企業や店舗の売上が立たない理由の一つに挙げられる、現場のモチベーション不足。問題解決のプロは、スタッフの意識をどのようにして変えてゆくのでしょうか。今回の無料メルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』では経営コンサルタントとして活躍中の梅本泰則さんが、自身が行い職場の雰囲気や売上が大きく改善した3つのコンサルティング事例を紹介しています。
従業員のモチベーションを上げる
お店にとっての問題は、売上や利益に関することだけではありません。従業員に関する問題も多いです。今回は、その従業員のモチベーションを上げるために行ったコンサルティング事例を3つ紹介します。最初は「サンキューカード」です。
そのお店から相談があったとき、業績は赤字でした。当然、「どうしたら業績が回復するか?」という相談です。私は決算書を見ながら、赤字になった原因を探っていきます。比較的容易に対策は見つかりました。商品戦略と販売戦略の見直しをしよう、ということになります。
ところが、店主と話を進めていくうちに、もっと違った問題が見えてきました。どうも、社員のモチベーションが低いようです。戦略を実行する人たちのやる気がなければ、うまく進んでいきません。
よくみると、社員間のコミュニケーションがうまく取れていないようでした。そこで、戦略の実行の前に、皆さんに「サンキューカード」に挑戦していただくことにしました。社員同士が、名刺大のカードに「ありがとう」と書いて渡し合います。「○○さん、商品整理を手伝ってくれてありがとう。△△より」といったように。
カードを貰った人は、事務所内の「サンキューカードボックス」に投函します。そして、1ヶ月後にカードを一番多く貰った人と一番多く書いた人を皆の前で表彰する、という仕掛けです。目的は、社員同士が感謝をし合う習慣を作り、活気のある職場にすることです。
ところが、最初のうちは、誰もカードを書こうとしません。当たり前です。そこで、店主が積極的に「サンキューカード」を書くようにしました。すると、徐々に書き始める人が現れます。
「ボックス」にカードが増えていきました。ボックスのカードは誰でも見られますので、皆さんカードのことが気になって仕方がありません。1ヶ月後、何とボックスにはカードがあふれるほどになりました。
その後もサンキューカードを続けます。それによって、どんどん社員の皆さんが明るくなって行くのが分かります。社員同士、お互いのことを気遣うようにもなりました。あきらかに元気な売場になったのです。
その結果、1年後、お店の業績は回復しました。もちろん、サンキューカードだけで回復したわけではありません。売上や利益を上げるための手もうちました。しかし、サンキューカードでモチベーションが上がったことが、その後の実行につながったのではないでしょうか。
不満社員をなくす
次は、不満社員をなくすことができた事例です。
お店に不満を持った社員のいるお店がありました。よくあることです。社員一人の不満は、ほっておくと他の社員に伝染します。悪貨は良貨を駆逐する、というやつですね。そうなると、お店の中が不満の渦です。これはなんとかしなくてはなりません。
その社員は、経営者や上司とコミュニケーションが悪いわけではありません。仕事はきちんとしますし、反抗的な態度を取ることもありません。ただ、悪口が多いのです。社員同士で会話をする時、お店の悪いところや取引先の悪いところ、はてはお客様の悪いところを指摘するのです。
何とかならないでしょうか。実は、何とかなるのです。なぜなら、この社員の悪口は、いわば「クセ」だからです。いつも、どんなことに対しても悪いところばかりが目についてしまうというクセなのです。往々にして、自分は頭が良いと思っている人が陥りがちなクセです。ですから、このクセから解放してあげることが、この場合の解決策になります。
そこで、私は社員全員の方に「お店の良いとこリスト50」というものを書いていただくことにしました。一人ひとり最低50個の「お店のいいところ」を書き出してもらいます。
こんなことはしたことがありませんから、皆さん戸惑っています。最初の10個くらいは出ても、50個ともなると苦心惨澹です。何とか時間をかけて、皆さんに提出してもらいました。
全部でお店の良いところが数百にも上ります。そうしたら、お店の中の雰囲気が徐々に良くなっていきます。例の社員の影響を受けていた社員も、悪口を言わなくなりました。
どうしてでしょうか。「いいとこリスト」を書く作業を通じて、「いいところ」を見る感覚に目覚めたからです。そして、悪いところばかりを見るクセが無くなっていったからです。
もちろん、皆で考えたお店の良いところをお互いが分かりあえましたので、お店の中は「いいところ」でいっぱいです。肝心の、例の社員も悪口が減ってきました。恐るべし「いいとこリスト」です。
ちょっと考え方を変えるだけで、人というのは良くも悪くもなります。こんなこともコンサルタントの仕事です。
イベントを考える
最後は、皆でお店でのイベントを考えたら、自信がついた事例です。
スポーツ店さんでは、ときどき店頭イベントが行われます。「野球グラブキャンペーン」とか「ランニングフェア」とか。
とはいえ、このイベントはお店独自のものではなく、メーカーさんが自社商品の売上拡大を狙ったものが多いです。全国の有力店が一斉に行う企画ですので、隣町のお店でも同じイベントが行われることになります。お店としては大した費用はかかりませんが、他店との差別化にはなりません。それでも、お店独自のイベントを打つところは極めて少ないのが現実です。
そんな中、あるお店でメーカー企画ではない独自のイベントを開催することになりました。イベントに合わせてチラシやDMを配ることにもしました。しかし、それまで独自イベントを企画した経験がありませんから大変です。
イベントの内容は、スタッフ全員で考えることにしました。すると、最初の内は、大型店が行っている、商品の割引価格を目玉にするといったアイデアばかりが出てきます。これでは、折角のイベントが「安売り大会」になってしまいます。そこで、私は「商品のことを忘れて、お客様が楽しめるイベントを考えましょう」と提案しました。
その後、少しずつアイデアが出始めます。「シューズの試し履き」とか、「バットのスイングスピード測定会」とか「サッカーボールリフティング大会」とか、お客様参加型のイベントアイデアです。スタッフの皆さんが徐々に楽しんでイベント内容を考えるようになっていきました。
いよいよチラシの作成です。皆さんで考えたお客様参加型イベントを前面にアピールします。掲載商品にはウンチクを語るだけで、価格は定価です。こんなチラシで本当にお客様が来るのでしょうか?皆さん心配でなりません。
いよいよイベントが始まりました。なんと、初日から大勢のお客様が押し寄せてくるではありませんか。駐車場はいっぱいです。スタッフの皆さんは、これで自信がついたようです。このお店はその後もユニークなイベント作りに励んでいます。
■今日のツボ■
- 「サンキューカード」で社内のコミュニケーションを良くする
- 悪いところを見るクセを、良いところを見るクセに変える
- お店のイベントは、スタッフ全員で考えると良いアイデアが出る
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