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菅首相の陰湿な正体。「一斉PCR発表」の広島県が国から受けた仕打ち

多くの国民がその対応の遅れを強く感じている菅政権の新型コロナ対策ですが、「地域の独走」は決して許されないようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、最大80万人を対象とする一斉PCR検査の実施を発表した広島県に対して、菅政権が科した陰険きわまる仕打ちを強く批判。さらに、現在の厚労省のPCR検査方針が改まらければ緊急事態宣言を繰り返す羽目になるとの見方を示しています。

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広島県へ菅政権のつれない態度。80万人PCR検査への嫌がらせか

「感染源」をなくし、「感染経路」を断ち、「抵抗力」をアップする。感染症の拡大を防ぐための鉄則である。この国の新型コロナウイルス対策はそれをどこまで実行しているのだろうか。

感染経路の遮断。緊急事態宣言を出すなどして移動の自粛を呼びかけている。

ヒトの抵抗力アップ。菅首相は、集団免疫の獲得をめざすため、2月末までにワクチン接種をはじめる意気込みだ。

だが、こと感染源の排除に関する限り、今も、これまでも、本気で取り組んできたとは言い難い。

感染源は、いうまでもなく新型コロナウイルスだが、ヒトなど生物の体内に入り込み、その細胞を利用して生き延びる。だから、宿主であるヒト、つまり感染者が感染源ともいえる。

この流行病の特徴は、無症状の感染者が多いことである。感染を知らないまま普通に生活している無辜の人々があちこちに移動し、他者と接触し、ウイルスをまき散らしている。

だが日本政府がPCR検査の対象としているのは症状のある人、または感染した人の濃厚接触者である。無症状だと、受けたいと思っても、相手にしてもらえない。

つまり、日本の新型コロナ対策では、三つの鉄則のうち、検査と隔離の徹底による「感染源」排除が、あえて無視され続けてきた。

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その状況を変え、無症状感染者をつかむべく、広島市内において一斉PCR検査をしようとしているのが広島県である。広島市中、東、南、西の4区の住民と就業者あわせて最大80万人を対象とする大規模検査で、2月中には「態勢を整えたい」(朝日新聞)という。

ところが、その一斉検査を1月15日に発表したとたん、広島県は国から予想外の仕打ちを受けた。

その前日の14日には、西村経済再生相が、広島市を「緊急事態宣言に準じる地域」にする方向を示していたのだが、PCR検査実施を発表した翌日の16日になると、姿勢が一変した。「準じる地域」とは認められないと広島県に通知してきたのだ。

感染拡大で病床が逼迫し、飲食店への時短要請の効果を高めるべく、「準じる地域」への指定を心待ちにしていた湯崎英彦知事はがっくりと肩を落とした。「準じる地域」になれば、1月18日から2月7日まで、国の補助金の増額によって「宣言地域」と同様、休業・時短に応じた店への協力金が1日4万円から6万円に引き上げられる。その目算が外れたのだ。

直近1週間、広島市の新規感染者数(人口10万人当たり)が16.3人となり、13日時点の25.7人より「想定以上に改善した」というのが、西村大臣の言い分だった。

たしかに広島市の新規感染者数は減少傾向にある。ただでさえ緊急事態宣言のようなことはしたくなかった菅政権が、「準じる地域」とはいえ、慎重になるのはわからぬでもない。

それにしても、わずか2日で態度が変わるとは。そこに、別の理由があるのでは、と勘繰りたくもなる。たとえば政府方針に反してでも80万人PCR検査を進めようとする広島県への陰険きわまる一種の懲罰とみることもできるのではないか。まさかとは思うが、菅政権ならそういうこともやりかねない。

だが、湯崎知事は、広島市での80万人検査を決行するかまえを崩さない。

問題は方法だ。それだけ大人数の検査をどうやってこなすのか、まだ詳細は発表されていない。市内2カ所にあるPCR検査センターを拡充するといっても限度があるだろうし、一度に多数の検体を調べ、陽性反応があったグループのみ個別検査するプール方式を採るにしても、80万人分ともなれば作業量は膨大で、スタッフを揃えるのが大変だ。検査を拡充せよと言い続けてきた筆者としては、期待が大きい分、不安もぬぐえない。

迅速かつ大量に検査する方法はないものか。そう思っていたところで耳にしたのが、ノーベル賞受賞者、本庶佑・京大名誉教授の提案だ。

「神戸市のメーカーが開発した自動PCR検査システムなら、1,000台用意すれば1日250万件の検査が可能です」

テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』で、本庶氏はそう語った。

この日、本庶氏は大隅良典東京工大栄誉教授とともにリモート出演し、山中伸弥京大教授、大村智北里大特別栄誉教授を含む4人のノーベル賞学者による共同声明を発表した。その中身は概ね、以下の通りだ。

医療機関と医療従事者への支援の拡充▽PCR検査能力の大幅な拡充と無症候感染者の隔離の強化▽ワクチンや治療薬の審査・承認は、独立性と透明性を担保しつつ迅速に▽科学者の勧告を政策に反映できる制度を確立する。

このうち、PCR検査の大幅拡充について、本庶氏は歯切れ良く持論を展開した。

「いまだに検査数が少ない。中国のように地域ごと全検査・隔離するのが理想だが、現実的に日本では難しい。だから、少なくとも感染したのではと思ったら即座に検査を受けられる体制を作るべき。今、業界支援という形で何兆円もばらまいているが、検査にお金を使うほうが断然コスト的にも社会的にも有効だ」

そして、具体的な大量検査の方法として紹介したのが前述の自動PCR検査システムだ。

「神戸の会社で開発されている自動PCR検査システムを搭載したトレーラーなら、12時間で2,500件、1,000台用意すれば1日250万件の検査が可能だ。1台1億円ほどなので、1,000億円で実現できる。無症状感染者の隔離によって、宿泊先のホテルや、食事を届ける飲食業界、生産者にもプラスになる」

どうやら、川崎重工業が検査機器大手のシスメックスなどとともに開発したシステムを指しているようだ。8つのロボットからなり、そっくりトレーラーに積載して移動できる。検体採取から分析、陰性・陽性の判定までをロボットが自動で行うため、受付から結果通知まで80分ほどですみ、検査料も抑えられるという。まずは空港での実用化をめざしているようだが、12時間で2,500検体もの処理ができるとなれば、広島で計画されているような地域一斉検査にも威力を発揮するのではないだろうか。

こういう大規模検査には国の支援が欠かせないが、問題は、先述したように、政府が無症状感染者の発見に消極的であることだ。

なぜそうなのか。政府対策本部の専門家会議や厚労省クラスター対策班の関係者で組織された「コロナ専門家有志の会」のサイトに、次のような説明がある。執筆者は中島一敏・大東文化大教授だ。

インペリアル・カレッジ・ロンドンの報告は、一般市民に広く検査を行うよりも、日本が行っているような感染者の接触者調査の方が、感染予防効果は高いとまとめています。…検査で「陰性」という結果がでたとしても、安心はできません。PCRの感度は70%程度であり、約3割は、本当は感染しているのに「陰性」と結果がでる(偽陰性)からです。感染しているのに「陰性」と結果が出た方が感染予防の不十分な行動をとると、他の方への感染につながるかもしれません。…保健所が行う接触者調査と、無症状の方にランダムに検査を繰り返す方法を比べた研究もあります。濃厚接触者に自宅待機などの対策をしっかりとってもらうと、感染者が64%減少するのに対し、毎週5%の住民にランダムに検査をしても、2%しか減らせません。

首相や閣僚を主要メンバーとする政府対策本部。その下部組織である分科会(尾身茂会長)や厚労省御用達の専門家らがこのような考え方なのだから、政府が無症状者への検査に後ろ向きなのはあたりまえである。そもそもPCR検査で偽陰性を問題にしているのは日本くらいのものではないだろうか。

厚労省医系技官のトップ、医務技監をポスト創設以来3年にわたってつとめ、昨年8月、定年退官した鈴木康裕氏の、「PCR検査は重症者に限定すべき」という方針から厚労省官僚や政府対策本部の閣僚たちはいまだに抜け出せないでいる。

「感染症ムラ」と揶揄される専門家たちは、国交省所管の「GoToトラベル」に対して異論を吐いても、厚労省のPCR検査方針については批判しない。それどころか、支持しているのだ。

これでは、容易に「感染源」は消滅せず、よほどワクチンが有効でない限り、緊急事態宣言を繰り返す羽目になってしまうだろう。

image by: 首相官邸

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