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平成仮面ライダーが掲げた「小さな正義」は次の時代にどう進む?

昨年末公開された平成最後の仮面ライダー映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』を授業の題材にしたというのは、メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者でジャーナリストの引地達也さんです。平成仮面ライダーが示した「正義」は平成という時代の空気を反映していたと解説し、新たな元号下での次世代仮面ライダーたちの「正義のあり方」がどう示されるのか案じています。

仮面ライダーたちが示した平成時代という記号

映画鑑賞からその内容をディスカッションしレポートを書いてもらう授業の題材として、秋に続いて新春も『仮面ライダー』を選んだ。平成最後の仮面ライダー映画、正式タイトルは、『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』である。

映画のキャッチコピーは、「仮面ライダークウガから仮面ライダージオウまでの平成仮面ライダー20人が一堂に会した迫力満点のビジュアル。堂々と構える仮面ライダーの背景には、幾多の感動を人々に与えてきた名場面の数々が映し出されています」で、父親になったお父さん世代に向け「人々の心に刻まれた彼らの勇姿はまさに平成仮面ライダーの歴史そのものともいえる」との言葉も添えられる。

昭和ライダー世代の私が見終わって感じたのは、その「与えられた感動」の末にある混沌としたままの世の中、つかみきれない平成という時代の空気である。

パソコンが登場する前の社会学のテキストには、デジタル時計により歴史観念が寸断されるとの指摘があった。時計の針が動くことで時の流れが可視化され、それは「つねに小さな時計の中にひとこまひとこま、生活のつながりを辿りながら、変化を確認できた」(『社会学入門』秋元律郎他)からで、対してデジタル時計は「味も素気もなく、ズタズタに裂かれた数字の断片として、区切られた時を示しだすだけでしかない」(同)とネガティブな指摘。

秒針の動きは太古から続いている現在を意識させられるが、数字で示される時間は「流れ」ではなく、今の感覚を指し示すだけということか。

日本の元号文化は、国の象徴とする天皇在位と連動し、独自の時代認識を提示している。平成が終わろうとしている今、私たちが平成という約30年の区切りをどのような時代だったのかと解釈しようとする時、平成を冠に掲げた仮面ライダーたちはその道筋を示してくれる。

それは仮面ライダーが、評論家の宇野常寛氏が言うところの「リトル・ピープルの時代」の象徴でもあるからで、昭和のウルトラマンを象徴とするビッグ・ブラザーの時代を経て、仮面ライダーのリトル・ピープル時代に移り変わる、という考え方だ。

「70年代初頭─政治の季節の終わり=ビッグ・ブラザーの壊死が始まったその瞬間に生まれた仮面ライダーはあらゆる意味においてリトル・ピープル的なヒーローだった。外宇宙(外部)から飛来した超越者だったウルトラマンとは違い、同型の改造人間たちのひとりに過ぎず、いわばショッカーの脱走兵に過ぎない仮面ライダーはこの世界に内在するヒーローだった」(『リトル・ピープルの時代』宇野常寛)

そう仮面ライダーは私たちだった。その仮面ライダーは平成の「仮面ライダークウガ」の登場から混沌とし、平成ライダー第三作の「仮面ライダー龍騎」は平成シリーズの方向性を決定づけたとされる。

この「仮面ライダー龍騎」では13人のライダーが殺し合う物語が描かれる。ウルトラマンの絶対的正義ではなく、自分の持っている小さな正義、その正義も普遍化できない不安定な時代の反映だ。それが平成なのかもしれない。

平成最後となる映画で、平成仮面ライダーの総まとめを見ながら、その複雑なストーリーに子供たちはついていけるのかを心配する自分は、昭和ライダー世代の先入観とともに、ビッグ・ブラザーの呪縛から解放されていないのも感じる。

もう大きな正義の時代は終わった、とは信じられないまま、その残像を追い続けながら年号はまた一つ新しくなる。平成の次の時代に正義はさらなる拡散に向かうのか、それとも統合されていくのか。

カラフルに彩られたライダーたちの勇姿にそれぞれの正義を見つつ、次の年号を迎えるにあたり、どのような正義が物語化され、形作られていくのか、不安な気持ちはぬぐえない。

image by: Aisyaqilumaranas / Shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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