DSC03817 copy 

【安田純平×島田久仁彦】交渉のプロが聞く「韓国人ウマル」の真相

メルマガ『安田純平の死んでも書きたい話』の著者で、約40か月間の長きに渡りシリアで拘束されていたジャーナリストの安田純平さんと、メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』の著者で、数々の国際舞台で活躍する国際交渉人の島田久仁彦さん。先日都内にて、このお二人によるクロストークがついに実現し、安田さんが拘束から解放されるまでの経緯を、当事者からの視線と交渉術の専門家からの視線で紐解いていくという試みがなされました。今回はそのトークのごく一部を、MAG2NEWSにて特別に公開いたします。

交渉を優位に進める「相手に証明させる」とは?

島田 先ほど解放時の話をされていましたが、40か月間捕まって去年の10月に出られたっていうことですが、それに至るまでに私が一つ理解できないことがあるので、お聞きしたいのですが……。動画で「ウマル」って言ってる動画があったじゃないですか。どうして、そういうコリアのアイデンティティを用いざるを得なかったのか。何か特別な理由があったとか、例えば動画を見る誰かへの暗号的なものだったのか。もしお話しできる内容であれば、できる範囲で結構なのでお話しいただきたいんですが。

安田 あの動画を撮った施設というのが、ウイグル人が運営している施設なんですよ。

島田 あぁ、先ほど状況が良かったって言ってた……。

安田 そう。そのウイグル人って中国から来てるんですね。で、その前にいた施設というのが、アラブ人が運営している施設で、そこでは「中国人と言え」って言われていて。

島田 なるほど。

安田 要するに周りの囚人に聞こえるからとか、あと拘束組織の中でもみんなが知ってる話じゃないんで、食事とかを持ってくるヤツに対しても「中国人と言え」っていう話だったんですが、ウイグルの施設に移る時に「これからは韓国人と言え」っていう話になったんです。それから、その1か月前ぐらいに改宗していたので、「イスラムの名前を付けてやるよ」っていう話になって、それでウマルになった。ただ、それだけの話です。相手に言われた通りに言っただけ。

DSC03874

安田氏

島田 安田さんがウマルですって言って出てこられた時に、一瞬考えたんです。他のところから流れてきている「安田さん、なんかISに捕まってるらしいで」っていうような情報と、もしそこがくっついてしまった時に、「あぁ、何かしら暗号みたいなものを送らないといけなかったのかな」とか、逆に日本がアテにならないんだったら、韓国を通じて……っていう考えもあったのか。他の時は、確かオレンジの服は着てなかったよな、とか……。

安田 ウマルの時はオレンジでしたね。

島田 そうですよね。そういうこともあって、また余計に「やっぱりISか、コレ」みたいな説が流れたと。そこで結構謎があって、最近なぜかわからないですけど、私の持つ韓国の筋から「彼はどうしてコリアンだって言ったのか?」っていう問い合わせがあって。

安田 確かに、彼らにとっては迷惑ですよね。

島田 そう。だから、実際にそれで「なんかしないといけないんじゃないか」っていうことが、韓国側でも話が挙がってたそうなんですね。それで「もし彼が日本にいて、会うようなことがあるんだったら、聞いてくれ」って言われたんです。その時は「特段合う予定はない」って言ってたんですが、確かに僕のほうでもそういう風に聞かれて説明できるほどの情報を持ってないし、なんでだったんだろうねって思っていたので……。すみません、非常にカジュアルな好奇心でお聞きしたんですけど。

安田 いや、それは韓国の方にお騒がせしましたと伝えていただければ。ヤツらが「言え」って言ったから、言わされたので。でも、結局あの動画が出て、日本の中では「あいつは在日だ」って話になったんですよね。その話ってもともと始まったのが、私が捕まる前に泊まっていたホテルに、メディアが取材に行ったのがきっかけで。ホテルには身分証明書ということで、パスポートのコピーを置いておくじゃないですか。メディアがそれを入手して、テレビでそのまま流してるんですよ。

島田 めちゃくちゃですね。

安田 何の意味があるんだって思うんですけど。そこで私、結婚して名字を変えてるんですよ、いろいろありまして。というのも、分かると思いますけど、世間的に知られている私の名前で海外とかに行った際、そこで外務省とかに通報があったりすると、いろいろと面倒なんです。だから、パスポート上というか戸籍上では全然違う人になっているんですけど、書かれてる名字が違うっていうことで、メディアはそこにぼかしを入れて映すんですよ。そうすると、日本のネトウヨたちは「こいつ在日だ」って話になるんですね。

島田 うーん。

安田 その後に「韓国人です」っていう映像が出たので、「ほれ見ろ」ってなったと。そういう流れなんです。シリアの話なのに在日云々っていう話になるっていうのが、日本のしょうもないところなんですけど。

DSC03860

島田氏

島田 よっぽどネタがないのか、叩けることを探したいのか、よくわかんないですけど……。でも、これは実際にしなかったから良かったんですけど、もしこれで韓国が日本より迅速な対応を取ったとすれば、どうなってたんでしょうね。

安田 どうなったんでしょうね。確か韓国って、シリアやイラクには行ってはいけないっていう決まりになってるんですよね。

島田 そうですね。なってます。

安田 昔、人質事件がめちゃくちゃ起きたから。なんかアフガニスタンにキリスト教の布教に行くとか言って、団体で捕まるとか、訳の分かんないことも過去にやっているんです。そういうこともあって、行っちゃいかんって話になってるので、最近は韓国人でそういう風に人質になったっていう話は聞かないですよね。

島田 聞かないんですが、人質になれなかったっていう話は……。

安田 あぁ、殺されちゃったっていう。

島田 そう。あと、今のアフガニスタンの話とも結構近いんですけど、観光バス一台そのまま捕まって、どっかに消えたとか。

安田 でも、日本の外務省は私が韓国人じゃないことは知っているわけだし、韓国が日本側に何も言わないで何かするっていうのはないと思うんですよね。

島田 そうですね。だけど、なんかコリアンだって言ってるし、それは助けないといけないんじゃっていう話になったっていうから。

安田 彼らも、私が韓国人じゃないことを知ってるわけですよね?

島田 知ってますよね。

安田 でも、そういう風に言われたら、なんとかしないとイカンのかもって思うと。

島田 いや、「これは我々に対してのサインじゃないか」と。それで本当にどうやって動くんだ?みたいなことを、内部では真面目に議論したんだよって言ってて。

安田 本当ですか? いい人たちですね。

島田 いい人たちだと思いますね、そういう点ではね。

安田 まぁ、でも基本的に動画でしゃべっている話っていうのは、彼らが言わせてる話なので、それをそのまま受け取る必要はないので。韓国としては、一応は検討というか考えはしたっていうぐらいだと思うんですけど。

DSC03867

島田 でも、あの動画が出てメディアが拾ったおかげで、ある意味で最高の生存証明にはなりましたけどね。

安田 動画が出てくるだけでも、生存証明という扱いにはなるものなんですか?

島田 厳密にはならないです。

安田 動画だと、いつの時期だとかわからないから?

島田 わからないですね。後藤さんの件でもありましたけど、影がどうだとか、光の当たり方がおかしいとか、目がパチパチしてるとか、そういう点ではいくらでも編集はできますので、映像って実は全然生存証明にはならないですね。やっぱり、肉声が聞ければ……ってことなんですが、過去に音声をあらかじめ録音していて、オウム返しのように「ママ―」とか聞かせたりとか、そういうケースもありました。でも、やっぱりISなので、人質をボロボロにしてるわけですから、それ以上発言できないぐらい体がボロボロだと推定させたうえで……っていうのはあったと聞いています。(つづく)

 


初対面にもかかわらず、約1時間半にわたり熱いトークを繰り広げたご両人。気になる対談の全文は、今後配信されるお二人のメルマガにて掲載されます。どちらのメルマガも初月は無料ですので、是非この機会にご登録ください。

『安田純平の死んでも書きたい話』
安田純平(ジャーナリスト)
ジャーナリスト安田純平が現場で見たら聞いたりした話を書いていきます。まずは、シリアで人質にされていた3年4カ月間やその後のことを、獄中でしたためた日記などをもとに綴っていきます。

『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』
島田久仁彦(国際交渉人)
世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

安田純平(ジャーナリスト)この著者の記事一覧

181211-5

ジャーナリスト安田純平が現場で見たら聞いたりした話を書いていきます。まずは、シリアで人質にされていた3年4カ月間やその後のことを、獄中でしたためた日記などをもとに綴っていきます。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 安田純平の死んでも書きたい話 』

【著者】 安田純平(ジャーナリスト) 【月額】 ¥550/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週金曜日予定

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

有料メルマガ好評配信中

    

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』 』

【著者】 島田久仁彦(国際交渉人) 【月額】 ¥880/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 金曜日(年末年始を除く) 発行予定

print

人気のオススメ記事

  • 【安田純平×島田久仁彦】交渉のプロが聞く「韓国人ウマル」の真相
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け
  • ついでに読みたい