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ふるさと納税の返礼品は「プライスレスの感動」がいい納得の理由

この6月から「寄付額の3割以下の地場産品」に限定され、新制度となった「ふるさと納税」。加熱した高額、豪華な返礼品競争が制度改正の発端ですが、「返礼品目当ての自治体選び」が変わることはなく、「3割を巡ってまた下品なPR合戦」が起こるだけだと指摘するのは、メルマガ『8人ばなし』の著者・山崎勝義さんです。山崎さんは、募る側も選ぶ側も「あさましい」姿を晒すこの制度の間違いは、日本人の善意を信じられなかったことに原因があると持論を展開しています。

ふるさと納税のこと

ふるさと納税」という言葉は、今やこの国に住まう誰にとっても当たり前のものとなった。と同時に、その一般化の反動とでも言うべき同制度の濫用・悪用が問題視される事態ともなった。

そもそも日本人にとって、ある意味キラーワードである「ふるさと」と、それとは全く反対の意味でキラーワードである「納税」を組み合わせたこと自体にどこか無理があったのかもしれない。

ここで一応確認しておくが、本来「ふるさと納税」は寄附制度である。寄附の原動力は誤解を恐れずに敢えて言えば、善意か売名、あるいはその両方である。それは寄附文化が定着しているアメリカなどにおいて、多額の寄附をすることがある種の社会的ステイタスになっていることからも窺い知ることができる。

逆に言えば、庶民感覚からするとどうも金持ちの特権ぐらいにしか思えず、随分縁遠いものに感じられるのも無理からぬことなのである。実際、一万円、二万円の少額なら寄附する方が却って恥ずかしいというのもリアルな感情なのではないか。それなら募金の方が遙かに気が楽である。

ともあれ、上記のような寄附に対するハードルを見事にクリアして見せたのがこの「ふるさと納税」なのである。これは制度として上手く内に折り込むことさえできれば寄附に付随する特権的行為の感は薄れ、誰からでも身近なものとなる証左となった。当然折り込む手際がよくなればなるほどその効果は上がる。事実、2015年の「ワンストップ特例」実施以後その寄附総額は跳ね上がる

ところが、この制度には大欠陥があった。返礼品である。市町村にしてみればこれほど旨い話はない。仮に市町村を、行政サービスを役務として提供する一種のサービス業と見た場合、サービスの提供相手(つまりは客)は遠方にあって何も要求しないことになるから、この「ふるさと納税」で得た金はぼろ儲けということになる。極端に言えば、9万円分を差し出しても10万円貰えれば損はない。それ以上を求められることが決してないからだ。自治体が営利追求団体に成り果ててしまっては始末に負えない。

ただ、ここにはもう一つ別の重大な問題が存在する。それは寄附をする側(ふるさと納税を利用する側)の心のあり方である。そもそも具体的な物品を見返りとして得るために支払う金を寄附とは言えないであろう。矛盾概念である。

例えば、原価5万円の物を10万円支払って手に入れるのであればそれはもう購買である。どの自治体がお得か、などと考えながらホームページを見比べている姿は、仮に自分で自分を見たとしてもあさましいと思うのではないか。

加えて、自身が住民として行政サービスを受益している自治体に対しては他の人(ふるさと納税を利用していない人)より払っている税が少なくなる訳だから不公平感は拭えない。我が家の飯を食い、我が家の床で寝る者が生活費の大半をよその家に入れていては家人から疎まれるのも当然であろう。

さらに納税という制度の本質から見ると、返礼品を受け取るという行為は脱税とまで言う勇気はないけれど脱法的行為とは言えるのではないか。仮に金券、あるいはそれに類する物を受け取るなら、その実キャッシュバックと変わらない。相対的に納税額は圧縮されることになる。

では、どこで間違ったのか。何が原因なのか。それは日本人が日本人の善意を信じられなかったからである。見返りも無しに寄附などあり得ないと絶望したからである。

そんなことはない。過去、災害発生時に見返りなど何も求めぬままに多額の寄附が被災した自治体に贈られてきたという実績が幾度もある。その原動力を同情と呼ぼうが、共感と呼ぼうが、日本人の善意であることには変わりはない。日本人には善意がある。信じていいのである。

総務省はこの制度の不備を見直し、返礼品は寄附額の3割以下とすること、さらに当該自治体区域内にて生産された物や提供されるサービスとすることが望ましいとした。

何も分かっていない。これでは3割を巡ってまた下品なPR合戦(金くれ合戦)となるだけである。さらに産物があるところとないところではあからさまな差がついてしまうことになる。

だから返礼品は無しでいい。代わりに何の価値もおそらくないであろう御礼状や、皆様の寄附でこんな施設やサービスができましたといった写真付きの感謝状でいいではないか。少し古くはなってしまうが「プライスレス」の感動もありだと思うのだが、どうか。

image by: President KUMA, shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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