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「不要不急」に大きな落とし穴。政府の四字熟語が国民に全く響かない訳

5月、連日ご機嫌斜めな様子で「不要不急」を口にした小池都知事。プロ野球やJリーグの試合への無観客要請はすぐに緩和する一方で、都内にある国立の美術館や博物館には語気を強めて休業を要請し、個人的に遺恨でもあるの?と疑問符を浮かべた都民国民も多いのではないでしょうか。国民に命令や要請をする政治家の言葉が心に響かず届かないのはなぜなのでしょう。メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さんは、四字熟語に落とし穴があるとわかりやすく解説。曖昧な表現を許す記者たちの責任についても言及しています。

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不要不急のこと

延長されていた第3次緊急事態宣言が再延長された。東京で言えば、宣言の発出が4月25日(第3.0次)、その延長が5月12日(第3.1次)、そして再延長が6月1日だから、第3次緊急事態宣言という名の下でだけでも既に通算で3度目ということになる。こう出鱈目に宣言ばかり重ねて行くなら最早6月1日からのそれは第3.2次緊急事態宣言とでも呼んだ方がいいような気さえする。

何が言いたいのかというと、例えばオリンピック直前の会見などで「春の『一度』の緊急事態宣言で最悪の状況から何とか脱することができた」などとしたり顔で発言するような真似は決して許さないということである。4月の年度初めからで言えば、3ヶ月のうち(今のところ)ほぼ2ヶ月が緊急事態宣言下にあることになる。軽々な物言いが許されよう筈がない。

それにしても、それが第何次であろうが緊急事態宣言が出される度にどうしても気になることが一つあるのである。それは「不要不急」という四字熟語の定義についてである。

言うまでもなく「不要」も「不急」も否定の接頭漢字「不」をもって熟語となっている訳だから、その反対は、と言うと実に分かり易く「要」と「急」である。まとめると、

「要」=必要(必要性)
「急」=緊急(緊急性)

ということである。つまり「不要不急」とは必要性も緊急性もない状況のことを言う筈なのである。ここで言う必要とは例えば衣・食・住などに関わることであろう。緊急とは例えば警察・消防・救急などのことであろう。これは別に極端例という訳ではない。言葉通りに読めばこうなるというだけのことである。

然るに一方では必ずイベント等に関するルールも同宣言内では毎回規定されている。例えば「収容人数5000人以下かつ収容率50%以内」というふうにである。ここで当然疑問が生じる。必要不可欠あるいは緊急不可避なイベントなどこの世に存在するのだろうか。存在するとしたら具体的に何がそれに当たるのだろうか。この辺のところは一切定義されていないどころか、その試みすらなされていない。

ここに大きな落とし穴がある。宿命的に四字熟語というものには定型化した分だけ本来の意味が希釈されてしまうという傾向がある。容易に形骸化してしまうのである。我々が「一石二鳥」という熟語を用いる時「一つの石」も「二羽の鳥」も意識の埒外にあると言っていい。ただ一挙にして両得することを相手にも自分にも分かり易く言っているに過ぎないのである。この形骸化は人口に膾炙するほどに加速する。

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この現象をより現代社会に合わせて言うならカタカナ・ビジネス英語の濫用がそれに近い。原義は(ほとんどの場合分からぬまま)ともかく、何となく分かったような気がすれば(あるいは気にさせれば)それでいいというやつである。

かくしてスカスカに形骸化した「不要不急」が世に出回ることになってしまうのだが、残念なのは本来そういった言葉の定義に厳格な筈の記者たちがこれに関しては少しも突っ込んだ議論をしかけなかったということである。

「総理!不要不急のイベントとは具体的に何ですか?」「それがなぜ他のものよりも必要性があり、緊急性があると言えるのですか?」「それならどの点において必要不可欠であり、緊急不可避なのか教えてください」こういった質問がなぜ出なかったのか。日本のマスコミも地に落ちたものだ(仮に酌むべき事情があったとしてもである)。

リモート授業を受けながらも夜になると駅周辺で街飲みをする若者がいる。リモート勤務をしながらも休みになるとアイドルなどのイベントに出張って行く大人もいる。スカスカな「不要不急」では何も引っ掛からないし、何も止められないのである。

コロナ以来「科学的根拠に基づいた」といった発言をよく聞く。しかし伝えるべき言葉自体の定義があやふやでは伝わる筈の内容も伝わらない。実に虚しいことである。情報が溢れる今だからこそ、却って一つ一つの言葉の定義の重要性は増している。これを忘れてはいけないと思うのである。

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image by:StreetVJ / Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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