MAG2 NEWS MENU

国産ワクチン誕生せず。日本が科学・医学の基礎力を喪失したワケ

5月15日現在、日本で接種されている新型コロナワクチンはファイザー製のみで、モデルナ製も近く承認されると伝えられています。どちらもタイプはmRNAワクチン。7700万人に摂取した結果は効果が非常に高く、「データを見る限りワクチンを打たない手はない」と、CX系「ホンマでっか!?TV」でおなじみの池田教授も予約を済ませたそうです。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』で池田教授は、国産ワクチン承認の目処が立たない現状を科学・医学的基礎力を喪失させた政策のせいと指摘。ジェネリック推奨も新薬開発の障壁で、医療費を抑えるなら「無駄な健康診断を止めるべき」とタブーにも切り込んでいます。

COVID-19対策はワクチンから治療薬へシフトするか

新型コロナウイルスの流行は第4波に突入して、感染者と死者はこれからうなぎ上りに増えそうである、今最も有効な対策はワクチンをなるべく沢山の人に可及的速やかに接種することであるが、国民の命よりオリンピック開催の方が大事らしい政権は、やっているふりだけで、全国民への接種は遅々として進まない状態だ。

根っこにある問題は、日本が科学・医学的な基礎力を喪失して、国内産のワクチンを開発する力を喪失したことだ。米、英、独などの先進国が次々にワクチン開発に成功して、中国やロシアまで独自のワクチンを作ったのに対し、日本だけが後塵を拝しているのは、日本が20年くらい前から基礎的な科学に金をつぎ込むのを惜しんで、大学や研究機関の科学者や技術者を冷遇したためだ。尤もロシア製、中国製のワクチンは変異株には無効のようだけれどもね。

2004年に国立大学を法人化して、予算と人員を削るようになって以来、日本の科学研究力は徐々に右肩下がりになって、画期的なイノベーションを起こせる余地は乏しくなってきた。研究にはムダと余裕が必要だという事を理解せずに、目先の経済合理性ばかり追求するようになると、パンデミックのようなクライシスを乗り越える画期的な技術(新薬とかワクチン)を開発することは極めて難しくなる。

最近は健康保険組合からも、ジェネリック薬を使いましょうといった勧誘がしばしば発せられるようになった。少しでも医療費を安くしたいという事で、厚労省から指示が来ているのだろうが、ジェネリックを優遇すると、新薬を開発しようとしているまともな製薬会社の業績を圧迫するので、新薬開発はますます困難になってきたのだろう。

無駄な金を使わないという事ならば、症状がない人に定期的に健康診断を受けさせるのをやめる方が、はるかに有効なのだけれども(健康診断を受けても受けなくても、死亡率に差はないという外国の複数の調査結果があるが、日本ではそういう調査自体をやらないようだ)、健康診断というシステムが確立している日本で、健康診断やらなくてもいいですよというと、職を失う人がいっぱい出るので、やめられないのでしょうね。

ワクチンの話に戻るとして、アメリカのCDC(アメリカ疾病予防管理センター)の最近の発表では、mRNAワクチンを接種した7700万人のうち5800人が新型コロナウイルス感染症を発症し、重症化したのは396人、死亡が74人とのことだ。ワクチンを接種した人の感染率は0.008%、重症化率は0.0005%、死亡率は0.0001%とワクチンの効果は歴然としている。ワクチン接種後、アナフィラキシーや副反応といった“直接”ワクチン接種に起因する死亡例はCDCを信じる限りないようである。この結果を見たら、ワクチンを打たない手はなさそうだ。

日本では、現在は高齢者に優先的に接種をしているが、流行を抑えるという意味では、あまり外出しない高齢者より、働き盛りで、リモート勤務が難しい壮年に接種した方が、はるかに有効である。6か月くらいしか効果が続かないワクチンを五月雨式に打っても、しばらくすればワクチンの効果が切れて再感染して元の木阿弥になる、といったことを書いたり話したりしていたところ、住んでいる八王子市から、ワクチン接種クーポン券なるものが送られてきた。65歳以上の対象者16万人に対して2000人分のワクチンが用意してあるので、4月1日午前9時から先着順で、電話やインターネットで予約を受けつけるとのことだった。

私の接種の権利を、若い人に譲ることができるのならば、そうしたいところだが、どうもそういう制度はなさそうだ。いくら私が主張したところでシステムが変わることはあり得ないので、それならば、予約してみようかという事で、私は電話で、女房はインターネットで試みたが、一向に繋がる気配はない。開始後10分ほどして、予約は終了しました、というメッセージが出て、予約はとれなかった。女房は時間の無駄だったと怒っていたが、もう少し効率的な方法はとれないものかしらね。

4月の終わりになって、市から「新型コロナウイルスワクチン接種予約の再開」というハガキが来て、5月の5日午前9時から予約を再開するという。今度は5・6月分で27万回分あるというので、試してみたら、案外すんなりと予約が取れた。

八王子市で用意してあるワクチンはファイザー社のもので、今のところ、モデルナ社のものと並んで、最も予防効果が高いようだ、アストラゼネカやジョンソン&ジョンソンのワクチンは血栓ができることがあるらしく、さらには変異株に対して予防効果が低いようだ。この2社のワクチンはmRNAワクチンではなく、弱毒化したアデノウイルスに、新型コロナウイルスの遺伝子を組み込んで、細胞に感染させるタイプで、今のところ性能はmRNAワクチンに及ばない。尤も、mRNAワクチンとても、新たな変異株が出て来たら効かなくなる恐れなしとしない。

ウイルスの変異は偶然なので、存在するウイルスの数が多ければ多いほど、いろいろなタイプの変異ウイルスが出現しやすくなり、その中に既存のタイプのウイルスより感染力が強いウイルスがあると、そのウイルスはいっきに拡がることになる。感染者が少なければ、ウイルスの総数も少ないので、感染力が強い変異が出現する確率も低い。変異しやすいタイプのウイルスによる感染症が、ひとたびパンデミックになると、なかなか終息しない理由はここにある。(メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』より一部抜粋)

image by: Shutterstock.com

池田清彦この著者の記事一覧

このメルマガを読めば、マスメディアの報道のウラに潜む、世間のからくりがわかります。というわけでこのメルマガではさまざまな情報を発信して、楽しく生きるヒントを記していきたいと思っています。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 池田清彦のやせ我慢日記 』

【著者】 池田清彦 【月額】 初月無料!月額440円(税込) 【発行周期】 毎月 第2金曜日・第4金曜日(年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け