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中国は覇権国家になれず。世界的経済学者が予言する習政権の末路

世界的な経済減速懸念の広がる2019年は、世界覇権を競う米中にとって改めて重要な年となりそうです。国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、通貨ユーロの創設に深く関わったことでも知られる著名経済学者の言葉をひきながら、2大覇権国家のうち中国が近い将来に、国として大変革を迎えることが避けられない理由を解説しています。

ジャック・アタリ、中国は覇権国家になれるか?

皆さん、ジャック・アタリさんをご存知でしょうか?フランスの著名な経済学者です。ミッテラン大統領の側近。1981年から91年まで大統領補佐官をつとめた。その後、欧州復興開発銀行の総裁をされていました。

この方、何が有名かというと、「EUを東欧やトルコに拡大し、共通通貨ユーロをつくれば、欧州は、アメリカに匹敵する超大国になれる」といった。

アメリカとソ連の時代が来る前、欧州は約400年にわたって世界の中心でした。ところが、第1次大戦、第2次大戦で、没落した。世界の中心は、欧州人が「田舎者」「野蛮人」と考えるアメリカロシア(ソ連)に移った

1991年12月、ソ連が崩壊した。世界から欧州の脅威は消滅し、アメリカの保護も必要なくなった。それで、アタリさんは、「もう一度欧州が覇権を握るチャンスが到来した!」と考えた。しかし、イギリス一国、フランス一国、ドイツ一国で覇権をとるのは難しい。だったら、西欧東欧を一つにしてドルに匹敵する共通通貨をつくればアメリカに対抗できる。そんな風に、彼は考えたのです。そして、EUは東欧を飲み込み、ユーロができ、リーマンショック前、ものすごい「ドル離れトレンド」が起きていました。

ジャック・アタリさんというのは、とても影響力のある人なのです(大昔に活躍していたので、もう90歳ぐらいだと思っていたのですが、まだ73歳だそうです)。そんなアタリさん、中国の未来についてどう考えているのでしょうか

歴史が示す中国独裁の末路

プレジデントオンライン3月28日から転載します。

【アタリ】しかし私は、中国のポテンシャルを過剰に評価してはいけないと思っています。第1の理由は、中国人の生活水準がアメリカ人の生活水準の15%にも満たないこと。西欧人や日本人に比べても、中国人の生活水準はかなり低い。この先も、低いままでいくと思います。金持ちになってから人口が減少し始めた日本と比べればよくわかりますが、中国は人民が豊かにならないうちに人口減少社会に突入したからです。

皆さんご存知のように、中国のGDPは世界2位です。しかし、国民の豊かさを表す一人当たりGDPはどうでしょうか?IMFによるとアメリカは2017年、世界8位で5万9,792ドル。日本は同年、3万8,448ドルで世界25位。中国は、8,643ドルで世界74位。つまり、中国の一人当たりGDPは、アメリカの約7分の1。日本の4.4分の1。

もちろん、中国はこれからも少しずつ順位をあげていくでしょう。しかし、この国のGDP成長率は、年々鈍化しています。成長期が終わりに近づいている中国は、もはや高成長できない。日本よりはるかにひどい少子化問題が起こる一人っ子政策の反動)。

人民が豊かにならないために内需が拡大しなければ、これから先の経済成長も大いなる輸出で賄っていくしかありません。これはそう簡単ではないというのが、第2の理由です。
(同上)

国民が貧しくて内需が拡大しない。それで、成長は、輸出で賄う。そうはいっても中国の価格競争力はもはやなくなっています。中国国民は、全体で見るといまだ貧しい。その一方で、人件費は、外国企業から見ると魅力がないほどあがっている。それで、日本企業も、中国からベトナム、インドネシアなどに生産拠点を移しています。これから中国が輸出を激増させることは難しいでしょう。

2つ目は、独裁であること。習近平主席は憲法を改正して、国家主席の任期を撤廃しました。共産党の指導部がどれほど優秀だとしても、やはり全体主義的な体制には脆弱な部分があります。独裁の中に市場経済を取り入れていくとブルジョワジーが台頭して、結果的に独裁を追い詰めることは、今までの歴史が示してきた通りです。10年後か20年後か、あるいは50年後なのかもしれませんが、独裁体制が続かないことを中国の指導者は、完璧にわかっているはずです。
(同上)

同感です。

独裁は、意志決定が迅速だという長所はあります。その一方で、「政権交代のシステムがないのは致命的。民主主義国家、たとえば日本であれば、自民党がおかしくなれば、「民主党に試しにやらせてみようか」となる。その結果さらにひどくなったので、「やっぱり自民党にもどそう」となる。その時、自民党は、「もう少し真面目にやろう」となるでしょう。このプロセスは、選挙によって革命なしで行われます。

しかし、中国では、こういうことができない。国家主席の任期を撤廃した習近平を倒すためには、党内でクーデターを起こす?共産党政権を交代させるためには革命しかない。これ、脆弱ですね。

一党独裁ソ連は崩壊したが…

【アタリ】これからの中国には、どういった社会モデルがつくられていくのか。独裁モデルは長続きするのか、一種の革命のようなことが起こりうるのか、体制への反逆者が出てくるのか。ソ連の体制は1世紀は続くだろうと誰もが信じていたのに崩壊したわけですからね。

 

私は、中国人の心理をあまりよく知りません。車やマンションさえ手に入れば自由がなくてもいいと諦められるのか、物質的な豊かさだけでは満足できなくなるのかどうか。しかしパンだけでは満足できなくなってペンを欲する日が、必ずくると確信しています。
(同上)

私もそう思います。これは、「きれいごと」に聞こえるかもしれませんが。「自由」というのは大事です。自分で自分の人生を決めることができる自由。いいたいことをいっても捕まらない自由。一度体験したら、元には戻れないですね。

今、欧米に留学していた中国人たちが、大挙して中国に戻っています。一度自由な空気を吸った彼らが中国で自由を抑圧されて生きていけるとは思いません。

中国、共産党の一党独裁。そんなに長くは続かないでしょう。

image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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