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【書評】世界的投資家が、10歳の日本人だったらすぐ日本を去る訳

世界三大投資家の一人にして、「予言」の的中率の高さでも知られるジム・ロジャーズ氏。そんな彼が「私が10歳の日本人ならただちに日本を去るだろう」と書く著書が話題となっています。ロジャーズ氏は、何を根拠にそう考えるのでしょうか。ライターの本郷香奈さんが同書をレビューしつつ、その理由を明かしています。

金の流れで読む 日本と世界の未来 世界的投資家は予見する
ジム・ロジャーズ 著/PHP研究所

ジム・ロジャーズ氏は、言わずと知れた世界的に著名なアメリカ人投資家の一人である。リーマン・ショック、トランプ氏当選、北朝鮮開国など予言を次々に的中させてきた。本書はその人が自分の投資哲学を率直に語った本である。彼が今の世界をどう見て、どんなところに投資しているのか。本書は2019年の1月に出た本だが、約半年が経過してもその見通しは的確だ。

本書を通じて著者が強調しているのはアジアの可能性である。「これからはアジアの時代が来る」ということで、特に日本、朝鮮半島、中国について紙幅を割いて考えを示す。しかし、日本への視線は厳しい

本書に「私が10歳の日本人ならただちに日本を去るだろう」という言及がある。日本人としてはショックだが、なぜか。財政赤字の累増と少子高齢化による経済への悪影響の大きさゆえ、日本の先行きを案じているからだ。

特に気にしているのが財政赤字である。後に続く世代へのつけ回しなど、先行きへの厳しい見通しがあるからだ。ロジャーズ氏は10歳の子どもが40歳になるころは彼らの老後を保障する金は尽きていると大胆に予想する。それはまさに昨今取りざたされている2,000万円老後資金問題を先取りして紹介したかのようだ。

アベノミクスへの見方も厳しい。その代表的なものは、金融緩和(「紙幣を刷りまくる」とロジャーズ氏は表現)でアベノミクスは日本経済をだめにした、といつか言われるとの指摘である。さらに、移民の受け入れに消極的など、日本に長期的な時間軸はないとも言い切る。移民の適切なコントロールは大事だが、国を閉鎖して成功した例はないとも指摘する。

だがこうした日本でも生きる道はあると期待する。ロジャーズ氏は日本に投資するなら観光業農業教育ビジネスだという。その理由は、インバウンドはまだ伸び、農業分野は可能性があり、教育分野に活路があると考えるからだ。日本に来たい外国人学生は多く、積極的に受け入れる余地があると見る。

日本経済再興への提言も興味深い。日本の強みはあくなきクオリティの探求だという。これが日本を偉大にしたのであり、世界一の品質を捨てるような愚策など決して取ってはいけないし、低価格競争に流れてもいけないという。さらにまじめで真摯な仕事への取組み貯蓄率の高さも日本の強みであり、これらを今後も生かすべきだという。

一方で政策への注文も忘れない。具体的には歳出の大幅カット関税引き下げ慎重ではあるが移民受け入れだ。いかにもアメリカ人らしい発想という印象もあるが、これらはまさに現在の日本が抱える課題にほかならない。

そこで自分が40歳の日本人なら、農場を買い古民家チェーン事業を始め教育事業に着手すると具体的に表現する。逆風にさらされている日本だけに、こうした分野への注力は大事という主張には頷ける部分も多い。

日本へのシビアな見方の一方で、ロジャーズ氏が期待をかけるのが朝鮮半島である。大胆にも韓国と北朝鮮が統一されるとみる。国際政治の現状を見るとなかなか一足飛びにそこまではいかないとも思えるが、長期的にはそうしたスコープを持っている。それゆえ「韓国・北朝鮮は今後10-20年の間、投資家に注目される国になるだろう」と予想する。そして両国は互いの足らざる部分を補いあって、飛躍的に成長を遂げると見る。

たしかにこの予測後に歴史的な米朝会談はこれまで2019年2月と6月に2回行われた。核開発をめぐる交渉の難航で、まだ明確な成果は出ていないが、3回目の首脳会談の可能性も6月末時点では取りざたされている。そういう意味でも慧眼であろう。

ロジャーズ氏は外部環境が整えば北朝鮮がすぐにでも解放されると見る。その時に真っ先に開かれるのはツーリズム観光業)とも指摘する。それはロジャーズ氏が大韓航空に投資していることにもあらわれている。朝鮮半島の統一で、韓国・北朝鮮の国内旅行で活気がもたらされると予想しているのだ。このほか韓国の農業や鉱山業、漁業などにも期待をかける。

ただ気がかりなのはアメリカの政治でありさらに中国ロシアの思惑だと指摘する。アメリカは在韓米軍を持ち続けるであろうし、最後まで北朝鮮への経済制裁を続けると予想する。さらに、ロシアや中国も地の利を生かして、北朝鮮に近いエリアに港湾施設や道路などを建設しており、早くも陣取り合戦を展開しているという指摘は、なかなか日本からは見えにくいがゆえに参考になる。

このほか近年、成長の鈍化が指摘されている中国だが、実際にはまだまだ成長の余力があるとして、環境ビジネスや鉄道などのインフラ産業ヘルスケア分野の中国株に注目し、実際に中華系航空会社の株も保有しているという。一帯一路構想でインフラ景気には期待でき、世界の中でも中国の鉄道事業株は安泰だと見る。その一方で、まだまだ経済は閉鎖的で、国内に多くのカネが閉じ込められているのは大きな問題だとして、閉鎖経済の解決を訴えるのも忘れない。

このほかインドは見逃せない国だが、官僚制の悪弊が残り、言語や民族集団、宗教も多い中、まだまだ発展途上だと指摘。ロシアは多くの人に敬遠されているが、それゆえに投資のチャンスはあり、農業や航空会社など今後成熟してくる業界は狙い目だという。実際、肥料会社やアエロフロート航空の株を持っているとも明かす。

投資哲学として紹介される、「誰も目をつけていないものを買え」という考え方は参考になる。もちろんすべてが予想通りになるものでもないが、ロジャーズ氏の長年の投資経験から編み出される世界の見方や成長分野の見極め方は多くの投資家の関心を集めるだろう。数年後に振りかえったとき、本書で示された内容はどこまであたっているのか。その検証が楽しみである。

image by: Shutterstock.com

本郷香奈

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