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なぜ日本の政治家や役人は、自制し耐える若者に感謝を示せないのか?

新型コロナ対策分科会の尾身茂会長が「コロナ専門家有志の会」のnoteで、人と人との接触機会を減らすようにと20代~50代の“若い世代”に向けたメッセージを発信し拡散を呼びかけました。50代はもとより、政府やマスコミの20代~40代を“若者”と括ってしまう傾向が「メッセージの伝わらなさ」に繋がっていると指摘するのは、メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さんです。山崎さんはさらに、補償金制度などの枠組みから漏れやすく、アルバイトもできない苦境でもじっと耐えている学生たちに対し、敬意と感謝の言葉があってしかるべきと、本当に響くメッセージのあり方を説いています。

メッセージのこと

日々報道される新型コロナウィルス感染者数の内訳を見て、どうにも腑に落ちないところがある。確かに、感染者の大多数は20代30代そして40代である。しかしこれを報ずるに十把一からげに「若者」と言うのは如何なものか。そもそも20代最初の20歳と40代最後の49歳では親子ほども年が違う。そうなると当然その行動様式も変わって来るし、もともとの行動様式が変われば期待される行動変容も自ずと変わって来る。本来なら個別に議論されるべき問題なのである。

これを「若者」として大雑把に括ってしまうから、メッセージの対象者からいつの間にか中年の40代が無意識的に外れ、悪者は20代30代、なかんずく毎日のように遊び回っている(かのように誤解されている)20代というような誤った誘導につながってしまうのである。しかし常識的に考えれば、30代40代はもちろんのこと20代もほとんどの人は社会人として働いている訳だからそうそう暇な筈もなく、暇人の定義に唯一該当しそうな学生もこの災禍にあってはとてものこと遊び回るほどの余裕があるとも思えない。

この世代に感染者が多いのは勤務時間の内外でウィルスに曝されることが多いからに他ならない。勤務時間内の話をすると、多くの場合50代ともなれば会社で役もつき、その職務は管理的な役割となるからリモートワークへのシフトも比較的容易である。一方、働き盛りの40代30代は前線配置、20代ともなれば配置先は最前線であろう。つまり実労働者として身体を張らなければならない立場なのである。この一点においてだけでも我々は彼らに感謝をしなければならない。災禍のただ中にあって実に経済を回しているのは彼らの勇気に他ならないからだ。こういったメッセージはただの一度も聞いた覚えはない。

さらに勤務時間外で言うと、仕事関係の飲食は(良し悪しは別として)この国の取引(社外・社内を問わず)の一形態となっている。これはある種の習慣(あるいは悪弊)と言えるものだから、なかなか簡単には変えられない。このようにもともと感染リスクが高い環境に身を置いている訳だから当然感染者も多く出ることになるのである。

こんなふうに考えを進めてみると、先の緊急事態宣言の隠れメッセージのようなものが見えて来るような気がするのである。「不要不急の外出や移動を自粛。特に『20時以降』の外出自粛を徹底」「飲食店は『20時以降』の営業を自粛」20時以降に始まる、感染リスクを高める行為と言えば飲酒である。つまりこれは禁酒法なのである。故に本当だったら「自宅以外での飲酒禁止」と言えば遙かに分かり易かったのである。

ところが総理自ら八人会食をするようなざまであるから、このような文言では到底言える筈もなく、結局は「不要不急の外出や移動を自粛。特に20時以降の外出自粛を徹底」といった、何が言いたいのか分からない指示になってしまったのである。言うまでもなく「ランチの自粛」など宣言内容の拡大運用であり、いくら苦し紛れのこととは言え、いささか無責任が過ぎよう。これでは飲食業は干殺しである。

国民の権利を僅かでも抑制しようとするなら、そのメッセージは厳に正直なものでなければならない。真に分かり易いものでなければならない。そこに少しでも逃げ道抜け道を設ければ途端にこの分かりづらさである。

最後に「若者(特に学生)」に対してもメッセージを発するべきだ、ということを強調しておきたい。コロナ禍において学費に見合う講義も受けられず、アルバイトも無くなり、さらには行動の自由さえも制限つきである。加えて学生という身分はしばしば補償金制度などの枠組みから漏れやすい立場でもある。にもかかわらずじっと我慢をしてくれている。本当の大人として彼らの忍耐に敬意を表すべきである。

やがて自分もそうなる老人の命が大切なのと同様に、かつて自分がそうであった若者の将来も大切なのである。行く道も来た道も我がことと思えば共に大切な筈である。

だからメッセージを伝えよう。政府のメッセージを吟味していたら上述のようにきりがない。人から人へ気持ちを伝えることは相互理解の第一歩だ。そして相互理解は寛容さへとつながって行く。10代未満から100歳超まで等しく苦難の内にあるのだから、この寛容の精神はいついかなる時であっても持ち続けていたいものである。

image by:Opat Suvi / Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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【著者】 山崎勝義 【月額】 ¥220/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 火曜日 発行予定

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