米国小売業界最大の年次イベント「NRFビッグショー」が今年も開催されました。『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』の著者で、マーケティングのプロでもあるりばてぃさんが、この会合で見聞きした私たちの生活にも関係する話題を届けてくれます。その第1回は、プレスとアナリストしか参加できない勉強会で、急激な失速予想が話題となったアメリカの経済の行方についてです。
2019年の米国経済の行方は?
北米最大の小売業界向けの年次カンファレンス、「NRFビッグショー」が今年もニューヨークのジャビッツ・センターで開催。
前回のメルマガで、eスポーツについてお伝えしていく予定としていたが、「NRFビッグショー」が開催されたばかりということと、小売の動向は私たちの生活にも関係することなので今号から数回にわけて、「NRFビッグショー」関連の話題をお届けしようと思う。
まず、マクロデータで気になる話題を。「2019年、米国経済は不景気になる」…とは、プレスとアナリストしか参加できない勉強会での講演者からの発言。
過去のメルマガでもお伝えしたように2018年の米国経済は絶好調が続いた。この好調ぶりは2017年からで、特に、1年に1度の大セールがあるホリデーショッピングの小売の売上も大幅な伸びを見せていた。
また、米国の雇用も好調で、失業率(米国労働省発表の2018年9月の雇用統計)は、およそ48年ぶりの低水準に。好景気による物価上昇や、最低賃金増などを要因とし全般的に米国小売業界は調子が良いと報じられ続けてきた。それが、今年、かなり失速するいった真逆の話になっているのだ。
プレスとアナリスト向けの勉強会の講師は以下の3名。投資助言会社のTSロンバードからチーフエコノミストのスティーブ・ブリッツ(Steven Blitz)、KPMGからもチーフエコノミストのコンスタンス・ハンター(Constance Hunter )、そして、NRFビッグショーを主催する米国小売協会のチーフエコノミストのジャック・クレインへンツ(Jack Kleinhenz)。
みなさん専門家。それぞれが米国経済の今後とその理由を説明しながら、参加者からのQ&Aに回答するというランチをしながらの1時間の勉強会だった。
話のポイントは以下のとおり:
- 米国経済が低迷する際はたいがい米国内の消費低迷が原因になることが多いが、今年の不景気は、米国内よりもグローバル経済からの余波
- ヨーロッパの景気低迷。特にドイツが不景気になる可能性は高く、その影響で米国経済も低迷する可能性がでている
- そして中国との貿易制限問題の影響も無視できない状況になっている
- 不景気になる確率は5割ほど。2019年の第3四半期ごろだろう。もし今年起こらなくても来年、再来年までは注意が必要である
…といった内容だった。まぁ、とにかく不景気がくるというのだ。
ご参考:
● Retailers wary of the shutdown, tariffs and a looming recession
ところで、中国との問題はすでに様々なところで出始めており、例えば、米国経済でも重要視されているスタートアップ企業への投資が減速している。もともと運営資金のために投資を募るので、投資が止まれば経営していけないなんて会社も出てくるだろう。中国企業からの投資を中心に受けていた会社は要注意だ。
ご参考:
● The Chinese investment boom in America is over
● China investment in US slides to 7-year low in 2018 amid trade war
実はこうした不景気への懸念は昨年秋頃から報じられはじめていたが、年始早々の小売業界最大のイベントで改めて強調されたのは、いままさに進行中の政府機関閉鎖の問題が関係している。
日本のニュースでも報じられていると思うが、政府機関が閉鎖すると政府機関で働く人たちのお給料がでない。お給料がでないならと、病欠が増え人員減となっている。
無給でも働いてくれている人たちはたくさんいる。彼らが無給で働いた期間は政府機関閉鎖終了後に遡って支払うべきという話になっており、一応、法案は通っている。しかし米国史上最長の閉鎖となっているため、いつ支払われるのか不明だ。
ご参考:
● 9 key questions about the longest government shutdown in history, answered
そして、この政府機関閉鎖は政府機関で働く人たちだけでなく一般人にも影響してくる。毎年確定申告後に戻ってくる税金があるのだが、その払い戻しが遅延する可能性がでてきているのだ。
収入によるが払い戻されるのは毎年かなりの金額となる。使い道はたいがい車や家、ローンの支払いなど大きな買い物に充てる人が多いとの調査結果が出ている。その払い戻しが遅れることで、消費は減速。
しかも、政府機関閉鎖のような何が起こるかわからないといった世の中の不安定さは、消費に影響する。米国外からの景気影響に加えて、不景気を引き起こす要因の1つになるのではと見られており、年始早々から先行き不安だという見解が広まっているのである。
ただし、周知のとおり、予想が外れることはあるだろう。もしかしたら、不景気になるとたくさん報じられることで結果的に好転するかもしれない。どうなるかわからない。けれども、そんな中でも信念を持って世の中のために何かしたい、実際にしてきたという起業家や専門家たちが今年のNRFにはたくさん集まっていた。
次号以降は、そうした人たちのお話をご紹介しようと思う。
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