NY在住の医学博士・しんコロさんが発行するメルマガ『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』では、メルマガ読者からの質問を随時募集しています。今回はネットの記事を読み不安になった方からの「猫の飲み水」についての質問が寄せられ、元になった記事への反論とともに明確に回答しています。
純水は体に悪いのか?
Q. 先日、純水は体に悪いのか?ということが職場で話題になり、ちょっと調べたところ、さまざまな説はあったのですが、そのなかでこんなサイトがありました。
● 純水は「体を壊す水」、続けて飲むと、体調を壊す【藤田紘一郎先生の水で健やかVOL.25】
一応、医師である先生の見解です。この方は寄生虫関連の本で有名になった先生のようですが。最後に結論として、純水・蒸留水は生のまま飲まない。さゆなどもNGと書かれています。
まぁ人間のことならあまり気にしないのですが、問題は猫の飲み水です。私は今は浄水器(高機能タイプではなく標準タイプ)の水をさらに一度沸騰させて猫に使っているのですが、以前から、もしかしたら沸騰させることはかえってよくないのだろうか?とは思っていました。
しんコロさんは、たしかご実家の水道を全部浄水にされたりしてた気がしますが、猫の飲み水はどのようなものがよいと思われますか?(ミネラルウォーターが猫によくないのは知っています)よろしくお願いいたします。
しんコロさんの回答
藤田紘一郎先生は「アレルギーは寄生虫感染がなくなったのが原因」と説を唱えて、自身の体内でサナダムシを飼っているという方ですね。さて、記事を読ませていただいたので、記事に対する僕なりの見解を示したいと思います。
まず「純水を生のまま飲むと、体が保持している大事なミネラルを溶け出させてしまう危険性があるのです」という主張には根拠がありません。確かに純水はミネラル等を溶かしますが、それはミネラルを体外に排出させるということと同じ意味ではありません。
むしろ酸化防止剤のEDTAの方がカルシウムを体外に排出させてしまう作用があるので、心配すべきかと思います。そもそも、食べ物から吸収するミネラルの量の方が、飲料水から吸収する量よりもはるかに多いので、ちゃんと食事をしていればミネラル不足になることはありません。
例えば、マグネシウムの含有量で「煮干しとエビアン」を比較してみましょう。中サイズの煮干し1尾を300mgとして、マグネシウム含有量は8%くらいですから24mg含まれることになります。このマグネシウム量は、エビアンを1L飲むと摂取できるマグネシウム量とほぼ量です。マグネシウムの1日あたりの推奨量は300~400mgですから、エビアンだけでマグネシウムを摂取しようとしたら10リットル以上飲まないといけません。
以下の発言も疑問です。「蒸留水を水槽に入れ、そこに淡水魚を放すとどうなると思いますか。それまで生き生きと泳いでいた魚が死んでしまうのです(中略)水に溶け込んでいる酸素がないため窒息してしまうのです」という記述です。蒸留水でなくても溶存酸素がなければ魚は死にます。この理屈は「魚を空気中に放置すると死にます。窒息してしまうのです」と言っているのとあまり差がなく、純水が体に悪いという根拠にはなっていません。
さらに「絶食状態にあるとき、蒸留水を約1.8L飲むと死に至ると言われています」という記述も、あいまいすぎて科学的ではありません。1.8Lという数字も出所不明である上、「と言われています」という言い回しも不明瞭です。加えて「赤ちゃんの腸を元気にするには、大腸菌などの悪玉菌の力も不可欠であることは腸の研究により、明確化されています」という主張も曖昧です。
腸内細菌が免疫に多大な影響を与えているのは事実ですが、「悪玉菌があった方がいい」という出張はいささか乱暴で危険と言わざるを得ません。最近の研究で腸内細菌と免疫反応の関係は盛んに調べられています。でも、まともな論文には「ちょっと悪玉菌を入れると良い」などとは書いてありません。
さて、ねこに与える水ですが、浄水器のフィルターが清潔で定期的に交換されているものであれば、雑菌もほとんどいないでしょうから煮沸させなくても大丈夫です。むしろ、ねこ達がぺろっと舐める私たちの手の方がずっと雑菌がくっついています。
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