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中国を「為替操作国」に認定せぬ米国の意図。監視リスト入りは継続

米国の財務省が、ベトナムとスイスを「為替操作国」に認定したと新聞各紙が伝えています。2015年に現在の審査基準となって以降、「為替操作国」認定は中国以外では初とのこと。その中国と日本は引き続き監視リストに指定されていて、今回はインド、タイ、台湾も監視リストに加えられました。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんが、「為替操作国」についてどのように新聞が報じてきたかをチェック。外交交渉のカードとして利用してきた実態を浮かび上がらせています。

「為替操作国」について新聞記事はどう報じてきたか

きょうは《読売》から記事を拾います。経済面の小さな記事ですが、米国がベトナムを「為替操作国」に認定したとありました。経済通にとっては何でもない記事かもしれませんが、スイスも同じく「為替操作国」とされ、中国と並んで日本も「監視リスト」入りをしたようです。きょうは「為替操作国」を検索します。まずは《読売》9面の記事、見出しから。

米、ベトナムを「為替操作国」
スイスも 日中は「監視リスト」

米財務省が主な貿易相手国・地域の為替政策について分析した報告書の中で、経済制裁の対象となる「為替操作国」(米国への輸出を有利にするために自国通貨を意図的に安値誘導している国)に、新たにベトナムとスイスを認定したという。動向を注視する「監視リスト」には日本や中国など10カ国・地域を指定。

今年1月の前回報告では、米中貿易協議の合意を受けて、中国を「為替操作国」から外していたが、今回「監視リスト」に戻している。米財務省のホームページから当該リポートを探すと、「監視リスト」には中国、日本、韓国、ドイツ、イタリア、シンガポール、マレーシア、台湾、タイ、そしてインドの10カ国・地域が指定されている。さらに、次のように…。

「報告書は、ベトナムとスイスの両方が、審査期間中に2015年の貿易円滑化・貿易執行法(2015年法)に基づく3つの基準すべてを満たしていると結論付けた。財務省は、報告書の中でベトナムとスイスの分析を強化し、2015年法に従って各国との2国間関与の強化を開始する。この取り組みには、通貨の過小評価と外部不均衡の根本的な原因に対処するための特定の政策行動を伴う計画の策定を促すことを含む」

ベトナムとスイスについては、「為替操作国」認定の3つの基準に全て合致したので認定したのだという。今後、それぞれとの厳しい交渉のなかで通貨の切り上げを要求し、場合によっては関税を掛けることになる。さらに、両国政府に対して、為替過小評価の原因を取り除く政策的な努力をしろと迫っている形だ。
Treasury Releases Report on Macroeconomic and Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the United States | U.S. Department of the Treasury

●uttiiの眼

「3つの基準」とは、「〈1〉対米貿易黒字が年間200億ドル以上〈2〉経常収支の黒字が国内総生産(GDP)の2%以上〈3〉継続的で一方的な為替介入」。

「為替操作国」に認定することは、為替を米国に有利な方向に誘導するため、関税を武器として、最終的には相手国の通貨切り上げを要求していく手段であり、「監視リスト」に加えたり出したりすることも、各国をけん制するための道具になっているようだ。

今回の措置は、ベトナムとスイスの「為替操作国」認定だが、最も大きな出来事は中国を「監視リスト」に入れたことの方ではないかと思われる。バイデン政権成立直前の時期にこれがどんな意味を持つのか、やがて米中対立の展開の仕方の中に、その答えが表れてくるのかもしれない。

【サーチ&リサーチ】

《読売》のサイト内12件を見ていこう。

2016年11月10日付
前回の米大統領選で勝利を収めたトランプ氏がどのような経済政策を採用するのかが「不透明」だとする記事の中で、トランプ氏が選挙中、中国を「為替操作国」認定することを示唆してきたと不安そうに書いている。

*《読売》もヒラリー・クリントン押しで、トランプ氏が勝ったあとも、「自国第一主義」は、「世界の貿易を停滞させ、各国の反発を受けるのは必至」と批判していた。

*トランプ氏の大統領就任1年にあたっての記事でも、対北朝鮮外交ともからむ中国の「為替操作国」認定は、民主党はもちろん、共和党の中でも支持を得られないだろうというタッチの記事。そして…。

2019年8月7日付社説
タイトル「米中対立激化 市場の混乱回避へ責任自覚を」のなかで、次のように書いている。「懸念されるのは、対立が通貨の分野にも広がったことである。中国・人民元は約11年ぶりに1ドル=7元台に下落した。米財務省は「ここ数日、中国は通貨切り下げ措置をとった」と指摘し、中国を「為替操作国」に指定した」と。そして、今年1月に続く。

2020年1月14日付
「NYダウ終値、83ドル高の2万8907ドル」の記事中、「米国が、制裁の対象となる「為替操作国」の指定から中国を解除すると報じられ、米中貿易摩擦が当面は和らぐとの期待感が相場を下支えした」と(実際に13日に解除。監視リスト入りは継続)。

●uttiiの眼

中国の「為替操作国」認定は1994年が最初で、そのあとは2019年8月、激しい貿易戦争の最中で行われるまでなかった。上述したように、「3つの基準」があるが、基準を満たせば自動的に認定されるのではなく、“政治”的に運用されているのだろう(第3項目はどうにでもなる)。

2016年の大統領選挙中は激しく中国を非難していたトランプ氏も、就任直後に「中国は為替操作をしていない」と明言するなど、トーンダウンしていた。どうも、本当に深刻になるまで、中国の「為替操作国」認定の話は、米国ナショナリズムの定番ネタのようなところがあったのかもしれない。直接交渉で貿易戦争が一段落した今年1月に解除され、今また「監視リスト」に入れられた。

image by: Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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