がどうあれ、ロシアは世界的に孤立しました。制裁がはじまり、どんどん強化されていった。そのプロセスは、今も終わっていない。ロシア国民は、「わが国は、アメリカと戦争状態にある」と感じながら生きています。
一方、クリミア併合は、かつてソ連の一部だったバルト三国や、事実上の支配下にあった東欧諸国を恐怖させました。「ロシアは、ウクライナを支配し、次にバルト三国、東欧と進軍してくるつもりだ」と感じ始めた。
私の親友のポーランド人は、モスクワ国際関係大学の同級生。モスクワにいたときは親ロシアでしたが、今では、すっかり反ロシアになり、「侵略に備えよ!」などといっている。つまり、東欧の人たちも、「戦争が迫っている」という危機感を感じながら暮らしている。
イギリスで今年3月、ロシアの元スパイ・スクリパリさん暗殺未遂事件が起こりました。イギリスは、即座に「ロシアの仕業だ!」と断定(ロシアは、否定)。アメリカや欧州諸国を巻き込み、対ロシア制裁を発動しました。「スクリパリ暗殺未遂事件」につかわれたのは、「ノビチョク」という「化学兵器だ」と発表された。それで、イギリス国民は、「ロシアがわが国を化学兵器で攻撃した」と理解した。東欧だけでなく西欧も、ロシアの脅威を身近に感じるようになった。
米中覇権戦争まで
欧州の話でしたが、アジアはどうだったのでしょうか?オバマさんは当初、明らかに「親習近平」「反安倍」でした。しかし2015年3月の「AIIB事件」で態度が180度変わりました。イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、オーストラリア、イスラエル、韓国などがアメリカを裏切り、中国主導「AIIB」への参加を決めた。これは、「親米諸国ですら、わが国ではなく中国のいうことを聞く」という意味で、アメリカには大変な衝撃だったのです。以後、オバマさんは、「わが国最大の敵は中国だ!」と認識。猛烈な中国バッシングを開始していきます。それで、2015~16年、中国経済は、とても悪かった。
しかし、2017年にトランプが大統領になると、状況が変わります。この年、北朝鮮が狂ったように核実験、ミサイル実験をくり返していた。それで、トランプは、習近平の協力を必要としていた。結果、米中関係は、悪くありませんでした。ところが2018年、米中貿易戦争から覇権戦争がはじまった。しかし、アメリカの支配層が中国打倒を決意したのは2015年のAIIB事件の後でしょう。つまり、アメリカは2015年から「戦争状態」という認識。中国は、アメリカが本気になった18年から「戦争状態」という認識。
というわけで、西でも東でも(戦闘のない)「戦争状態」という認識になっているのです。
平和の島日本
2013年末、安倍総理は、中国の罠にはまった。しかし2014年3月、ロシアのクリミア併合で救われた。2015年3月、日本はAIIBに参加せず、アメリカを大いに喜ばせました。2015年4月、安倍総理の「希望の同盟演説」で、日米関係は最良になります。2015年12月、慰安婦合意で、日韓関係は、まあまあになりました(また悪化していますが)。2016年12月、プーチンが訪日し、日ロ関係は改善されました。中国は、アメリカ、ロシア、韓国と組むことで、「反日統一共同戦線」をつくろうとした。しかし安倍政権は、アメリカ、ロシア、韓国との関係を改善させ、この戦略を無力化させたのです。その結果が、今の平和です。
世界の民は、「戦争の恐怖」をヒシヒシ感じている。ところが、日本には、まったくいつもと変わらない日常があり、誰も「戦争」のことなど考えずに暮らせる。これは、「自然に」そうなったのではなく、安倍内閣がそうしたのです。明らかに総理の大きな功績です。
しかし、世界とあまりにも違う状況になっている日本は、「大きな危機」に直面する可能性があります。1939年8月、平沼首相は、「欧州情勢は複雑怪奇」という声明を出し、辞任しました。つまり、当時の日本の総理は、「世界で何が起こっているか全然わからないぜ!」と告白している。そりゃあ、日本負けます。何が起こっているのかわからないのですから。
今の政治家さんは、どうでしょうか?平沼総理よりは、マシでしょうか?残念ながら、世界で起こっていることを理解できている政治家は、野党では皆無。与党では安倍総理と側近しかいないのではないでしょうか?
「平和の島」日本の危機とは何か?世界情勢を理解できないが故に、「間違える可能性がある」ということ。たとえば、「米中覇権戦争」がはじまった。その途端に、日中関係を大きく改善させる。そして、大挙して中国にいく財界人。これは、「世界で起こっていることが理解されていない」ことを示しています。
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