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国民無視と「後ろめたさ」安倍前総理の辞任劇が憲政史上最低な理由

9月16日、菅義偉新内閣が発足。同時に8月24日に歴代1位となった安倍晋三前総理大臣の連続在職日数は2822日で終焉を迎えました。安倍前総理が連続在職日数1位となるまで健康不安を口にせず、記録を更新するや辞任を表明したことを「国民に対し不誠実」で「憲政史上最低の身の引き方」だと断じるのは、メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さんです。山崎さんは、安倍前総理自身も後ろめたさを感じていた証拠として、辞任表明の会見で漏れ出た“ボロ”を鋭く指摘しています。

安倍晋三前首相「辞任」のこと

2822日に及ぶ安倍政権が終わった。この政権を如何に評価するかは、政治的な立場や支持政党により自然変わって来るだろうから、今これを語ることはしない。そのかわりに、政治家として我が身を処するに当たってのそのあり方についてここでは考えてみたいと思うのである。

結論から言えば、憲政史上最低の身の引き方だとこれを断じたい。理由は国民に対し不誠実であったからである。それを以下に検証する。

総理会見によれば、6月の定期検診で持病再発の兆候が見られると指摘され、7月中頃から体調に異変が生じ、体力をかなり消耗する状態となり、8月の上旬には潰瘍性大腸炎の再発が確認された。とある。(筆者要約、以下同じ)

8月は診断が確定したという事実確認だけだから、7月中頃には職務遂行に支障が出始めていたことになる。つまり、健康面で重大な問題を抱えた人間がほぼ2カ月の間、この国の行政府の長であり、自衛隊の最高指揮官であった訳である。

さらに会見では、(今後の治療として)新しい薬の投与を始めた結果、効果は認められたものの、この投薬はある程度継続的な処方が必要であり、予断を許さないものである。と続けた。つまり薬が効く、効かないにかかわらず「予断を許さない」状態であることは事実として変わらないことがこの時点において既に分かっていたということである。

この状態について総理自身も「病気と治療を抱え、体力が万全でないということの中、大切な政治判断を誤ること、結果を出せないことがあってはならない。国民の負託に自信を持って応えられる状況でなくなった以上、総理大臣の地位にあり続けるべきでないと判断した」と語っている。総理自身の言葉を100%信じるにしても、8月上旬には辞任すべきだったことになる。

あまり指摘されていないが、括弧付きで書いた「(今後の治療として)」という文言は過去時制の述部と共に使うのは極めて不自然な表現である。ここに時系列を有耶無耶にしようとする話者の心理を見出すことができるように思う。つまり随分前に判明していた過去の事実をつい最近の出来事のように思わせたい気持ちが言葉として表れてしまったのである。もしかしたら故意ではなく、そういった心理に引っ張られてうっかりそんなふうに言ってしまったのかもしれない。

総理には明らかに後ろめたいところがあったのである。言うまでもなくそれは総理大臣連続在職日数歴代最長記録である。ただこの記録欲しさに辞任のタイミングを遅らせたのである。事実、記録達成日は8月24日、辞任の意向を表明したのは8月28日のことであった。こんなにも露骨にせざるを得ないほど「予断を許さない」状態だったことがよく分かる。

それにしても一国のリーダーが個人の栄誉のためだけに国家あるいは国民を2カ月もの間「大切な政治判断を誤る」かもしれない状態のまま放置したのは大問題である。この一点において、憲政史上最低の身の引き方と断じるのである。

本当は記録更新を目前にしながらの辞任というのが一番カッコ良かった。どんなに偉大な記録であっても所詮は個人のこととして、国家国民のためならそんなもの軽く手放せるような、そんな人物であって欲しかった。

この事実を歴史は記述しなければならない。安倍総理の歴代最長記録を語る時、この暗部を決して忘れてはならないのである。

それにしても、この2822日もの間、一度も選挙に勝てなかったどころか一矢を報いることすらできなかった野党はどうにかならぬものか。さらに「自民党に人なし」ということを露呈することになった与党も大概と言えば大概である。日本の憲政、民主主義とは所詮はこんなものかと思う時、天を仰ぎたくなる人の気持ちがよく分かるのは自分だけだろうか。

image by:Drop of Light/Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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