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【書評】なぜ歴代天皇は「紙幣の肖像画」として描かれないのか

2024年度に刷新される我が国の紙幣ですが、これまで一度も天皇が肖像画として描かれたことはありません。その理由はどこにあるのでしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが取り上げているのは、そんな疑問を含めた歴史上の謎を考察する一冊。柴田さんが「正解」と言う、著者が展開する「天皇が紙幣に登場しない理由」は、確かに納得の内容です。

偏屈BOOK案内:三上喜孝『天皇はなぜ紙幣に描かれないのか 教科書が教えてくれない日本史の謎30』

天皇はなぜ紙幣に描かれないのか 教科書が教えてくれない日本史の謎30
三上喜孝 著/小学館

この本は小学館が開設している「BOOK PEOPLE」サイトに、31回にわたって連載した「日本史の迷宮」の書籍化だ。日本の歴史を通史的に述べたものではなく、特定の政治史について分析を加えたものでもなく、天下国家を論じたものでもない。「細かいところにこだわることで、歴史の見方が変わってくる」という歴史の考え方を目指したもので、珍しいタイプの歴史読み物である。

第一章・歴史の断片からいにしえ人の暮らしと心を読む
第二章・時空を超えて歴史は再生産される
第三章・災害や自然環境の変化が人びとの意識を変える

ちょっと構えた章題だが、気にしないでパラパラ眺めて面白そうなところだけ読めばいいのだ。いずれも著者がここ10年ほどの間に関わったり考えたりしたことを述べたものであり、著者自身の「体験的歴史学」といえる。

聖徳太子は本当に「万能の政治家」だったのか、手塚治虫はなぜ「火の鳥」で騎馬民族を描いたのか、「源義経=チンギス・ハン」説の誕生と拡大のメカニズム、広開土王碑の謎3題、豊臣秀吉と砂糖の知られざる関係とは、過去の自然現象の歴史記録は何を語りかけているのか、等々バラエティ豊かである。

「天皇はなぜ紙幣に描かれないのか」という考察がある。歴史上の人物が近代以降に再生産されていくことに一役買っているものの一つが、紙幣の肖像画である。聖徳太子は昭和5年(1930)から昭和59年まで、高額紙幣の顔だった。ある年代以上の人は、聖徳太子の名前と顔を覚えている。聖徳太子が紙幣から姿を消した真相は不明だ。もっと高額紙幣発行のため、という温存説もある。

日本の紙幣に描かれた最初の歴史上の人物は、明治14年(1881)の神功皇后である。なぜ当時の政府は、神功皇后をいち早く紙幣に登場させたのか。「征韓論」の高まりの中で、「三韓征伐」の伝説を持つ神功皇后がクローズアップされたのである。その後に発行された紙幣4種に、武内宿彌、菅原道真、和気清麻呂、藤原鎌足が選定された。なぜ紙幣には天皇の肖像画は選ばれないのか。

貨幣は人の手から手へ渡っていくものである。その過程で、穢れたものになっていくというのが貨幣の宿命なのである。穢れはまた、伝染するものであるとも考えられていた。つまり貨幣を通じて、穢れが伝染していくと考えられていたのである。貨幣と穢れは、人びとの意識のなかで分かちがたく結びついていたのである。一方で天皇は「穢れ」を遠ざけるべき存在と考えられてきた。(略)紙幣に天皇を描くことは、天皇と穢れを結びつけることになるから、これにはかなりの精神的抵抗が存在したのではないだろうか。

そういう解釈を見るまでもなく、御真影(天皇の肖像)は穢してはならない存在であるというのは、ある年代以上の日本人の共通の認識であったから、「なぜ紙幣には天皇の肖像画は選ばれないのか」という疑問に対して、著者の推理は正解である。現状、わたしの財布には野口英世が数枚しかない……。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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