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台湾の映画賞さえ台無しにする、中国・習政権の「言論弾圧」

習近平国家主席の独裁体制の影響は、海外の文化行事にまで及んでいるようです。「一切の政治色の排除」を謳う台湾の歴史ある映画賞が、中国当局に「忖度」する中国人映画関係者により台無しにされてしまったとするのは、台湾出身の評論家・黄文雄さん。黄さんは自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、事の経緯とその後の台湾国内の反応を紹介するとともに、中国の俳優たちが立たされている「同情すべき立場」についても言及しています。

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2018年11月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【中国・台湾】台湾の映画賞まで台無しにする「習近平の言論弾圧」

“台湾のアカデミー賞”金馬奨、「1つの中国」政治色でピリピリムードに、中国映画のパーティーも急きょ中止─台湾

今年も台湾のアカデミー賞「金馬奨」が発表されました。「金馬奨」は、1962年に創設された、中華圏を代表する映画賞の1つ。中国語映画なら国籍を問わず評価の対象にするという、本来、政治色を一切排除して映画という枠組み内の芸術だけを評価する賞なのです。

毎年、人気スターがレッドカーペットを歩く様子が大々的に報道され、非常に注目度の高い賞です。日本のみなさんも、結果を楽しみにしていらっしゃった方は多いのではないでしょうか。

今年の主な受賞結果については以下の報道を参照してください。

谷垣健治が台湾の金馬奨で最優秀アクション監督賞を受賞

日本人も頑張っています。上記にあるように、岩井俊二監督は惜しくも受賞を逃しましたが、谷垣健治氏はアクション監督賞を見事に受賞しました。

映画賞は華やかで、それぞれの作品が公平に評価され、その中でも素晴らしいものを選ぶからこそ、受賞者の喜びもひとしおなのです。それは、純粋に映画という枠内での芸術を公平に評価されなければなりません。

しかし、習近平の皇帝ぶりで中国人たちは委縮しています。その影響で、この華やかな映画祭が台無しになってしまったことは非常に残念です。

きっかけは、「我們的青春、在台湾」で最優秀ドキュメンタリー作品賞を受賞した女性監督フー・ユー(傅楡)が、受賞スピーチで「われわれの国家が真の独立した個体としてみなされることを願う」と発言したことでした。

これを受けて、主演女優賞のプレゼンターを務めた中国の俳優トゥー・メン(ト=さんずいに余 們)が「再び『中国台湾』金馬奨に来られたことを光栄に思う」「両岸が一つの家族であることを感じた」と述べたのです。この応酬を受けて、その後の映画祭は急遽政治色の濃いものとなってしまい、誰もが委縮して登壇や発言を避け打ち上げパーティーも相次いで中止となり、中国映画の打ち上げパーティーには台湾の報道陣は締め出されるという展開となったのです。

さらに、この後すぐ中国共産党機関紙・人民日報のウェイボー(微博)公式アカウントは、「中国、一点都不能少(中国少しも欠けてはならない)」のスローガンをすぐさま投稿。この日の授賞式に出席した中国出身の俳優フー・ゴー(胡歌)やドン・チャオ、女優のジョウ・シュン(周迅)やスン・リー(孫儷)らも、いち早くこのメッセージをシェアするという顛末となりました。

“台湾のアカデミー賞”金馬奨、「1つの中国」政治色でピリピリムードに、中国映画のパーティーも急きょ中止―台湾

今、習近平の皇帝ぶりに中国人はみな委縮しています。范氷氷の件があったばかりです。有名人だとしても、少しでも目をつけられれば、ショッピングモールでいきなり背後から袋をかぶせられて拉致監禁が待っています。皆が戦々恐々としています。

そのため、政治的な雰囲気になったとたんに映画祭から退散し、自分は関係ないことをアピールするのです。せっかくの映画祭がそんなことで台無しにされてしまっては、素晴らしい作品の数々が正当に評価されないまま、埋もれてしまいます。この騒動を受けて、台湾当局も声明を出しています。以下、引用します。

鄭麗君文化部長(文化相)は19日、「金馬奨は全ての中国語映画製作者を歓迎する」と述べ、中国政府に対し、背後で政治的な力を使うのをやめ、映画製作者を尊重するよう訴えた。

(中略)

鄭部長は19日、立法院(国会)教育・文化委員会開会の前に報道陣の取材に応じた。創作の自由の尊重が金馬奨の精神だと説明した上で、受賞者がステージ上で創作理念を自然に紹介することは感動を与えるものだと言及。中国の映画人の発言について、態度を表明しない自由がなかったり、他の要素があったりするのかもしれないと同情を示しながらも、尊重されていない感覚を台湾人に与えたと遺憾の意を表した。

中国作品の金馬奨参加危ぶむ声 文化相「映画製作者の尊重を」/台湾

蔡英文総統は18日、フェイスブックを更新。「中国台湾」という呼称を受け入れたことはこれまでに一度もなく、これからもないとした上で、「台湾は台湾」だと訴えた。

(中略)

蔡総統は、台湾が中国と異なるのは自由で多元なところだと指摘。立場が異なるという理由で誰かの発言が消されることはないとしつつ、自由な空気を味わうと同時に台湾人の考えも尊重してほしいと呼び掛けた。

台湾の映画賞、中国人俳優「中国台湾」発言が波紋 蔡総統「台湾は台湾」

映画祭の実行委員会主席を務めた世界的に活躍している台湾人監督の李安氏は、閉会後、「台湾は自由であり映画賞は開放的なものだ」「不要な干渉は望まない」とコメントしました。

ことの発端は台湾人監督の不用意な発言でしたが、そのときに、中国政府が介入したわけではありません。中国人俳優が、政府の意向を忖度して中国台湾という発言をしたのです。このことについて、私は彼らにかなり同情します。彼らはそうしなければ生きていけないのです。まさに生か死かの選択です。なにしろ目をつけられれば拉致監禁ですから。

中国人がこれほどまでに委縮しているのに、習近平はどんどん彼らを追い込んでいます。最近のエンタメニュースには、以下のようなものもあります。

中国メディアを管理する国家新聞出版広播総局(広電総局)が新たに打ち出した規定により、台湾・香港・マカオ出身のタレントが、中国のテレビ番組の司会から締め出される可能性が出てきた。聯合報が伝えた。

 

広電総局がこのほど、「境外人員」こと台湾・香港・マカオ出身のタレントがテレビ番組に出演する際の新たな管理規定を発表。この規定には、「基本的に境外人員をテレビ番組の司会に起用してはならない」との一文があり、番組を切りまわす役割りを「境外人員」には与えないことを示している。

 

さらに、もし「境外人員」が中国の番組に出演する場合は、必ずマッチしなければならない条件として、「中華人民共和国の国家統一、主権、領土を尊重し、国家の尊厳と栄誉と利益を尊重する」「中華民族の優秀な文化を広め、正しい意識で活力を拡散する」といった条件を挙げている。これは、中国の国家体制への忠誠を求めるものであり、もしこれをクリアできずに番組から姿を消した場合、そのタレントは有無を言わさず「香港独立派」「台湾独立派」のレッテルを貼られる事態も予想される。

人気バラエティー番組から香港や台湾人タレント消える?「韓流禁止令」に続き、当局が新たな規定―中国

テレビのバラエティ番組にも、香港や台湾のタレントは深く浸透しています。それを突然シャットアウトするというのです。当然、人気番組からも彼らは姿を消すこととなるでしょう。習近平は、どこまで独裁色を強めれば気が済むのでしょうか。その中で生きていく中国人たちの悲哀は想像を超えるものがあるのかもしれません。

中国はなんでも政治の国ですから、映画も当然政治です。台湾で半世紀以上にわたって続いている「金馬奨」は、中国の映画界からのボイコットで今年だけでなく、習近平の時代はどうなるか不明です。ことに米中の経済貿易戦争中に、中国政府が追い詰められ、各分野で「一つの中国核心的利益の主張がさらに強くなっています

image by: 金馬影展 TGHFF - Home | Facebook

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