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障がい者への訪問講義で驚く学習意欲の高さと想像を超える成長

2014年の障害者権利条約の批准や2016年の障害者差別解消法の施行を踏まえた文科省の取り組み「学校卒業後における障害者の学びの支援に関する実践研究事業」で、採択団体の一員として活動しているジャーナリストの引地達也さんが、自身のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』で、その活動について紹介しています。引地さんは、体をほとんど動かすことのできない障がい者の方への訪問講義を続ける中で、その学習意欲に驚かされ、反対に学びを得ていると述懐しています。

訪問講義の可能性を動いて、考え、そして動いて

昨年度に引き続き今年度も文部科学省の障害者の生涯学習に関する委託研究事業の採択を受け、本格的に始まった。文科省の正式名称は「学校卒業後における障害者の学びの支援に関する実践研究事業」。

その中でわたしたちが行うのが「特別支援学校高等部卒業生及び学びを必要とする障害者を中心に対象とした若者の学びを展開するための学習プログラムの開発事業」である。

昨年度は障がい者に学びの楽しさを知っていただくための「オープンキャンパス」の開催を中心に実施し、今年度はオープンキャンパスを本拠地の埼玉県和光市のほか、静岡県伊東市、長野県佐久市でも行うほか、医療ケアの必要な方向けの「訪問講義」にも取り組むことも始めた。

加えて、この障がい者の学びに関する見識を広め、障がい者の学びへの理解と担い手の育成に向けた啓もうを目的にしたコンファレンスも行う予定である。今回は新たに始めた訪問講義について知っていただきたい。

シャローム大学校開校とともに訪問講義の学生2名が入学し、毎週の講義を私が訪問し担当しているが、1人は体調不良により休止し、1人は自宅での受講を欠かさず重ねている。

筋ジストロフィーのため体はほとんど動かせず、オーラルコミュニケーションも出来ないが、目の表情は豊かで、うなずきは目の瞬きで伝えている。

肩の僅かな動きをエアーのパッドでコンピューターに伝え、カーソルを動かし文字を選択して意思を表明する方法で、私に習ったことを繰り返し、次回やりたいことも明確に示してくれる。

アクリルの文字盤を通して、伝えたい文字に視線を合わせる方法もあるが、私の習熟度が遅く、まだまだ潤滑なコミュニケーションができないから、どうしてもパソコンにたよってしまう。本来の社会モデルとは、私がアクリルの文字盤を使うことだと分かっているから、心苦しい

この講義では、「国際社会」を学んでいる。これまで世界地図や世界の国旗を画像で示しつつ、世界の国々を眺め、学びたい国のリクエストを受けて次週の国を決めている。初回のオリエンテーション、次に世界の国々を受けてのリクエストは「中国」

その次は「韓国」、その後は「モンゴル」「フィリピン」「タイ」「インド」「サウジアラビア」「トルコ」と重ねてきた。東アジアの近隣国から、東南アジア、南アジアから中東にわたり、ヨーロッパとユーラシア大陸の懸け橋に至る、というリクエストは国と国のつながりを意識した結果ではないかと喜び、さて次は欧州に行くのかと思いきや、次のリクエストは「日本」だった。

私の勝手な思い込みではあるが、やはり日本に「戻る」のは意外。しかし、それはなぜか考え続けた。中国からトルコまで来る工程で、常にその国の「歴史的な成り立ち」「周辺国との関係」を考え、情報を提示してきたが、これまで習ってきた日本が、他国との連関の位置づけがまだ習熟するには、年齢が若かったのかもしれないと思いながら、それは「日本」ではなく「世界の中の日本」での学び直しの要望であると解釈をした。

「ここまで来たからヨーロッパでいいんだよ」と促し、その伏線として、トルコの講義ではトルコ行進曲を紹介し、いわゆる「トルコ行進曲」で有名な欧州の大作曲家、モーツアルト、ベートーベン、ハイドンも紹介し、欧州への道筋を描いてみた。しかし「日本」というかたい意思

それに少々気圧されながら、私の想像をはるかに超えた成長に喜んでいない自分に気づく。これは自分の講義ではない、当事者の、学生の、講義なんだ。そんな当たり前のことを再確認する自分を恥じらいながら、彼の目をしっかりと見つめ講義をしていこうと思う。

image by: Shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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