子どもの頃に憧れた仕事や、好きなことを仕事にしてなおかつ経済的な安定を得られる人はほんの一握り。好きな仕事で満足行く収入を得るのは難しいようです。メルマガ『j-fashion journal』の著者で、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、日本社会の仕事選択の事情について考察。好きなことを仕事にするメリット、デメリットに加え、組織の中で与えられた仕事で生きていくことで得られる安定とリスクを説いています。
好きなことを仕事にすることのメリットとデメリット
1.憧れの仕事
幼稚園や小学校低学年の子供に、「将来の夢は」と聞くと、「ケーキ屋さんになりたい」「看護士さんになりたい」「野球選手になりたい」「Jリーガーの選手になりたい」「ユーチューバーになりたい」等の答えが返ってくる。子供らしい夢である。中には、「公務員になって安定した生活をしたい」などの答えもあるが、少数派だ。
子供の頃の夢とは、大人になったときの職業を指すことが多い。働く姿が大人のイメージであり、身近な職業やテレビに出てくる職業が対象になる。憧れの仕事だ。
2.仕事に必要な能力
小学生からサッカー、野球、水泳、体操、スケートなどを習う人も少なくない。そこから、競争が始まる。最初は好きで始めただけでも、ライバルが現れ、負けたくないと思う。しかし、才能の差は歴然だ。素質のある子は成長していくが、素質がなければ一定の段階で足踏みするだろう。
好きなだけでは、夢を叶えられない。素質と努力と適切な指導により、能力は高まる。能力がなければ記録も出ないし、試合に勝つこともできない。能力は平等に与えられるものではない。個人の能力差は紛れもない事実だ。憧れだけでは、その仕事につけないと実感するのだ。
3.芸術への憧れ
中学校、高校の授業は受験勉強が主流である。中学校は良い高校に進学するために勉強し、高校では良い大学に入学するために勉強する。受験勉強では記憶力が最大の武器である。記憶力の良い子が良い点数を取れるペーパー試験が主流であるためだ。
その中で、音楽や美術に才能を見いだす者もいる。芸術系、美術系大学に進学し、アーティスト、デザイナー等のクリエイティブな仕事を目指すという生き方である。
机に向かって勉強するより、体や手を使って何かを作りたいという人達である。しかし、スポーツも芸術も、安定した収入を得るのは難しい。好きなことは、職業にするより、趣味にしておいた方が賢いと考えるのも当然である。
4.選ぶ仕事、選ばれる仕事
幼稚園や小学校の時に、憧れの職業を持つ者は多いが、中学生になると職業に対する憧れは薄れていく。学校の成績が良ければ、良い高校、良い大学、良い会社に進めることが分かるからだ。とにかく、勉強をして、良い点数をとること。それこそが人生の勝者になる条件と知るのだ。
現代日本の就職は、職業を選ぶものではない。会社を選ぶものだ。そして、入社は大学や成績で決定される。会社に入社すると、各部署に配属される。営業担当、生産担当、総務担当など、配属された部署によって仕事は異なる。仕事は与えられるものなのだ。
かつては、会社から与えられた仕事であっても、会社に忠誠を誓い、一生懸命に取り組んでいた。しかし、終身雇用の崩壊とリストラにより、会社への忠誠心は希薄になった。仕事は生活の糧を得るための手段になったのだ。
5.経済的安定とストレス
自ら選ぶ好きな仕事は、安定した生活を維持するのが難しい。好きでなくても、大企業や公務員として就職し、与えられた仕事をこなしていれば、収入は安定する。よほどのことかない限り、解雇されることもない。
経済的な側面で考えれば、より良い大学に進学し、安定した大企業に就職することが正解である。しかし、その生活でストレスを感じる人も多いだろう。ストレスにより自殺してしまう人も少なくないのだ。
精神的な安定という意味では、好きな仕事を選んだ方が良い。組織内の人間関係で神経を磨り減らす人も多いが、フリーランスで働いていれば組織の人間関係で苦しむことはない。反面、経済的なストレスを感じるかもしれない。どちらを選ぶのかは個人の考え方次第だ。
6.定年後の精神的安定
大企業のサラリーマンや公務員で定年まで勤め上げれば、それなりの退職金も支給されるし、年金も支給される。経済的には老後の生活は安心できると思う。
しかし、定年になった途端に、気持ちの張りを失い、急速に老け込む人がいる。会社という共同体から切り離され、自分の居場所がなくなり、鬱になる人もいる。
個人で好きな仕事をしている人は、自分が働ける限り働くだろう。退職金はないが、やることがなくなったり、社会と隔絶してしまうことはない。友人や知人がいて、コミュニケーションを失わなければ、精神的な健康を保つことができる。
編集後記「締めの都々逸」
「どうせ人生 死ぬまで生きる 好きなことして生きていく」
大学出てサラリーマンになることが経済的な安定を得る近道だと思いますが、サラリーマンには定年があるんですよね。定年後の暮らしも結構長いのでこれをどのように充実させるかは重要な課題です。
定年過ぎて、中学校のクラス会をやると、不良や落ちこぼれだった人達の方が元気だったりします。中小企業の社長や、飲食店の親父になって、バリバリ現役で働いている。地元に根付いているので友人も多い。優等生は大企業を定年になってしょぼくれている人が多いんです。
女性は全般的に元気です。旦那さんがしょぼくれても、奥さんは元気。地元に根ざしているし、友達も多いし、趣味も多い。起業を勧めると、リスキーなことを勧めるのは良くないという人がいますが、サラリーマンという生き方も意外にリスキーですよね。
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