2018年、一気に知名度を上げた商品といえば、ハズキルーペの名が真っ先に上がるのではないでしょうか。大きな役割を果たしたのはあの強烈なCMですが、なんとその陣頭指揮を取っていたのは同社の会長でした。なぜ会長自らが?今回、MBAホルダーの理央 周さんが、自身のメルマガ『理央 周の売れる仕組み創造ラボ【Marketing Report】』でその理由を明かすとともに、同社が持つ「顧客視点で販売促進全体を考えることができるDNA」を紹介しています。
2018年のヒットハズキルーペのCMから考える テレビCMの創り方
2018年に話題になったテレビCMといえば、やはり「世の中の文字は小さすぎて読めない!」と渡辺謙さんが叫ぶ、ハズキルーペだ。昨年からは、小泉孝太郎さんと武井咲さん、舘ひろしさんが出演し、新しいバージョンが放映された。放映されていると、思わず意識が向くようなインパクトと、ついつい見てしまう面白さがある。
CM総合研究所発表のCM好感度ランキング(2018年10月後期ランキング)では、2位を獲得し、動画も昨年末段階で、110万回以上再生されているこのCMは、渡辺謙さんのバージョンが第三弾。このバージョンからは、ハズキルーペの松村謙三会長が陣頭指揮をとっているとのことだ。
先日、あるテレビ番組に出ていた松村会長は、「CMクリエイターに任せると、自分の好きな作品を作りたがる。しかし、大事なことは、自社製品を知ってもらい、買ってもらうことが重要なのだ」という趣旨のことをおっしゃっていた。
まさに、この点が非常に重要な点だ。
私もブランドマネージャー時代に、新製品の市場導入に際して、テレビCMを中心としたキャンペーン実施を、広告代理店の方々にオリエンテーションをして、開発していた。クリエイターの方の中には、アート思考の方も多く、「かっこいい」CMを作ろう、とする方が多かったことを、私も覚えている。
嗜好品である外国タバコの人気ブランドのCMの時などは、ニューヨークのかっこいい夜景をバックに、当時流行っていた、AORを流し、イメージを植え付ける、というアプローチはあるが、あくまで、既成の商品の場合だ。新製品の場合は、まず製品そのものを知ってもらわないと、ターゲット層は見向きもしない。私も、何度かクリエイターの方に、ダメ出しを出したものだった。
しかし、これは一方的にクリエイターに問題があるわけではない。広告制作を依頼する、クライアントサイドに問題があることも多々ある。広告制作、キャンペーン開発などの、マーケティングコミュニケーションに関しては、クライアントサイドからクリエイターサイドに、明確な戦略の説明をしないと、開発サイドもブレてしまう。
製品の特徴は何で、ターゲットは誰で、キャンペーンの到達目標はこれだ、という重要な指標を、クリエイティブブリーフという書式にまとめていた。これは、新製品のあるべき姿を、クリエイターと共有し、共通理解を持つことを目的とする。それを元に製作に入ってもらうことが、「売れる」CM、キャンペーン開発には重要だ。
購買に至るまでの顧客心理のフレームワークで有名な、AIDMAの最初のAは、Attention。注目、という意味なのだが、注目させる、目立たせる、という企業視点に加えて、伝える、という顧客視点で考えるべきだ。なぜなら、顧客は、知らないものは買わないからだ。
かっこいいCMを作ることは悪いことではない。しかし、自社製品の状況において、取るべき戦略がある。
全国的に、知名度がこれから、というハズキルーペは、知名度を上げること、さらに、話題性を作るシンプルでストレートなCMが必要だ、と松村会長は考えたのであろう。その点をクライアントサイドから、会長直々にブリーフするという点が、このヒットCMにつながったのであろう。
CMだけではなく、ハズキルーペは企業として、顧客視点で販売促進全体を考えることができるDNAを持つ。
日経MJの記事によると、元々は、メガネ売り場や書店などで販売していたとのことだったが、それほど売れ行きも芳しくなかった。
ハズキルーペは、ライフマスターという、シニア層向けの販促会社に依頼。平均年齢64歳のシニア層が社員という企業で、自分達に近い層へのターゲティングや、販路開拓、販路でのサポートが得意とのこと。ライフマスターは、ハズキルーペの売り場を、家電量販店のテレビやエアコンなどの大型家電売り場の、配送を依頼するカウンターに置いたとのこと。
私もそうなのだが、50歳近くになると、老眼が進み、近くのものが見えにくくなる。配送依頼場所では、伝票に記載するため、細かい文字を読んだり書いたりするのだが、ここで「便利だね、これ」という評判で、初期の頃は売りがついてきた、とのことだ。
ハズキルーペは、拡大鏡である。メガネではないのだ。ということは、メガネとは用途が違う。「小さすぎる文字が読めない」という顧客が持つ問題を解決するためのものになる。この顧客視点があるからこそ、他と違う売り場を開拓できたわけだし、あのCMの元にもなっているのだ。
マーケティングは、顧客が持つ問題や課題をすること。そのために必要な顧客視点が、マーケティングコミュニケーションでも出発点になるのだ。
image by: ハズキルーペ 公式サイト – Hazuki Company