新型コロナウイルスに関しては、あらゆるメディアでさまざまな人々が情報やコメントを発していますが、精度については疑わしいものが含まれているのも事実です。そんな中、「絶対に知るべき情報」を紹介してくださっているのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、3月30日に行われた東京都の緊急会見で、専門家である医師が根拠に基づき自分の言葉で語った知見を抜粋・要約して記しています。
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2020年4月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
新型コロナ感染拡大と「腑に落ちる言葉」
新型コロナ感染が拡大する中、東京都が4月30日(月)に緊急会見を行いました。SNSでは小池知事の少々(?)高圧的な態度や、緊急会見を夜間に行うこと、自粛を求めるだけで補償に言及しない姿勢への批判の嵐でしたが、個人的には実に意義ある会見だったと受け止めています。
特に、厚生労働省対策本部クラスター対策班の西浦先生(北海道大学大学院教授)の解説と、記者の質問への回答がとてもわかりやすかった。この内容をきちんとメディアが伝えるだけで、世間にうずまく不安の解消につながると確信できる、質の高いものでした。
その反面、記者さんの質問は、少々首を傾げたくなるものも正直あり、「もう少し、適切かつ意義ある質問ができるだけの最低限の知識と生活者目線を持ってくれよ!」と私の脳内のライオンは大暴れです。
とはいえ、むしろその足りない部分を、専門家の先生方が補っていた記者会見だったので、よけい見応えがあったのかもしれません。
そこで今回は記者会見での「絶対に知るべき情報」を抜粋して、みなさんにお伝えします。…とその前に。厚労省のクラスター対策班が設置された経緯から説明しておきましょう。
2月25日、政府は「新型コロナウイルス感染症対策本部会議」を開催し、「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を決定。その中で「新型コロナウイルス感染の流行を早期に終息させるためには、患者クラスター(集団)が次のクラスター(集団)を生み出すことを防止することが極めて重要である」という認識が示されました。
それをうけ厚労省は、国内の感染症の専門家の方々で構成される「クラスター対策班」を設置。対策班は、クラスターが発生した自治体と連携して、クラスター発生の早期探知、専門家チームの派遣、データの収集分析と対応策の検討などの業務を行います。
では、本題にもどりましょう。「知るべき情報」を記者会見から抜粋し、以下に要約しました。
【夜の街での感染について】
- 感染源が分からない患者の確定日別での分析を実施。夜間から早朝にかけての「接待飲食業の場」での感染者が東京都で多発していることが明らかになりつつある。
- 発生場所の特定は、東京都内の保健所の積極的疫学調査データを整理し分析している。最近2週間の30%の患者が特定業種の場での曝露が疑われた。
- ただし、保健所の積極的疫学調査に応じない患者も多く、介入が一部困難であることが想像される一方で、積極的に対策を講じなければならない数の伝播が始まっていると考えられる。
【記者からの質問と西浦先生の回答】
「夜の接待飲食店という特定業種に絞った根拠は?」
- 行動履歴は東京都での積極的疫学調査に基づいているので、確実にここで感染したという瞬間自体は見られない。しかし、行動履歴を聞く限り他の店には行ってないケースや、夜の街で複数軒の場所に行かれている人が多い。
- 繰り返すが、接待飲食業で、夜間から早朝にかけて集中しているのが特徴。
「パチンコや、マージャン店、性風俗などでの感染が疑われる事例は?」
- パチンコ、麻雀などの遊戯場での報告は今のところない。性風俗に関しても東京都内では報告はない。他の都市では疑われる事例がありそうという情報はある。
「今後の感染爆発の兆候を早めにつかむには、具体的にどういった調査をすべきか?」
- 感染者数を固唾を飲んで見守っているが、現時点で感染者数の爆発的な増加が本格的に始まった証拠はない。夜の街での伝播、特定の業種での伝播を止めれば制御できる可能性があるデータと判断している。
「今までどおりのPCR検査を行っていくということか?抗体検査のような大規模な調査を行わないのか?」
- PCRの患者数は、全感染者中の氷山の一角でしかないが、爆発的な患者数の増加がない、蓋然性が高いことを僕たちで確認している。
- 抗体調査は、人口の何%が感染してるのかをリアルタイムで理解するために実施するもの。今警戒すべきは2~3日ごとに倍々で感染者が増え始めていないことをしっかりと確認し、もし増えているということがあれば、速やかに対策を実施する必要がある。
- 例えば、帰国者・接触者相談センターを通じて受診した外来患者数を見ると、発熱し電話相談をして受診した人の数が診断される前の段階で見られる。それが増加傾向にあるかどうかが見られるし、他にも多角的なデータを使って確認しつつ、その報告をする。
【記者からの質問と大曲先生の回答】
※大曲先生は国際医療センターの医師
「そもそも軽症・重症の基準はなにか?」
- 基準の決め方で数が全然違ってくるのでとても難しい問題。あくまでも私個人の意見ということで聞いて欲しい。
・症状でいえば、微熱が出る、喉が痛い、ちょっとせきが出る程度にとどまり、なおかつ呼吸が苦しくない、酸素の量に異常がない場合は軽症、あるいは中等症。 - ただし、高齢の人の場合、状態が悪くなる可能性は多少高めなので、慎重に判断をする。
他にも色々ありますが、SNSやワイドショーがこぞって批判している点のみを今回は取り上げました。
このように専門家の先生の話を聞くととても腑に落ちます。ひとつひとつが確固たる根拠に基づいているからです。
そして、先生たちはそれを「根拠」にしながらも「完全」ではないという謙虚さを大切にしています。白と黒、黒とグレー、できることできないこと。そのすべてを「自分の言葉」で発信しているのです。
ところが、それらが政治家や役人の「言葉」に変わると、たちまち「信頼できない情報」になってしまうのが、残念でなりません。
リスクコミュニケーションの不完全性が、さまざまな憶測や不信感につながるということ、メディアや政治家はもっと気に留めて欲しいと思います。
リスクコミュニケーションについてはこちらに書きましたので、ご確認ください。
みなさんのご意見もお聞かせください。
image by: Camillo Cinelli / Shutterstock.com
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2020年4月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。