アメリカが同盟国を中心に参加を要請している、ホルムズ海峡等で船舶の防衛に当たる「有志連合」ですが、これまでに参加を表明したのは英国のみと、各国の足並みが揃いません。果たして日本は米国の要請を受け入れることになるのでしょうか。今回のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』では著者でジャーナリストの内田誠さんが、新聞各紙の報道を詳細に分析しつつ、日本が置かれている立場や今後予想される事態などを記しています。
米国主導の「有志連合」、各紙の伝え方
ラインナップ
◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…「海賊対処や海上警備 軸」
《読売》…「韓国へ輸出 初の許可」
《毎日》…「ガソリン放火 7年前言及」
《東京》…「羽田新ルート 3月運用へ」
◆解説面の見出しから……。
《朝日》…「商船警護 日本のジレンマ」
《読売》…「ホルムズ構想 政府 慎重見極め」
《毎日》…「連携ほころび 日本焦り」
《東京》…「有志連合参加 悩む日本」
プロフィール
きょうは米国主導の「有志連合」にまつわる記事を拾い上げます。
■米国は本気?■《朝日》
■参加しなくても問題ない■《読売》
■既に失敗?■《毎日》
■調査捕鯨ならぬ調査警戒?■《東京》
米国は本気?
【朝日】は1面トップに続いて、2面の解説記事「時時刻刻」でこの問題を取り上げている。見出しは「海賊対処や海上警備 軸」「ペルシャ湾外 活動想定」「『有志連合』で政府検討」(以上、1面)、「商船警護 日本のジレンマ」「米国への協力重視 イランと悪化回避」「海自の部隊『援用』案」「ソマリア沖から活動海域拡大」「米の『本気度』見えず」(以上、2面)。
1面では、米国が求めているのは「『有志連合』構想・海洋安全保障イニシアチブ」という名称であり、船舶の警護を呼び掛けている海域は、「ペルシャ湾」「ホルムズ海峡」「オマーン湾」「バブルマンデブ海峡」の4か所であること。日本は、今後の対米貿易交渉のことを考えれば「何もしないわけにはいかない」が、イランとの関係悪化を避けるため、ペルシャ湾やホルムズ海峡ではなく、ペルシャ湾外のオマーン湾での活動を想定、しかも新たに艦船を派遣するのではなく、現在ソマリア沖アデン湾に海賊対処法に基づいて派遣している護衛艦1隻とP3C哨戒機2機を援用するか、あるいは自衛隊法で定めた海上警備行動での商船警護を軸に検討しているという。幾重にも言い訳が出来るようにしておこうということだろう
ただ、米国の呼び掛けに応じたのは今のところ英国のみで、他国の反応を待ってから動こうとしているようだ。各国の反応が鈍い背景に、《朝日》は「米国の主張に『大義』が見えづらい点がある」ことを上げている。米国とイランの対立が強まった元々の原因は、「トランプ氏がイラン核合意を一方的に離脱したから」と見られている事情を上げる。さらに、トランプ氏自身の「海洋安全保障イニシアチブ」結成に向けた「本気度」も見えにくいとする。かつてのアフガン作戦の時に「ショー・ザ・フラッグ」といい、イラク戦争の時には「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」として迫ってきたような迫力は感じられないのだという(政府関係者)。
軍事官僚も、トランプ氏の気まぐれにちょっと付き合ってみているだけ、というようなことなのだろうか。
参加しなくても問題ない?
【読売】は1面左肩と3面の解説記事「スキャナー」。見出しには「日米、ホルムズ構想を協議」「防衛相 日本、独自の派遣案も」(以上、1面)、「ホルムズ構想 政府 慎重見極め」「『対北 日米韓連携が重要』」「米との同盟 配慮■イランと友好 維持」(以上、3面)。
日本政府の対応の可能性として、米国主導の海洋安全保障構想ではなく、防衛省設置法に基づき、「自衛隊の艦船を情報収集・警戒監視の名目」で独自に派遣する案が浮上しているという。これなら、米国の求めに従ってやったのではないという言い訳が、イランに対して可能になると踏んでのことだろうか。《読売》は、さらに、海上警備行動の発令や、特別措置法制定の可能性にも触れている。
米国は最近、イラン包囲網や軍事作戦を想起させる「有志連合」といった言葉を避け、「海洋安全保障構想」という表現を使うようになっているという。「関係国の参加取り付けが難航する中、できるだけ多くの国の参加につなげる」のが狙いだというが、米政府が各国の参加のあり方について「ハードルを下げた」とも見られていて、外務省幹部などは「絶対に参加しなければダメだという圧力は感じない」とまで言っているという。
既に失敗?
【毎日】は1面左肩と6面関連記事。見出しは「有志連合 米が協力要請」「防衛相『総合的に判断』」(以上、1面)、「有志連合 見えぬ全容」「ホルムズ海峡 政府、参加なお慎重」(以上、6面)。
見出しに「有志連合」という言葉が入っているが、外務省幹部は「米国はもう『有志連合』という言葉は使っていない」と言っていることを紹介している。見出しに入れたのは、読者のためのインデックスということだろうか。米国の変化については、各国に参加を強く迫っていたのが、今や「各国に自由参加を求めている」とされ、回答期限もとくに設けられていないという。外務省からすれば、「日本の役割がなんなのか、ハッキリしない」ということになるか。因みに、エスパー新国防相が参加を要請したオーストラリアは結論を先送りにし、ドイツは不参加の意向を表明した。
もう、まるでダメダメの、グスグスの構想になってしまったという印象の記事。トランプ氏の大統領再選計画の一部で、イランへの強硬姿勢を取ったところまではよかったが、英国しか付いてこないことになり、大失敗に終わった…そんな評価が可能なのかもしれない。
調査捕鯨ならぬ調査警戒?
【東京】は2面の解説記事「核心」にまとめている。見出しは「有志連合参加 悩む日本」「米イランに配慮■現行法適用は困難」「日米防衛相会談 回答留保」。
岩屋防衛相が回答を留保したのは、有志連合への参加には外交、法律の両面で問題があり、即断できないからだ、とする。
他紙が米国の本音に疑問を突きつける形の記事になっているのに対して、《東京》は有志連合の構想に参加乃至同調していく場合に発生する問題、とりわけ法律上の問題を丁寧に吟味する記事になっている。
2015年成立の安保関連法では自衛隊による米軍支援の幅は広がったが、実際に国際紛争が起きることが多くの場合に前提となっている。現在、戦闘は起きておらず、「小康状態」なので適用できない。また、海賊対処法を適用して派遣すると活動は海賊対策に限られ、自衛隊法に基づく海上警備行動では他国の船舶を防護することができない。そこで、浮上しているのが、防衛省設置法による「調査・研究」名目での警戒監視活動。これは2001年の米中枢同時多発テロ直後に、在日米軍基地からペルシャ湾に向かう米艦を海自が日本近海で護衛した際に使われた理屈だというが、防衛省の組織について定めた法律を使って自衛隊を実任務に送り出すことには批判があるだろうという。
あとがき
以上、いかがでしたでしょうか。
少なくとも、事の発端はトランプ米大統領がイラン核合意を一方的に離脱したことだった…この事実は忘れないでいたいものです。
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